ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島、町田ゼルビアの三つ巴となった2024年J1優勝争い。結局、12月8日の最終節で神戸が湘南ベルマーレを下し、連覇・2冠を達成した。 2位に終わった広島は10月初旬の段階ではトップに立っていたが、そこから湘…
ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島、町田ゼルビアの三つ巴となった2024年J1優勝争い。結局、12月8日の最終節で神戸が湘南ベルマーレを下し、連覇・2冠を達成した。
2位に終わった広島は10月初旬の段階ではトップに立っていたが、そこから湘南、京都サンガ、浦和レッズに3連敗。12月1日のコンサドーレ札幌戦で大量5ゴールを奪って圧勝し、逆転タイトルの望みをつないだが、ラストのガンバ大阪戦で序盤から失点するという苦しい展開を余儀なくされた。
後半には加藤陸次樹の同点弾がVARによってオフサイドと判定される不運も重なり、ガンバに3-1と突き放された。今季限りで引退する青山敏弘がベンチ前に立って声をかけ続け、11年在籍した柏好文も加藤のゴールをアシストするなど、チームを去るベテラン2人が仲間を鼓舞したものの、無情にも頂点には手が届かなかった。
タイムアップの笛が鳴り響いた瞬間、今季の成長株・中野就斗が号泣。松本泰志や加藤らも目に涙を浮かべた。さらにキャプテン・佐々木翔も両手で顔を覆いながら崩れ落ちた。日頃、淡々とした物言いが目立つ35歳のDFがここまで人目をはばからずに大泣きするのはそうそうない。それだけ「アオさんたちにシャーレを掲げさせたい」という思いが強かったに違いない。
■青山「苦しんだ経験が彼らの力になる」
「その思いは十分伝わりました。最後、優勝争いで苦しんだ経験が彼らの力になるだろうし、クラブの成長になる。勝てずに涙を流すことは僕自身も経験したこと。それはきっとは成長につながると思います」と長年大黒柱としてに広島を支えた6番は前向きに話したが、本当にそうしなければならないだろう。
森保一監督(現日本代表)体制だった2015年に3度目のJ1制覇を達成した後、長く頂点から遠ざかった広島。2022年のミヒャエル・スキッベ監督就任後、同点のYBCルヴァンカップを獲得し、Jリーグも3位に浮上。2023年も連続3位となり、今季こそは悲願の優勝に突き進むはずだった。
実際、序盤は11戦無敗。4~5月にかけて4戦連続引き分けと勝ち切れない印象はあったものの、今季加入した大橋祐紀(ブラックバーン)らがブレイク。この時点では有力な優勝候補だったに違いない。
けれども、大橋、川村拓夢(ザルツブルク)、野津田岳人(パトゥム)が立て続けに海外へ移籍。選手層が一気に薄くなり、苦境に直面。夏に川辺駿、トルガイ・アルスラン、ゴンサロ・パシエンシアが加わって盛り返したものの、足踏み状態を強いられたのは痛かった。「移籍期間の問題で新しい選手が入るのが1~2か月後になってしまって、迅速な穴埋めができなかった」と指揮官も厳しい表情で振り返る。
■「決め切る力の不足」という高い壁
その空白期間を何とか乗り越え、7~8月に7連勝、10月頭までで見れば11試合無敗という快進撃を見せたが、今度は「決め切る力の不足」という高い壁にぶつかった。
「大橋が抜けた穴がいまだに埋め切れていない」と11月10日の浦和戦後にもスキッベ監督は話したが、最終節・ガンバ戦でもそれが色濃く伺えた。広島は主導権を握り、中野・東俊希の両サイドから攻めるのだが、ゴール前を固められて点を取れない。逆にリスタートから失点し、敗れるという最悪のパターンになってしまったのだ。
「チャンスに対するゴールの数が少なすぎる。そこは大きな改善点」と指揮官も強調したが、それはチーム全員が感じている点に違いない。
「特効薬なんてあるわけじゃない。いかに日頃から自分たちがやっていけるかが大事」とキャプテン・佐々木が言うように、日常から細部を突き詰めていくしかない。それを青山は来季、コーチとして選手たちも求めていくことになる。
「勝てるチームを作りたいし、そういうコーチになりたいんで、また一緒に戦っていきます」と本人も目を輝かせたが、その存在は選手たちにとっても大きいだろう。柏の方はチームを離れるが、彼が残した闘争心やアグレッシブさも糧にして、広島はさらなる前進が求められるのだ。
(取材・文/元川悦子)
(後編へつづく)