河村は身近な目標を一つひとつクリアすることで大きな目標に向かっている photo by Getty Images後編:河村勇輝のアメリカ挑戦2カ月後の思い河村勇輝がアメリカでの挑戦を始めて約2カ月。NBAとマイナーリーグGリーグの両方でプレ…


河村は身近な目標を一つひとつクリアすることで大きな目標に向かっている

 photo by Getty Images

後編:河村勇輝のアメリカ挑戦2カ月後の思い

河村勇輝がアメリカでの挑戦を始めて約2カ月。NBAとマイナーリーグGリーグの両方でプレーするツーウェイ契約を手にして以降、与えられたプレー機会で存在感を発揮し続けている。

12月下旬、多くのNBA関係者が集まるなかで行なわれるGリーグ・ウィンターショーケースでも目覚ましい活躍を見せている。

多くのファンから寄せられる期待が大きくなる一方、河村は自身の現在地について、いつものように浮かれることなく分析する口調にも、成長の跡を感じさせてくれる。

【「まずは本契約を勝ち取ること」】

「(アメリカのバスケに)徐々に慣れてきていると思いますけど、慣れっていう言葉はすごく難しいですよね。バスケットボールの慣れっていうのはすごく大事なことですが、"NBAで試合に出られないこと"に慣れてはいけないので」

 今季のグリズリーズは20勝9敗(現地12月22日時点)と群雄割拠のウェスタン・カンファレンスでも2位と好調だ。いわゆるスモールマーケットのチームながら、故障者が異常なほどに頻発した昨季以外、近年常に上位に入ってきているのは特筆に値する。それはつまりチーム内の競争が激しいことを意味し、まずは順調なスタートを切った河村も時間をかけて丁寧に育ててもらえると決まったわけではない。

 グリズリーズはもともとガード陣の層は厚く、プレシーズン(オープン戦)の時点ではそれこそが河村のツーウェイ契約獲得の障壁と見られていた。開幕後もその点は変わらず、2024-25シーズンが進むにつれ上位進出が狙えると判断した場合、ツーウェイ契約の一枠を空けてでもより手薄なビッグマンの補強に動くことも考えられる。

現在の人気を考えれば信じられないと思えるかもしれないが、河村に故障があった場合、パフォーマンスの質が落ちた場合、何らかのネガティブな変化(=カットなど)が起きても不思議はないのだろう。

「まずは本契約を勝ち取ること。そこが渡米を決意した際の目標の最終点ではあります。本契約を取り、そのあとに20分、30分も試合に出してもらえるようなプレーヤーになっていければいいと思いますけど、まだまだ今の力では現実的ではありません」

 いつでも自分を客観的に見ることができる河村は、現実を熟知してか、あくまでNBAでの将来を見据えたうえでの危機感を、もちろん忘れたわけではない。

【「身近な目標を達成してからこそ、その先が見えてくる」】

 キャンプまで遡っての約3カ月を振り返り、河村はサイズ以外の多くを備えた選手であることを示してきた。ディフェンス面ではやはり高さに欠けるが、見た目以上に強靭で押し負けない身体を持っている(渡米後も「体重は変わっていない」というが、ストレングスの強度が増した印象がある)。

 そのなかで、最大の課題はやはりジャンプシュートの精度向上、ゴール周辺のフィニッシュ力の強化だろう。特に現代のNBAで鍵となる3ポイントの成功率はNBAで18.2%、Gリーグでも23.5%に過ぎず、改善は必須だ。

「NBAで活躍していくために、3ポイントの確率は必ず上げていかないといけない部分です。相手の(ウィングスパンの)長さに慣れは必要です。あまりプレッシャーを感じないかなと思っている距離感でシュートを打っても思った以上に長く、コンテスト(邪魔)を感じることがすごくあるので」

 河村は渡米当初から「アメリカのバスケに慣れたい」と話していたが、シュート時の"相手ディフェンスとの距離感"は何よりも慣れが必要な部分に違いない。そこでのアジャストメントを進めれば、精度は自然と上がっていく。シュートが決まるようになれば、河村が"僕の強み"と語るドライブがより容易になる。

 勉強熱心な河村ならいずれその感覚も掴むだろうが、問題はそれをいつ頃までに果たせるか。好素材がいくらでも出てくるアメリカでの挑戦は、時間との戦いでもある。NBAではより迅速な適応が求められ、それを成し遂げられるかどうかこそが今後の見どころであり、試練になってくるのかもしれない。

「昔から僕は身近な目標を立て、それを達成したあとに見えてくるものがあると思っています。そういった形で今までバスケットボール(のキャリア)、人生を歩んできました。来年、再来年での本契約を目指しながら、今はありがたいことにツーウェイ契約をいただいているので、とにかく1年目はアメリカのバスケットボールに慣れ、NBAのコートに立ったときには全力でプレーして、Gリーグの試合に出た時には勝利に直結できるようなプレーヤーになれるように。そのふたつを目標にしています」

 河村の軌跡がハリウッド映画であれば、NBAデビュー、メンフィスの人気者になったところでストーリーは終了でもいい。そこでエンドロールが上がり、ファンから拍手喝采を浴びるだけの価値のある道のりは歩んできた。しかし、現実のバトルはまだまだこれからも続き、もちろん河村自身にもその心構えはできている。"ファン・フェイバリット"からさらに次のステップを目指し、より厳しく、それでいて楽しい日々が目の前に広がっているのだろう。