web Sportiva×BAILA special collaborationfeat. 田中佑美(陸上100mハードル)vol.2@前編 2024年4月、働く大人の女性向けメディア『BAILA』とのコラボ企画に初登場した田中佑美(富士通…
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feat. 田中佑美(陸上100mハードル)vol.2@前編
2024年4月、働く大人の女性向けメディア『BAILA』とのコラボ企画に初登場した田中佑美(富士通)のインタビューは大きな話題となった。ジャンルを超えたさまざまなメディアが取り上げ、ファッション姿を披露する彼女の違った美しい一面にSportiva読者も目を見張った。
ファッション撮影を楽しむ田中佑美選手
photo by Kojima Yohei
今回はその大人気コラボ企画の第2弾。パリ五輪を経験するなど激動のシーズンを終えた年の瀬、再びスタジオに訪れた彼女を囲み、女性誌で活躍中のヘア&メイクアップアーティスト、スタイリスト、カメラマンが集結した。陸上トラックから離れた田中佑美が見せた「オフの顔」とは──。
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↓↓↓【動画】田中佑美選手の生音声インタビュー【動画】↓↓↓
── ファッション誌『BAILA』とのコラボということで、さまざまな装いで撮影をしましたが、今日の感想はいかがでしたか(@BAILAでも異なる内容のインタビュー記事・写真を配信)。
「緊張しましたけど、以前から楽しみにしていたので、うれしかったですね。プロの方にメイクをしてもらって、ふだんは自分では手を出せないような合わせ方の服を着させてもらい、それを撮影してもらうことはなかなかない経験なので、すごく楽しい時間でした」
── やはりファッションやメイクに興味はおありですか?
「はい、いちおう女の子なので(笑)。すごくこだわっているわけではないんですけど、好きですね。基本的にふだんはジャージにスニーカー、そして申し訳程度のお化粧がスタンダードなので、たまに学生時代の友人とプライベートで会う時は、オトナになった姿を見てもらうために、自分なりにがんばって出かけるようにしています」
【悪い緊張なのか、いい緊張なのか】
── どうしても競技が中心になってしまう生活だと思いますが、プライベートの時間は大切にしていますか。
「はい。競技100パーセントの生活になってしまうと、結果が出なかった時、自分の人生や人間性すべてダメみたいに感じてしまうので。競技以外の楽しみや、ほかに大切なものがあることは、生きて行くうえで重要なことだと考えています。幸福度をキープすることにもつながってきますしね」
photo by Kojima Yohei
── たしかに精神の安定を図るためにも重要な考え方ですね。そこで今回は田中選手に、アスリートには必須のメンタル面にお尋ねしたいと思っています。「アスリートとメンタル」と聞いて、まず思い浮かぶことは何でしょうか?
「思うのは、アスリートのメンタルはけっして強くない、ということですね」
── アスリートだからといって、メンタルは鋼というわけではない、と。では競技をするうえで、田中選手はどのように自分の状態とメンタルの折り合いをつけているのでしょうか。
「その『折り合い』という表現がしっくりくるというか、試合に出場し、緊張状態になる時に心がけていることが何点かあるんです。まず、自分の緊張の対象が何かを見極めることです」
── 自分の置かれた状況を把握する。
「はい。たとえば、ほかの選手を見て『速そう』とか『調子がよさそう』『負けたらどうしよう』といったように、外に意識が向いて緊張しているようだと、これは悪い緊張だって。陸上はひとりで完結する競技なので、他人は関係ない。なので、他人が気になると、いい状態ではないと言えます。
逆に、自分の状態に向き合って『今日は身体のバランスが悪いから、これをしてみよう』とか『こういったことを心がけているから、今日はちょっとこういうドリルを挟んでみよう』といったように、自分の内側に対して何か思うことがあれば、これはいい緊張というふうに捉えているんです。
なので、それは悪い緊張なのか、いい緊張なのか──それを把握し、切り替えることが大事なことだと思っています」
【心は熱く、頭は冷静に】
── 緊張するにしても、しっかりと自分の内側へとシフトすることで、いい状態でスタートラインに立てるわけですね。
「はい。もちろん心臓はドクドクしますし、緊張しています。ですが、アドレナリンを興奮や楽しいといった方向に切り替えられるように、スタート前はコントロールしていますね」
photo by Kojima Yohei
── いい緊張との向き合い方ですね。では、競技するにあたり『心技体』すべてが必要だと思いますが、最も重要視している部分はどこになりますか。
「うーん、やはり『心』でしょうね。心が健やかではないと、技も体も成せないと思うので、心が一番大切だと思います。それに心が健やかではないと、人生も楽しめないと思っています。競技の前に、まず人生があるので」
── おっしゃるとおりです。陸上の短距離走はやはり、スタートが重要視されます。先ほどもスタート前に切り替えと言っていましたが、どのようなマインドでスタートに入っていくのでしょうか。
「心は熱く、頭は冷静に。後悔しないようにスタートしようと思い、それを口に出してつぶやいているんです」
── 声にして吐き出すんですね。試合の種類もいろいろあると思いますが、たとえばパリ五輪のような注目度の高い大会では、緊張の度合いも変わりますか。
「自分にとってかけているモノが大きい大会は、やはり違いますね。ただ、歓声が大きいほどテンションは上がるんです。プレッシャーがかかる大会で歓声が大きい時は、あえてそれに対して大きな声を出すというのも、私にとって対処法でもあるんです。たとえばパリ五輪では、ワーッて歓声が湧いたら、私も大声で叫び返していました」
── そうだったんですね。
「ほかにもプレッシャーに対する対処法はあって、パリ五輪の選考になった日本選手権では、自分の内側で『緊張する』と思うんじゃなくて、信頼のおけるチーム関係者に『私、緊張しています』と正直に伝えていたんです。内側にこもるのではなく、外側に向けて発散してしまう。これはとても有効だと思っています」
── しっかりとアウトプットして、気持ちを整理して本番に挑む、と。
「はい。そうすると自分の振舞いに引っ張られて、気持ちも上がっていくんです」
【ゲン担ぎは一切やらない】
── なるほど。レースは予選、準決勝、決勝と1日に何本も走ることになりますが、合間の空き時間はどのように過ごしているんでしょうか。
「レースに関係ないことを考えたり、しゃべったりしていますね。やるべきことは明確化されているので、そこで振り返る必要はなく、次のウォーミングアップに向けてリラックスしています。スマホでネットサーフィンをしたりSNSを見たり。あとはチームの他種目の選手と交流したり。学校の休み時間と同じような感じですね。ずっと緊張をしていても集中力がもたないので」
photo by Kojima Yohei
── では、なにかゲン担ぎをしたりとかは?
「それも、あまりないんです。ゲン担ぎって作ってしまうと、できなかった時のことを考えてしまうんです。国内大会ならまだしも、海外の大会のようなイレギュラーな状況だと、ゲン担ぎを遂行するのが難しくなるので、私はルーティンや勝負メシなども含め、一切やらないタイプなんです」
── 環境が変わればできなくなる可能性がある。
「それにゲン担ぎの始まりって、おそらく成功体験から来ていると思うんです。たとえば、右足からグラウンドに入って記録がよかったから、明日も右足から入ろう、みたいな。けど、毎日いいことが起こるはずもないので、あまり信じていないというほうが正しいかもしれません」
── リアルにはそうでしょうね。スポーツも含め勝負事というのは、『勝ち方のマニュアル』は基本ありません。だからこそ面白いものだと思うのですが、未知の状況に飛び込んでいくのは、お好きですか?
「そうですね。かなりプレッシャーのかかる、大きなストレスを抱える作業だとは思っています。だからこそ、それを楽しむために心の余裕が必要だなと思います。
結果が出るかわからないけど、今、こういうチャレンジをしている。しばらくやってみて、何だかうまくいかないこともあると思います。
そういう時に、心に余裕がなかったら『これはダメなんだ』ってパニックになってしまうでしょうが、心に余裕があれば『もうちょっとやってみるか』と思えたり、もう少し優しい感じで方向転換できたり。同じ状況に追い詰められても、その時に採る選択肢ってぜんぜん違うと思うんです。
答えのない問いを求め続けるアスリートであるからこそ、心に余裕を持って、競技を楽しむことを絶対に根底から忘れてはいけないと思っています。自分のこれまでの失敗も踏まえてのことなんですけどね」
【大事なことは箇条書きにして】
── 田中選手の競技はわずか10数秒で完結してしまうシビアさがありますが、そのなかで「最大瞬間風速」を出すために取り組んでいることはなんでしょう。
「レースに向けて、自分が何をすべきか、何をここでぶつけるのかを、やはり明確化することが大事だと思います。やることがわからなかったらパニックになっちゃうので、やれることを最小限、それこそ箇条書きで書き出しておいて『私は今から、これとこれをします』というようにしておく。
それぐらい確固たるものがあれば、あまり動揺することはないと思います。ものすごく忘れっぽいので、やることを絞っておかないと、忘れちゃうんですよ(笑)」
── あはは。田中さんの話を聞いていると、過去をあまり振り返らず、常に先を見据えたアプローチのように感じます。
「そうですね。よかった思い出を振り返るのも、それはそれで次へのプレッシャーになりますし、悪いことを振り返るのも、悪いイメージづけになってしまう。だからこれまでを振り返って『よくやった』とか『あの時はああだったな』というのは、引退してからでもいいと思います。
今はまだ、新しい次の物語があるので、自分がやるべきことを書き出すというか、それを把握しておきたいんです。じゃないと、迷子になっちゃいますからね」
(つづく)
「その程度の覚悟ならば、辞めたほうがいい」
【profile】
田中佑美(たなか・ゆみ)
1998年12月15日生まれ、大阪府出身。中学から100mハードルを始め、関西大学第一高ではインターハイを連覇し、第9回世界ユース選手権に日本代表として出場する。立命館大学では関西インカレ4連覇、2019年には日本インカレ優勝。2021年4月より富士通に所属し、2022年の日本選手権で3位、2023年世界選手権(ブダペスト)日本代表、2023年のアジア大会で銅メダルを獲得する。パリオリンピックでは準決勝に進出。Instagram→Tanaka Yumi(@yu____den)
<スタッフ>
小嶋洋平●撮影、石上美津江●スタイリスト、吉﨑沙世子(io)●ヘア&メイク、動画撮影&制作●磯貝琢哉、動画ディレクター●池田タツ(スポーツフォース)
<衣装クレジット>
ジャケット¥97900/ホワイトオフィス(クチュール ド アダム)、ワンピース¥29480・カットソー¥16280/シンチ(オブラダ)、ピアス¥42900・リング¥25300/マリハ、ブローチ(別注)¥16500/ピモンテ(ラダ)、ブーツ¥83600/ショールーム ロイト(フラッタード)
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