篠塚和典が語るCS 前編 今季、4年ぶりにリーグ優勝を果たしながらも、クライマックスシリーズ(CS)でDeNAに敗れた巨人。敗退の要因はどこにあったのか。1980年代を中心に長らく巨人の主力として活躍し、引退後は巨人のコーチを歴任した篠塚和…
篠塚和典が語るCS 前編
今季、4年ぶりにリーグ優勝を果たしながらも、クライマックスシリーズ(CS)でDeNAに敗れた巨人。敗退の要因はどこにあったのか。1980年代を中心に長らく巨人の主力として活躍し、引退後は巨人のコーチを歴任した篠塚和典氏に聞いた。
【動画で見る】巨人敗退の理由、CS制度の課題は? 動画で見る↓↓↓
【シーズン中に若手を多用した影響も?】
――巨人がCSで敗退した主な要因として考えられることは?
篠塚和典(以下:篠塚) ピッチャー陣はそこそこ抑えていましたので、やはり打てなかったことだと思います。特に吉川尚輝の離脱が大きかった。戸郷翔征は2度の登板(第1戦と第6戦)とも勝てなかったですが、各ピッチャーは全6試合で3失点以内に抑えていますし、戸郷も含めて頑張ったんじゃないですか。
DeNAとのCSで勝ちを挙げられなかった戸郷
photo by Sankei Visual
――ヒットやフォアボールで塁上を賑わせながら、タイムリーが出ないケースが目立ちました。
篠塚 そこは「どの試合も落とせない」という、シーズンとは違ったCSの雰囲気も影響したかもしれませんね。プレッシャーをいい緊張感に変えられればよかったのですが、あと1本がなかなか出ませんでした。ファーストストライクや甘いボールを見逃す選手も多かったですね。
コンディションの調整が難しかったと思います。宮崎のフェニックスリーグで調整している選手もいましたが、相手はシーズン中に戦っていたようなピッチャーではないですから。バッターにとっては気持ちの問題もあると思うんです。(公式戦からCSまで)間が空いてしまうのは、バッターとすれば嫌な感じだったでしょう。
――先ほど話が出ましたが、吉川選手が抜けた穴はどれほど大きかったですか?
篠塚 特にシーズン終盤は、徐々に状態が上がっていましたから。シーズンを通じて、来季以降も打線の柱になっていくんじゃないか、という期待感がある成績も残していました。そういう吉川の代わりに試合に出る選手のプレッシャーは、大きかったと思います。第2戦から先発出場をしていた中山礼都はCSの途中から調子を上げていきましたが、最初は雰囲気にのまれてしまっている部分もあったのかもしれません。
――中山選手は初のCS出場で本塁打を記録。それがプロ初本塁打となりました。
篠塚 第5戦と第6戦ではマルチ安打でしたし、あの1本がいいきっかけになったんじゃないですか。ただ、そのバッティングの感触やCSの経験を来季につなげていかなければいけません。巨人はシーズン中に若手をたくさん起用しましたよね。選手一人ひとりが持続して成績を残していないので、結果的にそうなってしまうんです。若手をたくさん起用するということは、「違う選手を試す」ということですから。
リーグ優勝はしましたが、シーズンを振り返ってみれば、そんなに地に足をつけて試合をしている感じには見えなかったです。そういうものがCSのような大事な試合に出てしまったと僕は受け止めています。やはり、ある程度、選手を固定してシーズンを戦っていくことが大事だと思いますね。
【CSまで経験した若手の奮起に期待】
――菅野智之投手もそうですが、戸郷投手が投げる試合でも勝ちを計算していたでしょうね。
篠塚 戸郷は、シーズンでは12勝(8敗)しましたが、浮き沈みがありますからね。安定していれば15勝できる力を持ったピッチャーだと思うのですが、どうしても波がある。ただ、CSでは悪いピッチングはしていないんです(第1戦は6回1/3を2失点、第6戦は4回2/3を2失点)。ただ、「"ジャイアンツのエース"とは」ということです。"ここぞ"というときに打たれてしまった場面もありましたからね。
それでも、ピッチャーが取られていい点数の許容範囲は3点で、3点以内に抑えて打線がそれ以上の点を取ると、自分がコーチの時も選手たちにはそう伝えていました。ただ点が取れないと、どうしてもああいう試合になってしまいますよね。
――DeNAはピッチャーをはじめ、守りが堅かった印象です。
篠塚 そうですね。それほど点を取っているわけではなかったですが、先発や中継ぎがしっかりしていましたよね。いいピッチングが、守りにもいいリズムをもたらしていた印象です。
でも、DeNAは3連勝したあとに2連敗したじゃないですか。DeNAの立場で考えると、3つ勝てたことで気持ち的に「いける」という安心感が出てしまった感じがあったんじゃないですか。
――敗れはしたものの、巨人は門脇誠選手や浅野翔吾選手、中山選手、赤星優志投手ら若手がCSを経験できたことは大きいでしょうか。
篠塚 若い選手たちは経験をプラスにしていかなければいけません。赤星などは「継続していいピッチングをしていかないと一軍に残れない」という危機感を持って頑張ってほしい。結果がついてこないなかで我慢して使ってもらっていることは、プロで3年やってきた本人が一番わかっているでしょう。
野手もそうです。CSに限らず多くのチャンスをもらっているわけですから、調子の浮き沈みを小さくしていかないと確固たるレギュラーにはなれません。来季も若手が代わる代わる何人も出るようだとダメですし、阿部慎之助監督に「固定して使っていこう」と思わせるようなものを見せないと。久しぶりにリーグ優勝できても、CSでやられてしまうとガクっときて悔しかったでしょうし、若い選手たちが今回の経験を生かして来季に臨んでほしいですね。
――吉川選手が抜けた時の戦力の低下を見ても、層を厚くしていくためにも野手の競争は不可欠です。
篠塚 ドラフトでは内野手の指名が多かったですしね。
――1位の石塚裕惺選手(内野手/花咲徳栄高)は体格がよく、大型ショートへ成長が期待できますし、2位の浦田俊輔選手(内野手/九州産業大)はミート力に優れ、スピードがあります。
篠塚 門脇ら若い内野手にとっていい刺激になりますし、どんどん競争させていくべきですね。門脇はしっかり守れますが、シーズンを通してバッティングの部分が物足りない。坂本勇人があと何年できるのか、という問題もありますし、そういう意味で今年は内野手を多く指名したんでしょうね。
――ピッチャー陣は、菅野投手がメジャー移籍で抜けると戦力ダウンは避けられません。
篠塚 15勝を挙げた菅野の穴を埋めようと考えれば、ピッチングスタッフの整備は大変です。今季は井上温大が成長した姿を見せてくれましたが、赤星や横川凱、堀田賢慎ら若いピッチャーがしっかりと成績を残せるようにならなければいけません。昨季に比べればピッチャー陣の層は厚くなってきましたが、もっと厚くしていかなければいけませんし、若い世代のピッチャーたちからひとり、ふたりと台頭してきてくれることを期待しています。
(後編:CS制度の問題点 アドバンテージや日程、CSとは別のカップ戦の案など持論を語った>>)
【プロフィール】
篠塚和典(しのづか・かずのり)
1957年7月16日、東京都豊島区生まれ、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年を最後に現役を引退して以降は、巨人で1995年~2003年、2006年~2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。