J2・2年目を戦ったいわきFCは、15勝9分け14敗の9位でシーズンを終え、昨季の18位から大躍進。終盤までプレーオフ(PO)進出争いに絡むなど勢いを見せた。ホームの入場者数も過去最高を記録するなど、成長を見せた今季を、昨年6月から指揮を…

 J2・2年目を戦ったいわきFCは、15勝9分け14敗の9位でシーズンを終え、昨季の18位から大躍進。終盤までプレーオフ(PO)進出争いに絡むなど勢いを見せた。ホームの入場者数も過去最高を記録するなど、成長を見せた今季を、昨年6月から指揮を執る田村雄三監督(42)と大倉智社長(55)が振り返った。(取材・構成=秋元 萌佳)

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 ◇田村雄三監督 

 昨季は途中就任も、今季はシーズン通して指揮を執った田村監督。シーズン当初に掲げた「得点65、失点45でPO進出(6位以上)」の目標は、得点53、失点41で9位とすべて達成とはいかなかった。

 「順位は1ケタにいけたし、積み上げることができた部分もあったけれど、逆に言えば失点の目標だけしか達成できなかった。最後の5試合で本当にうまくいかず、力の差があったなという印象の方がすごく残っている」

 掲げ続けてきた超攻撃的サッカーという戦い方を見直したシーズンでもあった。

 「ラインを下げたり、5バックで思い切りしてみた時もあったけれど、最終的にはしっかり前に行った方がボールを奪えているし攻め込めたと感じています。だから、選手たちが自分で判断できるように、言葉なのか、時間帯でなのか、『ここはしっかり守ろうね』というチーム戦術を理解してもらって詰めていく必要があると思う。皆、黙っていても前に行こうとするからブレーキを掛ける方が難しいですね(笑)」

 選手の入れ替えも多いシーズンだったが、所属5年目となるFW谷村海那(26)がリーグ2位となる18得点を挙げるなど、いわきの所属が長い選手たちの存在感が光る場面も多かった。

 「単純に在籍の長い選手の方がけがもしないし、最後まで走れる。やっぱり鍛えられているんだと思う。でも他が悪かったわけでなく、その中でもがいて追いつこうという気持ちが出て、総合的にいい空気になった。来季以降も残る子たちにはまた変化を与えていって、同じようなシーズンにならないようにしたい」

 今季は終盤(第35~37節)で3連敗を喫するなどあと一歩踏ん張れなかった。PO進出に向けての修正点は。

 「クロスからの失点は減ったけれど、セットプレーでは15失点。それを減らしたいのと、データとして試合の入り15分で得点が少なく、失点が多いと出ている。試合の中だけでなく、ウォーミングアップからなのか、もはや練習の雰囲気からなのか、いろいろな面から検証したいと思う」

 続投も決まり、来季に向けての意気込みは。

 「今年の終盤戦で、ゲームの展開を読む力なのか、際の強さなのか、勢いだけでは勝てないんだ、内容がどうでもよくても勝たなきゃいけない、という世界観を僕自身も学んだ。今季はホームで勝てなかった(ホーム6勝5分け8敗)ので、満員のスタジアムをつくり続けるために、ホームで絶対に勝つんだという部分をしっかりやっていきたいなと思う」

 ◆田村 雄三(たむら・ゆうぞう)1982年12月7日、群馬・渋川市生まれ。42歳。東京・帝京高から中大に進み、05年に当時J2の湘南に加入。10年に現役引退。11年から湘南でフロント入りし、強化・スカウト本部長などに就いた。16年からいわきFCに加わり、17―21年は監督、22年はスポーツディレクターを務め、23年6月から監督復帰。現役時の登録ポジションはDFやMF。

 ◇大倉智社長 

 今季はホームの総来場者数が8万1516人と過去最多を記録。平均入場者数は昨季の3491人から、4290人に増えた。

 「お客さんがお客さんを呼ぶ輪みたいなものが生まれたのかなと感じる。これにあぐらをかけば一瞬でなくなってしまう危機感も、もちろん僕の中にはある」

 一方で、スタジアムの収容人数は5066人とJ2で最少。収容率は80%を超え「いい雰囲気だね」と言われることも多い中、売り切れが続くなどチケット収入に限界もあった。

 「チケットがあっても席がうまく詰められなくて入れなかったという声も聞いた。もうワンステップチームが上がっていくためにスタジアムは絶対にターニングポイントになる」

 ハワイアンズスタジアムいわきは席数などJ2基準を当時の要件では満たしておらず「例外適用」となっており、25年6月までに基準を満たすスタジアムの整備計画を提出し、27年6月までに着工する必要がある。

 「今、一歩進んで半歩戻るみたいな活動を続けているところ。まだゴールまでは遠いです。サッカーチームやスタジアムがあることでこの地域がどう変わるか、ビジョンブックを配ったりして、ちゃんと説明して皆に理解をしていただこうと思っている。来年の5月くらいには場所を発表する形になるかなと思います」

 今季は途中移籍も含めると22人がチームを離れた。来季の編成について、率直にどう考えているか。

 「いわきではそれなりの強度が求められるから、耐えうる若い子たちを取って鍛えていく。精神の成長と勝利が相関するということも、育成クラブではないという思いも変わりません。ただ、今季はレンタルの選手も割合(7人)が多かった。既存とのバランスは考えないと、壁にぶち当たった時のマインドが違う方向に行く可能性もあるかなと。日本のサッカー界のために若い子を預かることもやらなきゃと思っているものの、自分たちの勝利を求めていく中で、長くいてくれる選手たちのことも考えてあげないといけないと思う」

 来季はクラブ創設10周年を迎える。

 「この数年で市場での選手の価値も本当に変わってきたし、福島県で一番人が入るスポーツコンテンツになれた。サッカーチームがあることが楽しいよねというベースは出来上がってきたと思う。いろいろと反省しながら、どう10年目を迎えるのか考えていきたい」

 ◆大倉 智(おおくら・さとし)1969年5月22日、神奈川・川崎市生まれ。55歳。東京・暁星高から早大に進み、92年に日立(現J1柏)に加入。磐田、ブランメル仙台などを経て98年に現役引退。フロントとして01年途中にC大阪に入り、05年から湘南で強化部長やGM、代表取締役社長などに就いた。16年からいわきFCの代表取締役社長。現役時の登録ポジションはFW。