西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 第28回 スウェーデン代表FWトリオ 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察し…
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第28回 スウェーデン代表FWトリオ
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。
かつてはワールドカップで準優勝や3位を経験している、古豪スウェーデン代表が復活の兆し。きっかけは久々に傑出したアタッカーが3人揃ったことにあります。
プレミアリーグのニューカッスルでプレーする、スウェーデン代表のアレクサンデル・イサク
Getty Images
【アタッカーに恵まれると強いスウェーデン】
スウェーデン代表は欧州の古豪と呼ばれる。1938年フランスW杯で4位、1950年ブラジルW杯で3位。1958年は自国開催で準優勝。1948年ロンドン五輪では金メダルを獲得した。ミランで「グレ・ノ・リ」のアタックラインを形成したグンナー・グレン、グンナー・ノールダール、ニリス・リードホルムのトリオが看板選手だった。
その後、低迷期に入るが1974年西ドイツW杯で復活して2次リーグに進出。この時はラルフ・エドストレームとローランド・サンドベリのコンビが活躍。
さらにまた低迷期の後、1994年アメリカW杯では3位。トーマス・ブロリン、マルティン・ダーリン、ケネット・アンデション、ヘンリク・ラーションと攻撃陣が充実していた。
ただ、そこからの低迷は長く、W杯では2018年ロシアW杯のベスト8が最高成績である。ズラタン・イブラヒモビッチという逸材を擁しながら、そこそこ強いという地位から脱していない。
UEFAネーションズリーグでは2020-21シーズンこそ最強のリーグAに属していたが、2024-25はリーグCで戦っている。しかし、ここにきて復活の兆候が表われてきた。来季はリーグBへの昇格も決まっている。
スウェーデンは伝統的に堅守のチームだ。統制のとれた守備の3ラインは定規で引いたような機能美を感じさせる。ただし、それだけではなかなか勝ちきれず、歴史を振り返るとスウェーデンが好成績を残すには複数の傑出したアタッカーが必要なようだ。
現在、久々に傑出したアタッカーが3人揃った。アレクサンデル・イサク(ニューカッスル)、ヴィクトル・ギェケレシュ(スポルティング)、デヤン・クルゼフスキ(トッテナム)のトリオである。
【久々に傑出したアタッカーが3人揃う】
ネーションズリーグ・リーグCのグループ1、スウェーデンは5勝1分の首位で日程を終えた。最後のアゼルバイジャン戦は6-0の大勝。クルゼルフスキが2得点、ギェケレシュは4得点だった。
スロバキア、エストニア、アゼルバイジャンと格下が相手だったとはいえ、19ゴールを叩き出した。ギェケレシュ9得点、イサク4得点、クルゼフスキ2得点と3人で15ゴール。この3人はそれぞれタイプがまったく違う。長身で頑健というスウェーデンの伝統的なストライカーでないのも興味深い。
3人とも背は高く、最も長身のイサクは192㎝あるが、空中戦に特化したタイプではない。スラリとした体型で足が長く、そのリーチを活かしたボールキープと懐から繰り出すようなキックが独特だ。ボールを持てば余裕綽綽で、底が知れない雰囲気を漂わせる。
ギェケレシュは187㎝で頑健そうな体格だが、こちらも空中戦より地上戦が得意。一瞬で加速するドリブルは驚異的でフィニッシュの冷静さ、無理な体勢からもねじ込めるキレとパワーは欧州でも注目のゴールゲッターである。
クルゼフスキは純粋なストライカーではなく、ドリブルとアシストに優れたチャンスメーカー。サイドアタッカーとして頭角を表わし、現在はトップ下で新境地を拓いている。懐の深いボールの持ち方はイサクと似ているが、クルゼフスキはより重心が低く、ボールを動かす幅や駆け引きで抜くドリブラーだ。
【プレースタイルの違いはルーツの違い】
3人のプレースタイルが違うのは、それぞれのルーツに由来しているように思える。
イサクはスウェーデンのソルナの生まれだが、両親はアフリカ北東部のエリトリア出身。イサクと同じくソルナ生まれのヘノク・ゴイトムはスウェーデンのアンダー世代代表で活躍した後、エリトリア代表になっている。現在40歳の先輩のスリムな背格好はイサクとよく似ていた。
スウェーデンの黒人選手としては1990年代に活躍したマルティン・ダーリンが有名だが、ダーリンは父親がベネズエラ人。イサクやゴイトムとは違って長身ではあるがガッチリした体型だった。イサクはこれまでいなかったタイプのアタッカーだ。
ギェケレシュは祖父がハンガリー人。ハンガリーはかつて1950年代には「マジック・マジャール」と呼ばれ、サッカー史上でも最強クラスの代表チームだったことがある。現在、ベストゴール賞にその名を残しているフェレンツ・プスカシュ、名プレーメーカーのヨゼフ・ボジク、「偽9番」で有名だったナンドール・ヒデクチなどの名手がいたが、パワフルでスピーディーな点取り屋だったシャンドール・コチシュがギェケレシュと似ている。
クルゼフスキはマケドニア系。パルマに所属していた時には監督から「モハメド・サラーに似ている」と評され、本人はケヴィン・デ・ブライネとエデン・アザールを参考にしていたそうだが、名前が同じせいかプレースタイルは旧ユーゴスラビアのデヤン・サビチェヴィッチを彷彿させる。サビチェヴィッチはモンテネグロ人なのでマケドニアではないが、粘っこいドリブルは東欧の香りがする。
【移民系選手が大きな力になる】
イサク、ギェケレシュ、クルゼフスキの3人はそれぞれ得点力があるだけでなく、アシストもうまい。3人が連係できるところが魅力的であり攻撃力を倍加している。加えて、3人とも守備ができる。前線で相手のビルドアップを阻止し、ハイプレスでボールを奪う能力が高いのは現代のアタッカーらしい。
スウェーデンは人道主義の観点から多くの移民を受け入れてきたが、近年では移民の失業率や犯罪率の高さから、国政を揺るがす社会問題となっている。ただ、サッカーに関しては移民系選手が大きな力になっているのは間違いない。同じく移民系選手だったイブラヒモビッチがそうだったように、現在はイサク、ギェケレシュ、クルゼフスキがスウェーデン代表を牽引している。
優れたアタッカーが複数いる時のスウェーデンは強い。逆に言えば、そうでない時は低迷していた。選手が均質的で、それが堅実なだけのチームにつながっていた。均質的なチームはまとまりがいい半面、小さくまとまる傾向がある気がする。メキシコも準強豪の地位から先へ進めていない。日本代表や韓国代表も均質的なチームだ。
欧州は移民の力でパワーアップしていて、フランス、ベルギーに続き、イングランドやドイツ、イタリアもそうなっている。スウェーデンは国情からするとむしろ遅すぎたくらいだが、ようやく低迷期を抜け出してジャンプアップする勢いを示している。
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