第101回箱根駅伝(来年1月2、3日)で94回目の出場となる伝統校の早大が14日、埼玉・所沢キャンパスで練習の一部を公開した。国学院大、駒大、青学大の「3強」の一角を崩し、3位を目標に掲げる。埼玉有数の進学校の県浦和から一般受験で入学した…
第101回箱根駅伝(来年1月2、3日)で94回目の出場となる伝統校の早大が14日、埼玉・所沢キャンパスで練習の一部を公開した。国学院大、駒大、青学大の「3強」の一角を崩し、3位を目標に掲げる。埼玉有数の進学校の県浦和から一般受験で入学した草野洸正(4年)は4年間、努力を重ねて、3大駅伝を通じて初めて登録メンバー入り。小学生の時から憧れ続けてきたエンジ色のユニホームで、新春の晴れ舞台を駆ける。
今季のチームスローガンは「早稲田人たる覚悟」。それを象徴するランナーが草野だ。
県浦和高時代の5000メートル自己ベスト記録は15分29秒と平凡。スポーツ推薦の勧誘はなく、一般受験で早大の2学部を受験した。政治経済学部は不合格だったが、商学部に合格し、競走部の門をたたいた。「小学生の頃から箱根駅伝をテレビで見て、早大の臙脂(えんじ)のユニホームを着て走りたいという夢がありました」
ただ、現実は厳しく、入学当初は選手寮に入れず、寮外生としてスタートした。強豪の長野・佐久長聖高のエースでスポーツ推薦で入学した同期の伊藤大志の5000メートル自己ベストは日本高校歴代2位(当時)の13分36秒57。2分近い大差があった。「最初は朝練習についていくことが精いっぱいでした。同期の伊藤は陸上専門誌に載っている人で、別世界のスターでした」と3年8か月前を静かに振り返る。
箱根路は近いようで遠かった。1年時は黄色のベンチコートを着て沿道の観衆整理をする走路員を務めた。2、3年時は給水係として約50メートルだけ箱根路を走った。「給水ボトルを選手に渡すまでは給水係として集中していましたけど、無事に給水ボトルを渡した後、先輩や同期の背中を見送りながら『かっこいいな。やっぱり僕も臙脂のタスキをかけて走りたい』と強く思いました」
初志貫徹。箱根路への思いを忘れずに日々、努力を重ねた。2年時に花田勝彦監督(53)に、その姿勢を認められて選手寮に入り、さらに成長した。3年時にはハーフマラソンで1時間4分45秒をマーク。高校時代の5000メートルの自己ベスト記録より速いペースで4倍以上を走れるようになった。
不退転の決意で臨んだ学生ラストシーズン。今年5月の関東学生対校男子1部3000メートル障害で8分56秒12の自己ベスト記録で6位入賞を果たした。その直後、花田監督に山下りの6区を目指すことを提案された。「今のチームに6区の経験者はいません。チームの穴を埋めることが僕の仕事ですし、箱根を走るチャンスでもあります」と草野は前向きに取り組み、6区候補として学生3大駅伝通じて初めて登録メンバー入りを果たした。
一般入学した“たたき上げ”の選手が、いぶし銀の活躍をした時の早大は強い。最後に箱根を制した11年大会では福島・会津高から一般入学した猪俣英希(当時4年)が初出場の5区で、東洋大の「2代目・山の神」柏原竜二(当時3年)と激闘を演じ、その差を最小限に食い止めたことで早大に3冠をもたらした。
今回、早大は6人の4年生が16人の登録メンバーに入った。そのうち、スポーツ推薦で入学した選手は主将の伊藤だけ。その伊藤は「いろいろとあってスポーツ推薦で入学した選手が僕ひとりしかいない学年で、その分、一般組の台頭が重要な鍵でした。上級生になるにつれて一般組の躍進がチームの層の厚さに直結しました。その筆頭が草野と個人的に分析しています。3000メートル障害という競技を突き詰め、チームとして戦う関東学生対校でも入賞して得点を取ってきてくれました」と話す。
入学当初、草野は伊藤を「スター」と見上げていたが「伊藤はとてもフランクな性格なので1年生の夏には同期として普通に話せる仲になりました」と笑う。選手寮で、文字通り「同じ釜の飯を食う」ことで、同期の絆は強まった。「今では草野はチームを活気づける大事な構成員の一人と思っています」と伊藤は言葉に力を込めて話した。
花田監督は「草野は本当の努力ができる選手。チームにいい影響を与えています」と高く評価する。その一方で「6区候補は草野を含めて3人います。一番、状態のいい選手を起用します」と勝利のためにシビアに話す。
草野は卒業後、競技を引退し、M&A(企業の合併・買収)を仲介する会社に就職する。「競技生活は残り少ない。一日一日を大切に過ごして体調万全で当日を迎えたい。目標は58分台。自分が走る準備をしていきます。青学大、国学院大、駒大が見える位置で走るイメージはできています。相手は強いですが、恐れることなく走ります」。最初で最後となる箱根路。早大のプライドを持って、箱根の山を駆け下る覚悟だ。(竹内 達朗)
◆草野 洸正(くさの・こうせい)2002年10月25日、さいたま市出身。22歳。本太中から陸上を始める。21年、県浦和から早大商学部に入学。今年の関東学生対校1部3000メートル障害で6位入賞。自己ベストは5000メートル14分28秒66、ハーフマラソン1時間4分45秒、3000メートル障害8分56秒12。172センチ、57キロ。
◆早大 1914年創部。正式名称は陸上競技部ではなく競走部。20年の第1回箱根駅伝に出場した4校のうちの1校(ほかは東京高等師範学校=現・筑波大、明大、慶大)で「箱根オリジナル4」と呼ばれる伝統校。箱根優勝13回。出雲優勝2回、全日本は92年の初出場初優勝から4連覇。2010年度は学生駅伝3冠。長距離ブロックは選手35人、学生スタッフ6人。練習拠点は埼玉・所沢市。タスキの色はエンジ。主なOBはマラソン元日本記録保持者の瀬古利彦氏、大迫傑(ナイキ)。