女子自転車競技の“三刀流”選手、小林あか里(23)=弱虫ペダルサイクリングチーム=が絶好調だ。シクロクロスの国内最高峰、JCXシリーズで今季5戦5勝。「第30回全日本自転車競技選手権大会シクロクロス」(14~15日、栃木県宇都宮市)の連覇…
女子自転車競技の“三刀流”選手、小林あか里(23)=弱虫ペダルサイクリングチーム=が絶好調だ。シクロクロスの国内最高峰、JCXシリーズで今季5戦5勝。「第30回全日本自転車競技選手権大会シクロクロス」(14~15日、栃木県宇都宮市)の連覇に向けて視界良好だ。マウンテンバイク(MTB)でのパリ五輪代表枠を逃したショックを乗り越え、新たな目標を掲げる期待の星が、今後の抱負を語った。(協力・日本自転車競技連盟)
シクロクロスの全日本選手権がいよいよ目の前だ。今季最大の目標に掲げる連覇に向けて、心身ともに充実している。
「今シーズンは、いい感じで走れている。アベレージ(平均タイム)は昨年より圧倒的に速くなった。順調にトレーニングできているし、自信を持って大会に臨みたい」
8~9月にロードレースでのオランダ遠征にチャレンジ。本場のクラブチームで、強豪選手と競い合いながら実力を磨いた。
「クリテリウム(市街地や公園など短い周回コースを何周も回る競技)をメインに走っていた。絶対的なスピードがついて大きな自信になっている」
大学(信州大)に通いながら日々、授業の合間にトレーニングに励む。練習内容を見直したことも好調を支えている要因だ。
「今シーズンに入る前から本格的にパワートレーニングを始めた。バイクではつけられない筋力をつけるためにジムでフリーウェートをやったりしている。ヨーロッパに行って、外国人選手とは体の大きさもパワーも圧倒的に違うことを感じた。そこで戦おうと思ったら、やっぱりパワーをつけないといけない」
熱望していたMTBでのパリ五輪出場権は、代表枠「1」を巡るシビアな争いだった。結局、UCI(国際自転車競技連合)ランキングで川口うらら(24)=TEAM TATSUNO=に及ばず、落選した。
「自転車競技を辞めたいと思うほど悔しかった。でも、周りの人たちから励まされて、今は気持ちの整理がついた。『あか里ちゃんが自転車競技を楽しいと思えるのだったら、そう思えるあか里ちゃんを応援する。(パリ五輪に)出られなかったからといって辞めることはない』って。自転車競技が本当に楽しいと思えるところが、自分の一番の強みだと思う。楽しんで走っていたら応援してくれる人たちも、もっと応援したいと思ってくれるはず。落選をきっかけに、そういう選手になろうと思った」
母・可奈子さん(54)は、1996年アトランタ五輪のMTBクロスカントリー代表選手。幼い頃から英才教育を娘に施し、二人三脚で競技を続けさせてきた。オリンピアン、コーチ、そして母という立場からずっと見守ってきた小林を、こう評価した。
「オランダ遠征から帰ったとき、娘は『私は、この競技(ロードレース)で生かされている。チーム内での役割に対して仕事ができる』という言い方をした。人は生かされるもの。競技をやりながら、やっとそこに行き着いてくれた。この子は、もっともっと強くなれる」
その母に対しての気持ちが、パリ五輪の落選をきっかけに大きく変わった。
「オリンピックに行くのは当然だと思っていたけど、運や実力以外のことにも左右されることを実感した。母は本当にすごい。選手として尊敬する存在。私の悔しさを一番、分かってくれている。小林可奈子が母で良かった」
母の手ほどきで最初に始めたMTBに加えてシクロクロス、ロードレースの3種目で国内トップクラスの実力を誇る。今は来春の大学卒業後を見据え、方向性を絞り込んでいる。
「近い将来にヨーロッパでロードレースのプロ選手になるのが目標。UCIワールドツアー、中でもツール・ド・フランス(・ファム)のような、自転車競技の選手なら誰もが憧れる舞台で走れるようになれたらいいなと思っている」
高校2年時にスイスへ渡り、武者修行。しかし、言葉の壁やコロナ禍で、周囲とうまくコミュニケーションを取れず苦労した。競技でも2020年にチェコで行われたMTBワールドカップでは、低血糖症のため途中棄権。現地のドクターから「あと数分、走っていれば死んでいた」と言われた。そんな苦い思いをした欧州の地を、夢を実現する場所に選んだ。
「あの時は自分がすごく未熟だった。コーチともぶつかってしまって…。生活面でも苦しかった。でも、今はその時の経験があるし、英語も上達した。何よりヨーロッパでプロ選手になりたいという、はっきりした目標がある。2年後にはヨーロッパに拠点を置きたい」
ロードレースのオフシーズンにはシクロクロスで真剣勝負。総合力アップが、そのメリットだ。
「シクロクロスは、常に全力で走らないといけない競技。ロードのオフトレとして強度の高い練習に取り組もうとする際、シクロクロスを走れば、それが必然的にできる。バイクコントロールの能力も少なからず高められる」
国内のシクロクロスでは、向かうところ敵なし。夢を追う今は、しかし、決して自分を見失わない。
「今シーズンのシクロクロスのレースを、来シーズンのヨーロッパでのロードレースにつなげたい。常に目の前にヨーロッパの選手が走っているイメージを持っている。日本ではトップでもヨーロッパのレースでは何位ぐらいかなって。だから、どんな独走になっても手を抜かない」
◇小林あか里(こばやし・あかり)2001年4月10日、長野県安曇野市生まれ、23歳。5歳の頃に1996年アトランタ五輪MTBクロスカントリー代表の母・可奈子さん(旧姓は谷川)から指導を受けて自転車に乗り始めた。22年にアジア選手権(韓国・スンチョン)のMTBクロスカントリーで優勝(女子U23)。23年7月、全日本選手権MTBクロスカントリー(女子エリートクラス)を制覇。24年には1月の全日本選手権シクロクロスで初優勝、7月の同MTBクロスカントリー(ともに女子エリートクラス)を連覇した。ロードレースでは22、23年の全日本選手権(女子U23)を連覇している。身長166センチ、血液型O。