世界の変化に追いつこうと、自らも変化を続ける日本サッカー界。女子は「プロ化」へと踏み切り、男子は「秋春制」へと舵を切る。だが、その変化に直面して、数々の「大問題」が発生。先日の皇后杯を例に、サッカージャーナリスト後藤健生が日本サッカー界に…

 世界の変化に追いつこうと、自らも変化を続ける日本サッカー界。女子は「プロ化」へと踏み切り、男子は「秋春制」へと舵を切る。だが、その変化に直面して、数々の「大問題」が発生。先日の皇后杯を例に、サッカージャーナリスト後藤健生が日本サッカー界に警鐘を鳴らす!

■皇后杯5回戦「大波乱はなし」も…

 12月14日、15日の週末に、第46回皇后杯全日本女子選手権の5回戦が各地で行われた。

 5回戦からプロのWEリーグ勢が登場し、なでしこリーグ勢の挑戦を受け、またWEリーグ勢同士の激しい戦いを繰り広げた。

 現在の女子サッカー界の「3強」は、間違いなく日テレ・東京ベレーザ、浦和レッズ・レディース、INAC神戸レオネッサの3チームだ。

 2021年に開幕したWEリーグでは、過去3シーズン、いずれもこの3チームが3位までを占めているし(優勝はI神戸が1回、浦和が2回)、現在、行われている2024/25シーズンでも前半戦の11試合を終えた時点で首位がベレーザ、2位がI神戸、3位が浦和となっている。

 一方、皇后杯でも、この3チームは2007年大会以来、すべての大会でタイトルを独占している状態だ。

 さて、週末に行われた皇后杯5回戦では、2024年のなでしこリーグで優勝したヴィアマテラス宮崎がWEリーグの大宮アルディージャVENTUSを1対0で下して準々決勝進出を決めた。

 堅守速攻のスタイルを貫いて、1部昇格1年目に優勝という偉業を達成した、そのプレースタイルがもたらしたアップセット(予想外の勝利)だったのだろう。

 しかし、その他の顔合わせでは、大きな波乱はなかった。

 WEリーグのAC長野パルセイロ・レディースと対戦した浦和は、シュート数22対4と長野を圧倒して2対0で順当勝ち。やはりWEリーグ対決となった試合で、ベレーザは前半、JEFユナイテッド千葉・レディースの堅守に苦しんだものの、後半ギアチェンジして猛攻を仕掛けて2対0で勝利。力の差を見せつけた。

 最も苦戦を強いられたのがI神戸。ちふれASエルフェン埼玉との試合は点の取り合いとなり、延長戦を戦った末にようやく勝利をつかみ取った。

 苦戦することはある。だが、最終的には「3強」は必ず勝利をつかみ取る……。男子の天皇杯全日本選手権では、ジャイアントキリングは珍しいことではない。J2リーグのチームが優勝することだってあるが、女子の場合、WEリーグとなでしこリーグの間の戦力差は年々、拡大しているし、WEリーグ内でも「3強」の地位は揺るがず、カップ戦でもその力の差を再確認する試合が多くなっている。

■3強の中で「最も苦しんだ」I神戸

 さて、「3強」の中でも最も苦しんだのがI神戸だった。エルフェン埼玉のホーム、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場での対戦だった。

 I神戸はキックオフ直後から個人能力の差を生かして、ボールを握って攻撃を続けたが、フィニッシュ段階でパスの乱れがあり、また、得意のサイド攻撃でもクロスの精度に欠けて、なかなか得点できなかった。I神戸のジョルディ・フェロン監督は、パスの乱れを修正するため、前半のうちに左ウィングバックだった桑原藍をシャドーの位置に回し、桑原をWBに移すなどポジション変更を行った。

 I神戸が攻めあぐね続けていると、19分にはE埼玉のDF岸みのりがCKからヘディングを決めて先制する。E埼玉にとっては、これがファーストチャンスだった。

 後半に入ると、FKからのこぼれ球を交代して入ったばかりの水野蕗奈が決めてI神戸が同点とし、さらに攻撃を続けたI神戸は70分に相手のハンドでPKを獲得した。ところが、カルロタ・スアレスが蹴ったキックは、E埼玉のGK浅野菜摘に弾き返されてしまう。

 そして、終了間際の87分には、今度はI神戸のハンドでE埼玉がPKを獲得。栃谷美羽が決めて(88分)、I神戸は土壇場に追い詰められた。

 だが、90分に左サイドから守屋都弥が上げたクロスに水野が飛び込んで、相手のGK、DFと競り合いながらヘディングでコースを変えてゴールに押しこんで延長にもつれ込んだ。

 この水野の同点ゴールは、フェロン監督が「練習はしている形」と語ったが、ゴール前に飛び込んでいった水野の勇気がもたらしたもの。水野はこのプレーで負傷して、交代を余儀なくされている。

■原因は「連戦による疲れ」じゃない

 こうして、なんとか延長戦に持ち込んだI神戸は、98分に土光真代からのロングボールを高瀬愛実が頭で折り返し、最後は成宮唯が決めて勝ち越す。日本代表経験者のプレーが生み出した決勝ゴールだった。

 PK失敗などを乗り越えての勝利だったが、大苦戦だったことは事実。フェロン監督は「守備が強く、FWの吉田莉胡というターゲットがいるやりにくい相手」と語ったが、E埼玉はリーグ戦では9位に低迷しているチーム。リーグで2位に付けているI神戸として予想以上の苦戦だったことは間違いない。

 試合後、フェロン監督は苦戦の原因をメンタル的なものと語った。

 I神戸は12月に入ってから3試合目だった。12月1日にはWEリーグの第11節でセレッソ大阪ヤンマーレディースと対戦。1対2で敗れている。これが、今シーズン初黒星だった。

 そして、8日には長崎のピーススタジアムでクラシエカップ準決勝を戦い、アルビレックス新潟レディースに1対0で勝利して決勝進出を決めている。

 クラシエカップは、いわゆるリーグカップだ。

「決勝進出を決める試合だったから、選手たちは集中して取り組んで力を出し切った。そして、勝利したと思ったら1週間後に別の大会(皇后杯)を戦わなくてはならない。これは連戦による疲れというより、メンタル的な難しさだ。3つの大会が重なっているが、こんなカレンダーはスペインでは経験したことがない」(フェロン監督)

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