福田正博 フットボール原論プロ1年目でベストイレブンに選ばれた、鹿島アントラーズの濃野公人 photo by Getty Images【町田からベストイレブン受賞者が出てもよかった】 今シーズンのJリーグベストイレブンが決まり、2連覇したヴ…
福田正博 フットボール原論
プロ1年目でベストイレブンに選ばれた、鹿島アントラーズの濃野公人
photo by Getty Images
【町田からベストイレブン受賞者が出てもよかった】
今シーズンのJリーグベストイレブンが決まり、2連覇したヴィッセル神戸からはMVPの武藤嘉紀、大迫勇也、マテウス・トゥーレルが選ばれた。FWの武藤と大迫、センターバック(CB)のトゥーレルという攻守の軸が、存在感をしっかり発揮したからこそ辿り着いた2連覇だったと言える。
このほかの選手はGKが大迫敬介(サンフレッチェ広島)、DFが濃野公人(鹿島アントラーズ)、中谷進之介(ガンバ大阪)、佐々木翔(広島)。MFはマテウス・サヴィオ(柏レイソル)と知念慶(鹿島)。FWは得点王のアンデルソン・ロペス(横浜F・マリノス)、宇佐美貴史(G大阪)だった。
リーグ3位のFC町田ゼルビアからの選出はゼロとなったが、GKは谷晃生が選ばれてもよかったのではないかと思う。大迫敬介が相応しくないわけではないが、町田がリーグ最少失点をマークしたことを評価すべきという考えだ。ノミネートには町田のDF昌子源も入っていたが、どちらかがベストイレブンを受賞してもよかっただろう。
【驚きを与えた鹿島のふたり】
知念は今季、ランコ・ポポヴィッチ前監督のもとでボランチにコンバートされた。川崎フロンターレ時代はFWでプレーしていただけに大きな驚きを与えたが、ボランチになったことで彼の持ち味やプレースタイルが変わったわけではない。
FW時代から体を張るプレーを得意としていたが、それをボランチで発揮したということだ。相手のボールホルダーに激しくチェイスし、ボールを奪えば前に出ていって味方をサポートする。鹿島ではパートナーの佐野海舟(現マインツ)や柴崎岳が、知念の持ち味と足りない部分を理解してサポートしたのがよかった。これが川崎のようにパスを散らすスタイルのチームだったら、知念のボランチは成立しなかったかもしれない。
ただ、これまでチームの中心として試合に出てきたわけではない知念にとって、新しいチームで新しいポジションに挑戦し、つねに試合に出られたことがモチベーションになったのは間違いない。来季はどんなプレーを見せてくれるのか興味深い。
鹿島からはもうひとり、濃野がベストイレブンに選出された。関西学院大からプロ入りしたルーキーは右サイドバックながら9得点。チーム得点王の鈴木優磨の15ゴールに次ぐ数字を残した。大学時代にポジションを下げたというが、大津高時代にFWでプレーしていた片鱗を見せてくれた。今シーズン最大の驚きだった濃野が、今後どこまで成長を遂げるかは楽しみなところだ。
柏のマテウス・サヴィオは、今季リーグ戦全38試合にスタメン出場して9得点7アシスト。攻撃だけではなく、守備でもチームのために貢献できる。柏サポーターには怒られてしまうが、優勝を狙うクラブなら触手を伸ばしたくなる選手なのは間違いない。今オフの動向に注視したい。
9年ぶりにベストイレブンを受賞した宇佐美貴史は、今季はリーグ35試合12得点、8アシストをマークした。テクニックを存分に駆使するようなプレーは抑え、少ないタッチ数のなかで勝負を決める仕事に徹した。若い頃のような派手なプレーは見られないが、来年5月で33歳と円熟味を増す宇佐美は来季もさらに輝くことだろう。
【ベスト11以外にも活躍した選手たちが多い】
今回はベストイレブンに選ばれなかったものの、受賞していても不思議ではない選手は数多くいた。
まずは鹿島のFW鈴木優磨だ。Jリーグでは別格の存在感を放っている。今季はキャリアハイの15得点を決めたが、彼の仕事場はゴール前だけではなかった。もし彼がゴール前での仕事に専念できるメンバーが加われば、もっと多くの得点を期待できるはずだ。
夏場に広島に加入したMFトルガイ・アルスランは、14試合8得点で優勝争いの原動力になった。京都のラファエル・エリアスは、7月に加入して15試合11得点で残留に大きく貢献。この2選手がシーズン最初からJリーグでプレーしていたら、ベストイレブンに名を連ねていた可能性は高いだろう。
広島では中野就斗もよかった。3バックの右CBでリーグ戦全38試合にスタメン出場し、守備はもちろんのこと攻撃でも5得点とアピールした。川崎フロンターレではDF高井幸大がノミネートされたが、FWの山田新にとってもすばらしいシーズンとなった。序盤戦は途中出場が多かったが、6月からはスタメンに定着。リーグ3位となる19ゴールを決めた。高井と山田は、来季攻守の柱としてさらなる活躍を期待している。
その山田と同じく日本人最多となる19ゴールを決めたジャーメイン良(ジュビロ磐田)にとっても飛躍のシーズンになった。2018年に流通経済大からベガルタ仙台に進み、横浜FC、磐田と渡り歩き、ときにはサイドハーフで起用されたこともあったが、29歳にしてようやくセンターフォワードとして開花した。開幕2戦目の川崎戦では1試合4得点をマーク。J2に降格する磐田からチームでただひとり、ベストイレブンにノミネートされる活躍だった。
来季どんな選手が各ポジションの"シーズンの顔"となる活躍を見せてくれるのか。若手からベテランまで、ひとりでも多くの選手が躍動するシーズンになることを期待している。