米ツアー3シーズン目となった2024年、古江彩佳は快挙を成し遂げた。7月「アムンディ エビアン選手権」で日本勢4人目のメジャー制覇を達成。さらに最少平均ストロークの選手に贈られる年間タイトル「ベアトロフィ」を日本人として初めて獲得した。目…

古江彩佳が日本人初「ベアトロフィ」獲得の舞台裏を明かす

米ツアー3シーズン目となった2024年、古江彩佳は快挙を成し遂げた。7月「アムンディ エビアン選手権」で日本勢4人目のメジャー制覇を達成。さらに最少平均ストロークの選手に贈られる年間タイトル「ベアトロフィ」を日本人として初めて獲得した。目標だった8月「パリ五輪」代表入りを目前で逃す失意を糧に勝ち取った栄光の舞台裏を明かした。<全2回の後編>

<前編>「ゴルフ人生最高の一年」は悔し涙から始まった/古江彩佳インタビュー

周囲を驚かせたアマ時代

今季フェアウェイキープ率ツアー5位と曲がらないショットの原点は

現在契約するブリヂストンの担当者は、当時アマチュアだった古江の練習ラウンド中のやり取りに驚くことがあったという。「いまの“振りすぎ”じゃない?」――。プロでもしっかり振る、振り切る、といったシンプルなポイントにフォーカスする選手が少なくない中で、力感を抑えてスイングの再現性を高めることを当たり前に意識、実践していたからだ。

「自分の持っているポテンシャルを超えちゃうと、バランスが崩れやすくなって曲げやすくなるっていうのがある。練習でヘッドスピードを上げるためにとか、振ってもブレない身体を作るために(マン振りを)する時はたまにありますけど」

ジュニアは参考にしたい 古江彩佳の強じんな体のつくり方

ジムでのフィジカルトレーニングはしないスタイル

大事なのは18ホール、ひいては4日間72ホールを通して高水準でプレーをそろえること。タフな米ツアー転戦中に身体のケアを任せるトレーナーを帯同せず、ジムでのフィジカルトレーニングを避けているのも理由がある。「私が気分屋でずぼらなだけっていうのもあるかもしれないですけど…」と笑ってから明かす。

「その日次第で練習量って分からない。トレーナーさんをつけていると、自分の中で『しなきゃいけない』って意識が出ちゃうのもイヤで。コースでの練習量は多い方だと思いますし、睡眠もしっかり8時間くらいは確保したい。トレーニングをしようと思ったら、1日が足りないんですよね。ケアも、たまに日本に帰ってきてしてもらうことはあるんですけど、(連戦中だとスイングの)感覚が変わっちゃうタイプ」

メディア経由で芽生えた意識

まだ24歳でも身体の変化には敏感

ドライビングディスタンスは昨季から5yd近く伸びて250.41ydを記録。エビアンでも1年前はウッド系が必要だったホールでアイアンを握れるなど、好成績をけん引した部分だが「自分(のフィジカル)は何も変わっていないので。ドライバーとのマッチング」と、今季投入したブリヂストン B3 MAXの恩恵であることを強調する。その上で24歳という年齢、身体の変化を踏まえて今後新たなトライも考えてはいるとも。

ありのままで戦っているようで、随所にこだわりがのぞく転戦スタイルは会場内でも一貫している。キャディのマイク・スコット氏に信頼を置きつつ、コースチェックを任せることはしない。「1回は、その場所から実際に打っておきたい。『もうこのコース知ってるでしょ?』とか、『毎回この量やるの?』って思われてるかもしれない。練習自体が好きなわけではないので、今でも足りないとは思っているんですけど、それでも目いっぱいやってる方かな」

2024年 スタッツ&ランキング一覧

シーズンのスタッツも自分について書かれた記事も基本的に見ない

相棒にちょっと申し訳なさそうに言ったが、これだけコンスタントに上位で戦って稼いでくれる“ボス”のなんと心強いことか。今季米ツアー24試合で予選落ちは6月のダブルス戦「ダウ選手権」のみ。3月「ファーヒルズ朴セリ選手権」(初日103位)、「フォード選手権」(同96位)、4月「JMイーグルLA選手権」(同99位)と大きく出遅れた試合でも巻き返してカットラインをクリアした。ブレない積み重ねがベアトロフィ獲得につながっている。

これまで日本勢が届かなかった栄誉ある賞を意識するようになったのは、シーズンも終盤に入ってからのこと。もともと熱心にスタッツをチェックするタイプではないこともあり、「メディアさんから質問されて、『私はそういう位置なんだ。いい位置にいるなら獲りたい』って」。エビアンに続く今季2勝目とともにターゲットができた。

2024年 ツアー戦績一覧

勝負弱さと決別 宮里藍の称賛

「重めです。軽くない」と掲げたベアトロフィ

最終戦「CMEグループ ツアー選手権」の3日目を終えた段階で平均ストローク1位のユ・ヘラン(韓国)にわずか「0.0002」及ばない状況。いつもならスタッツ同様、自分のプレーについて書かれた記事も見ない。ただ、この時ばかりは違った。「お父さん(日本にいるコーチの父・芳浩さん)が送ってきてくれた。やっぱり、お父さんも獲ってほしいと思っていたみたいで、情報を教えてくれました」。2人の最終日のスコア別にタイトルの行方を解説したものに目を通し、「『69』は絶対だなと思いました。向こうが『69』を出してきても、自分が『69』を出せば(2人受賞で)1位を獲れるのは記事で分かっていたので」とインプットしていた。

無欲でプレーした結果ではなく、はっきりと狙いに行って出した「68」での逆転戴冠だから喜びも大きい。「それこそ、オリンピックは2回とも落ちているので。メディアさんにいろいろ聞かれて、自分の中で意識しすぎて落ちているって捉えているので。今回も質問されて、頭に入っていて、自分も獲りたい。ここは負けられない、ここで獲らないとダメだって。自分の中では大きなことって3回目だと思ったので、やっとプレッシャーに負けずに獲れたなって」

2021年「東京五輪」、今年8月「パリ五輪」と惜しくも日本代表入りを逃してきた。日米で優勝を遂げ、メジャーの頂点に立った。周りがどれだけ認めてくれても、自分の中に見え隠れする“勝負弱さ”を払拭するためにベアトロフィが必要だったと明かす。

「何しているんだろう」 五輪出場を逃して悔し涙

涙を糧に日本人初のトロフィ「重めです。軽くない」

来季4年目の米ツアーでもっと上を

アマ時代から追求してきた安定感の象徴ともいえる年間タイトル。オフのイベントで顔を合わせた宮里藍さんからも「ホントに獲れるものじゃない。すごいよ」と称賛されて充実感でいっぱいになった。最大のロールモデルといえる元世界ランキング1位の宮里さんでも、平均ストロークは2009年の4位がキャリアベストだった。「アメリカで戦った大変さとか、いろいろな経験を踏まえて褒めていただけたのかなって思います。うれしいですね」

ゴルフ人生最高の1年を過ごし、米ツアー4年目となる新たなシーズンを見据える。「2024年の自分を超えたい。まずは1勝目指して、まだできていない複数回優勝に挑戦したい。それこそ、ベアトロフィなんて何回も獲れたら、強い選手と思ってもらえるはず。それも目指したいなって思います」。プロになる前は日本で全うするつもりだったキャリア。いまは、米国でかなえたい夢がいっぱいある。(聞き手・構成/亀山泰宏)