前回4区の悔しい結果から今季完全復活を遂げた駒大・山川 photo by SportsPressJP/AFLO2025年1月2日・3日に行なわれる第101回箱根駅伝(217.1km/往路107.5km・復路109.6km)。「3強」の一角で…
前回4区の悔しい結果から今季完全復活を遂げた駒大・山川
photo by SportsPressJP/AFLO
2025年1月2日・3日に行なわれる第101回箱根駅伝(217.1km/往路107.5km・復路109.6km)。「3強」の一角である駒澤大は3年生エースの佐藤圭汰をケガで欠きながらも、主将の篠原倖太朗(4年)を中心にチーム全体で成長を続け、駅伝シーズンで存在感を発揮してきた。
もし今回勝てば、チームの学生三大駅伝歴代最多優勝回数が30回となる。
多彩な区間配置が可能となる現在の戦力は、それを達成できるレベルにある。
【佐藤欠場のなか、2年生世代が台頭】
駒澤大が箱根駅伝の総合優勝に向け、その機運を高めてきている。
史上初の2年連続学生駅伝三冠を狙った前回は、1区から3区までエース級を並べて勝負に出たが、3区で佐藤圭汰が青山学院大・太田蒼生(現4年)の爆走で逆転され、4区終了時点でその差を1分26秒差まで広げられ、勝負を決められてしまった。
今季はここまで、出雲と全日本は宿敵・青学大には先着。出雲は最終6区のエース対決で、篠原倖太朗が國學院大の平林清澄(4年)に突き放されたが、2位。全日本は16位で迎えた3区から追い上げを開始し、最終8区で山川拓馬(3年)が驚異的な走りで青学大をかわすと、2分33秒差でスタートしていた國學院大を28秒差まで追いつめて2位に入った。
その後、11月7日の上尾ハーフでは出雲2区区間4位だった帰山侑大(3年)が1時間01分59秒で2位になったのを筆頭に、全日本で駅伝デビューした村上響(2年)と谷中晴(1年)がそれぞれ3位と4位、吉本真啓(4年)が7位、小山翔也(2年)も1時間02分38秒で9位と続き、存在感をアピールしている。
「チームに勢いがついたといえば、上尾ハーフよりも出雲でしょうね。私は事あるごとに『出雲で勝てなかったら、全日本や箱根は戦えない』と、夏から口うるさく言ってきたので。選手たちはそこをすごく重要視していました。
そのなかでエースの篠原をもってして負けたところが、逆に言えばチームに火がついた部分だったと思います。『篠原さんだけに負担かけちゃいけない』と一人ひとりが思い始めてチームが変わったというところですね」
藤田敦史監督は、ここまでの戦いぶりをこう振り返る。
全日本アンカーとして驚異の走り見せた山川の印象が強いが、藤田監督がその成長ぶりを認めるのが2年生世代。出雲では島子公佑が5区区間2位と好走すれば、全日本では村上が5区区間5位、安原海晴も6区区間3位と結果を出した。また1年生でも谷中が4区区間3位で三大駅伝デビューを果たした。全日本では調整がうまくいかず2区区間17位と不本意な結果に終わった桑田駿介も、出雲では1区区間6位とその力は証明済みだ。
「そのなかで迎えた上尾ハーフで、チームとしてあれだけの成績が出せたことはチームの自信につながったということです」(藤田監督)
【山でも平地でも強みとなる山川と伊藤の存在】
島子は故障により、箱根のエントリーメンバー16人から外れたが、それ以外は楽しみなメンバーが順当に揃ったと、藤田監督は話す。そしてエントリー発表時の会見では「次の一手を打てるように」という言葉を口にした。
「前回は1区から篠原、鈴木芽吹(現トヨタ自動車)、佐藤圭汰と並べて、私も負けるはずがないと考えていました。ただ実際には、(3区で)逆転されたあとにチームに動揺が走り、追える力がなくなってしまったという課題を突きつけられました。
でも今回は、山の経験者(5区、6区)が平地を走っても戦えるだけの力をつけてきました。平地に山の経験者を回すのか、それとも経験者の強みを生かして山に配置するのか、いろんなバリエーションが出ています。その意味では、今年のチームは読みづらいチームでもあるかなと思います。相手の出方を待って、次の一手を打つことができるかなと思うので、そこを強みとして本番に臨みたいです」
全日本の8区で山川が爆走したあと、藤田監督は「彼を5区ではなく2区で使いたくなってきた」と話していた。その時点で山川自身は5区を志望していたが、12月の会見では希望区間を「2区と5区」と口にし、いずれの区間でも自分の強みを発揮する決意を見せた。
「2区は最後のほうに権太坂があり、20kmを過ぎたら、また急な上り坂が出てくる。自分のなかでは5区という気持ちもあるが、2区の上りでも勝負できるとも感じています。
もし5区なら、2年前に走ったときは、上りで(差を)つめられ、下りで離すというレースになりましたが、今回は逆に前半からつき離すような走りをしてみたい。2区なら最後の上りで勝負をかけるレースをしたいと思っています」
また、1年時には6区で区間賞を獲得しながら、前回はコンディション不良と故障の影響で6区の付き添いに甘んじた伊藤蒼唯(3年)は今季、出雲4区区間3位、全日本も3区区間3位と平地で勝負できるところを見せている。藤田監督からすれば、頼もしい戦力として信頼を置く一方、伊藤本人は箱根の希望区間を「復路9位」と挙げている。
「序盤は下り基調だし、裏のエース区間とも言われているので、他大学の強い選手がたくさんくる。今回は自分自身かなり自信をつけて箱根に臨むことができそうなので、そこでしっかり勝負をしたいと考えている」
もし山川が5区、伊藤が6区となれば、それぞれ1時間8分台、57分台を目指す走りができる。その一方で特に6区には前回区間12位と不本意な走りとなった帰山が、万全なら伊藤と同等かそれ以上の力を有しているため、5区の山川以外の候補も含めて、チームとして最も大きなアドバンテージとなる区間配置の幅に広がりが生まれている。
「篠原と佐藤以外にゲームチェンジができるような選手は多くないですが、山川と伊藤が平地でも走れる力をつけてきました。彼らが次のゲームチェンジをできる存在になれれば、次の一手がまた出てくるかなと思います。その辺りに期待をしながら、というところです」と藤田監督は、策を巡らせている。
【篠原&佐藤の二大エースはどの区間に?】
前回は集団走のほうが力を発揮できるという見立てから1区に起用された篠原は今季、主将としてチームを引っ張り、「それが自分の自信となって表れて出てきたと思う」と大八木弘明総監督が話すように、さらなる成長の跡を残してきた。単独走でも強さを見せ、全日本7区でも青学大の太田を上回り区間賞を獲得。今回の箱根では2区を希望している。
またケガで出雲と全日本を回避した佐藤は、前回トップを譲った3区で青学大・太田との再戦を熱望しているが、「万全の状態なら勝てるかもしれないが、今はまだ昨季のいい状態に近づいている段階なので、やってみないとわからない」(大八木総監督)という状況だ。
そのふたりをストロングポイントとして起用する区間はどこになるのか。また、前述の下級生たちの台頭、なかでも全日本で2区区間17位ながら、12月に10000mで28分12秒02と自己ベストを大幅に更新して自信を取り戻した桑田の起用法も気になる。往路も復路も期待を持てる候補者が揃う状態となっている。
「夏合宿の段階から、出雲と全日本は佐藤抜きで戦わなければいけないことは、チームとしても念頭に置いていました。そのなかで、これまで佐藤の代わりに出走できるというポジティブな発想で成長してきた駅伝未出走の選手たちが、数多く駅伝を経験できたのは非常にプラスに働きました。
青学大や國學院大に比べれば選手層は薄いかもしれませんが、箱根を走るのは10人。その人数を揃えれば戦うことができます」
藤田監督は、今季の流れを振り返りつつ、自信を見せる。
10000mの持ちタイムは、エントリー16名中6名が未出走のため上位10名の平均タイムは29分04秒37で出場21チーム中最下位だが、「ハーフマラソンの平均タイムを見たら上位にくると思うので、そこまで悲観する内容ではありません」と不安要素としては捉えていない。
果たして、指揮官として二度目の箱根を迎える藤田監督は、どんな区間配置で勝負をかけてくるか。青学大の原晋監督、國學院大の前田康弘監督との腹の読み合いも、注目される。