すっかりサッカーの一部となった、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)。だが、そのテクノロジーを十分に有効活用できているかどうかは疑わしい、と言うのは、サッカージャーナリストの後藤健生。その問題点について、Jリーグの優勝争いの一戦を使…
すっかりサッカーの一部となった、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)。だが、そのテクノロジーを十分に有効活用できているかどうかは疑わしい、と言うのは、サッカージャーナリストの後藤健生。その問題点について、Jリーグの優勝争いの一戦を使って検証を試みる!
■通常以上に「慎重」になってしまった?
ここで断っておかなければならないが、僕は審判団のやったことを非難しているわけではない。審判団(主審:御厨貴文、副審:熊谷幸剛、中野卓、VAR:榎本一慶、AVAR:松本大)は、プロトコール(手順)に従って映像を確認して結論に達したし、判定の結論も正しかった。
ジエゴのプレーは明らかにヒジ打ちだった。しかも、前半から同じようなプレーを繰り返していた(1回目は注意のみ、2回目は警告。そして、88分の3回目で退場)。VARが介入して神戸にPKを与え、ジエゴを退場としたのは当然の判定だった。
武藤嘉紀のゴールについては、たしかに難しい判断が必要だった。酒井高徳がペナルティーエリア内に浮き球のパスを送った瞬間、たしかに神戸の選手がオフサイド・ポジションにいた。だが、頭に当てて落とした大迫勇也は、酒井がプレーした瞬間にはオンサイドだった。問題はオフサイド・ポジションにいた選手がプレーに関与したか(守備側のプレーに影響を与えたか)だった。
しかし、それにしても約4分というのは時間がかかりすぎだ。審判団も、ここで同点ゴールを認めることが優勝争いに影響を与えるということを認識しており、その結果、通常以上に慎重になってしまったのかもしれない。
■介入できるのは「4つの事象」のみ
VARというのは、ある意味できわめて禁欲的なシステムだ。
VARが介入できるのは「得点か得点でないか」、「PKかPKでないか」、「退場か退場でないか」、「警告、退場の人間違い」の4つの事象でのみ介入できるとされている。
それ以外の場面では、介入できないのだ。
たとえば、ペナルティーエリア外での、退場になる可能性のない反則については、誤審があってもVARは関与できない。
あるいは、ボールがゴールラインを割ったとき、明らかに守備側の選手が触れているのに主審(副審)がゴールキックと判定し、攻撃側の選手が手を上げて抗議する場面はよく見かけるが、そんなとき、ビデオ映像を見ればすぐに間違いを正せるはずだ。だが、この場面ではVARから助言を行うことはできない(ことになっている)。
もっと、ビデオ映像を広汎(広い範囲)に活用できないものかと僕は思うのだが……。
■目的は「明白な間違い」を正すこと
そして、もう一つ、VARが「禁欲的」という理由は、VARが介入するのはピッチ上の主審、副審の判定に「はっきりとした、明白な間違い」があった場合にのみと決められていることだ。
ピッチ上の審判の判定の「はっきりとした、明白な間違い」を正すのがVARの目的であって、微妙な判定すべてに介入してチェックし、100%を求めるためのものではないのだ。
たとえば、ジエゴの反則の場面。御厨主審からはヒジ打ちの場面が見えなかった。
その瞬間、御厨主審は「対角線審判法」に従って、神戸側から見て左サイドに位置を取っており、ペナルティーエリアの右端でジエゴと武藤が競り合ったとき、ジエゴのヒジが武藤の頭部にヒットした場面はジエゴの体に隠れていて見えなかったはずだ。
もし、ピッチ上の審判で見えたとすれば、近くにいた第2副審の中野卓氏ということになるが、クロスが上がってヘディングの競り合いが行われる場面では、副審の意識はオフサイド判定に集中しているから、ヒジ打ちが見えなかったのだろう。
いずれにしても、ピッチ上の審判団が見逃した「重大な事象」に対してVARが介入したのは正しいプロトコールということになる。