東洋大・迎は成長の階段を上る過程で、父の、ランナーとしてのすごさを感じるという photo by Wada Satoshi2025年1月2日・3日に行なわれる第101回箱根駅伝(217.1km/往路107.5km・復路109.6km)。箱根…
東洋大・迎は成長の階段を上る過程で、父の、ランナーとしてのすごさを感じるという
photo by Wada Satoshi
2025年1月2日・3日に行なわれる第101回箱根駅伝(217.1km/往路107.5km・復路109.6km)。箱根では19年連続シード権獲得中の東洋大の16人エントリーメンバーには4人のルーキーが名を連ねた。
そのなかのひとり、迎暖人は高校から陸上を始めたが、父は酒井俊幸監督と同級生という背景を持ち、大学入学後に着実に力をつけてきている。
まだまだ伸びしろ十分な原石だが、箱根路を任されることになれば、チームに貢献する走りを見せるつもりだ。
【ルーキー4人がエントリーメンバー入り】
今季の東洋大は、絶好調だった前半戦からは一転して、駅伝シーズンに入って、出雲駅伝11位、全日本大学駅伝13位と苦しい駅伝が続いた。だが、ようやく箱根駅伝を前に足並みが揃い、調子を上げてきている。
「復帰してすぐに全日本に出場した4年生たちが、それを機にだいぶよくなってきたことで、チームのムードもよくなってきました。
あとは1年生ですね。入学してすぐにAチームに参加していた1年生も、いったんは故障などがあったりしたのですが、だいぶよくなってきて、いい意味で戦力が整ってきています。あとは、どれだけ箱根に合わせられるかだと思っています」
酒井俊幸監督がこう話すように、箱根駅伝では最上級生とともにルーキーたちが、20年連続シード権の鍵を握ることになりそうだ。
箱根駅伝の16人のエントリーメンバーに、東洋大は1年生が4人も名前を連ねた。その4人とは松井海斗、宮崎優、内堀勇、そして迎暖人だ。
埼玉栄高(埼玉)出身の松井は、5000mでインターハイ7位、全国高校駅伝では2年時に5区区間賞、3年時に1区2位と結果を残した。今年は3月末の世界クロスカントリー選手権、8月末のU 20世界選手権で世界の舞台も経験しており、この世代を代表する選手と言っていい。10月上旬に首のヘルニアの手術をし、戦列を離れていた時期もあったが、箱根には間に合わせてきた。
東洋大牛久高(茨城)出身の宮崎は全国高校駅伝1区3位の実績がある。巨摩高(山梨)出身の内堀は高校時代にハーフマラソンを1時間04分20秒の好記録で走っている。共にロードを得意とし、トラックでも高校時代に5000m13分台をマークしている実力者だ。
松井、宮崎、内堀の3人は、5月の関東インカレに対校選手として出場するなど春先から即戦力として活躍してきた。
【陸上歴3年で三大駅伝の舞台に】
一方、3人とは対照的なのが迎だ。
拓大一高(東京)時代は全国区での目立った活躍がなく、今季の関東インカレも早々に鉄紺のユニフォームに袖を通した同期の活躍を見守るしかなかった。
それでも、春からAチームで過ごし、めきめきと力をつけてきた。
「彼らの背中を追いかけないといけないですし、この3人だけじゃないんだぞっていうところを見せたい」
入学直後にはこんなことを口にしていたが、出雲駅伝では宮崎と共に、ルーキーのなかで真っ先に学生三大駅伝の出走メンバーの座を掴んだ。
「試合にたくさん出させていただいて、そのなかでも出雲駅伝はすごくいい経験になりました。ほかの3人と違って(鉄紺の公式)ユニフォームを着たことがなかったのですが、初めて着てみて、ユニフォームを着ることでしかわからない緊張感であったり、プレッシャー、周囲の期待だとかをものすごく感じました。
応援してくださる方々のために頑張ろうって思ったので、それを箱根につなげて、しっかりチームに貢献していきたいと思います」
出雲は4区10位と少しほろ苦い駅伝デビューになり、続く全日本は不出場だった。それでも、箱根駅伝には1年目から同期の3人と共にしっかりと16人のエントリーメンバー入りを果たした。
「3人にはまだまだ追いついていない」と迎は謙遜するが、先を走っていた同期たちの背中はすぐ目の前にある。
迎の父・忠一(ただかつ)さんは、元・実業団ランナーで、現在はJR東日本でコーチを務めている。東洋大の酒井俊幸監督とは、学法石川高とコニカミノルタでチームメイトだった。また、コニカミノルタ(当時はコニカ)ではニューイヤー駅伝で初優勝を含む2度の優勝に貢献している。
父の1万mのベストは28分08秒45で、ハーフマラソンも1時間02分14秒で走っている。同じ競技に取り組んでいるからこそ、父のすごさにも気づくことができた。
「自分はまだまだ父のベストには届かない。厚底シューズもない時代だったのに、自分以上のタイムを持っているので本当にすごいなと、常々感じています」
そんな父親に憧れて陸上の道に進んだのかと思いきや、「父親と一緒なのがちょっと嫌だったので......」と、中学時代はバスケットボール部に所属していた。
陸上を始めたのは高校から。つまり、陸上歴3年で、東洋大のAチーム入りを果たすのだから、やはりポテンシャルは高い。
【出るからには経験ではなく勝負を】
1年間をAチームで過ごし、11月には、日体大競技会の1万mで28分台(28分56秒50)をマーク。上尾シティーハーフマラソンでは1時間03分38秒の好記録で走った。トラックでもロードでもきっちりと記録を残し、調子は上々だ。
「ケガなく1年間を乗り切ったことが非常に大きいですし、それが自分の強みであると思っています。
夏を我慢して、その夏の答え合わせとして秋に1万mとハーフを走りましたが、自分が思っていたよりもタイムを出すことができました。
(入学時は)同期の3人とは結構な差があったんですけど、少しずつではありますが、縮まってきている。高校の時には考えられなかったほど成長できていると、自分でも感じています」
迎が描いている成長曲線は、自身の想像をも超えるものだったようだ。
ケガが少ない要因を問うと、「やっぱりご飯をいっぱい食べることですね。寮のご飯はおいしいです」と笑顔で答えてくれた。
そんな迎には、酒井監督も高い期待を寄せている。
「1万mとハーフマラソンも、1年生の中では良いタイムで走っています。箱根も経験することができれば、来年以降、主力として面白い選手になるんじゃないかと期待しています」
一戦一戦の経験を力に変えてきただけに、来季以降はさらなる飛躍を見せてくれそうだ。
伸びしろは未知数。東洋大での4年間でどんな成長を見せるか楽しみだが、箱根で出番を勝ち取った暁には、もちろん単なる経験の場にするつもりはない。
「7区か8区あたりを狙っていますが、5区以外であれば、どの区間でもチームに貢献したい。お世話になった4年生の方々が笑って終われるように、自分がチームを支えるつもりで走ります。自分の強みは安定感。任せていただいた場合は、しっかりと堅実にタスキをつなぎたい」
成長著しいルーキーは、こんな頼もしい言葉を口にする。20年連続のシード権獲得はもちろん、チームを上位進出に導く走りを、迎は誓っている。