12月1日、広島。北海道コンサドーレ札幌は、サンフレッチェ広島の本拠地に乗り込んでいる。しかし、残留をかけた戦いはすでに終わっていた。広島行きの機内で、他会場の結果(残留を争っていた柏レイソルがヴィッセル神戸に引き分け)による「J2降格決…

 12月1日、広島。北海道コンサドーレ札幌は、サンフレッチェ広島の本拠地に乗り込んでいる。しかし、残留をかけた戦いはすでに終わっていた。広島行きの機内で、他会場の結果(残留を争っていた柏レイソルがヴィッセル神戸に引き分け)による「J2降格決定」の事実を知らされたという。

「昨日の結果で降格が決まり、今日の試合を迎えることになって、『いいゲームをしよう』と選手に伝えて入りましたが......やはり難しいものがありました」

 札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督はそう振り返っている。優勝争いをする広島との力の差は歴然で、5-1と大敗した。

「小さなところの違いの積み重ねが、この差になりました」

 ミシャという愛称で親しまれる指揮官はそう総括すると、ピッチで広島の青山敏弘の引退セレモニーが続く間、喋り続けた――。

 なぜ、札幌は降格したのか?



サンフレッチェ広島に敗れ、肩を落とす北海道コンサドーレ札幌の選手たち photo by Kyodo news

 それを、この広島戦で語ることはできない。選手は戦意を削がれていたはずで、単純に広島の勢いが上回ったのはある。ひとつ言えるのは、「ミシャ札幌の匂いはした」ということか。

「前半は立ち上がり、広島の強い圧力に苦しみました。その時間帯で失点してしまった。ただ、その後は主導権を握って、同点に追いつくこともできましたが......」

 ミシャはそう言うが、1点目の失点と得点に札幌の"闇と光"が見えた。

 前半8分、札幌は岡村大八がトルガイ・アルスランをマンツーマンで潰しに行っているが、果断さに欠け、ファウルを取られる。その2分前、同じくアルスランに入れ替わられ、イエローカードを受けていただけに伏線はあった。素早いリスタートから左に展開されると、どフリーからのクロスに、大外の加藤陸次樹のマークも見失い、簡単に合わされていた。

 ミシャが信奉するマンツーマンは、ひとつの綻びで他に混乱が生まれる。対面する選手に負けないことが、戦術運用の絶対条件だが、広島戦の札幌は、各所で個人として負けていた。その局面は敗北に直結したと言える。

【同点にしてからは「闇」が...】

 一方、ミシャサッカーの真髄も見せた。

 前半42分、鈴木武蔵の一撃で1-1に追いついたシーンは象徴的だろう。やや勢いが止まった広島を押し込むと、手を緩めない。スローインから短いパスをつなぎ、間合いを測ったパスを、3人目として近藤友喜が裏に走って受け、そのクロスをニアで鈴木が合わせた。攻撃の連続性が感じられ、人とボールが動き、流れがあった。

〈スペースの占拠と撹乱〉

 それをトレーニングから繰り返しているのだろう。

「練習から、3人目で(近藤)友喜が背後を取るシーンはよくやっているので。スローインじゃなかったとしても、チャンスになるなって思いました。股(の間)を狙ったクロスで、関係性がよかったですね」(鈴木)

 ミシャのサッカーは、常にボールにチャレンジし、ボールを運び、イニシアチブをとって相手を凌駕する。それをシステム化し、選手を啓発、覚醒させた。その結果、J1に6シーズンも定着させたのだ。

 もっとも、同点にしてからは札幌の"闇"のほうが強く出た。

 前半終了間際、FKでは人に気を取られすぎ、ボールを見すごし、直接入れられてしまう。後半10分には、再び相手が圧力を強めてきたことに混乱したのか、腰砕けのバックパスを狙われ、PKを献上。そこから反転攻勢を強めるも、後半34分に鈴木に入れた縦パスを奪い取られると、トランジションについていけず、カウンターで失点。これで試合は決した。

「我々にもチャンスがなかったわけではないが、決めきれない試合で......」

 ミシャはそう言いながら、わかりやすく試合を振り返っている。

「前半アディショナルタイム、サイドからのセットプレーで距離もあったと思いますが、そのままゴールに入ってしまった。不運な失点で......そこで後半に向けたハーフタイム、『逆転するために戦おう』と伝えましたが、マイボールの状況でプレッシャーがかかっていなかったのにGKへボールを下げ、もったいない3失点目でした。4失点目はカウンターを中で合わせられましたが、相手はひとりだったので、予測して防がないと。自分たちも右サイドを突破し、同じようなチャンスを作りましたが、相手はCKに逃げていました。得点を決める場面で、質の差が出ました」

【明らかだった得点力不足】

 ミシャ札幌は7年目で、J1から"陥落"した。

 ただ、戦いの様式そのものは否定されるべきではない。むしろポリシーを徹底し、選手を成長させたこと自体、大きな成功と言える。降格した今となっても、だ。

 では、7年目で降格したのはなぜか?

 単純に、選手の入れ替えの多さはあった。昨シーズンの途中にMF金子拓郎が欧州へ渡り、昨シーズン後に精神的な支柱だった小野伸二が引退、FW小柏剛、MFルーカス(・フェルナンデス)、DF田中駿汰、福森晃斗など主力が移籍した。補強はしたものの戦力ダウンは否めず、前半戦は8連敗を喫した。今年夏にDFの大﨑玲央、パク・ミンギュを補強したあと、8月以降は挽回したが、得点源として期待されたジョルディ・サンチェス、アマドゥ・バカヨコは空転し、反撃も失速した。

 37節終了時点で66失点は2番目に多い数字で、守備の脆さは目立つ。しかし、目を引くのは、3番目に少ない42得点のほうだろう。攻撃的スタイルを標榜するチームとしては致命的だ(全34節の昨シーズンは61失点も、56得点だった)。

 極論すれば、得点力のある選手の欠如が響いたか。

「我々は7シーズン、『札幌らしい』と言われるサッカーを見せ、それは代名詞になりました。残留は果たせなかったですが、クラブは毎年の積み重ねで成長しているので、来シーズンはJ1に上がれるはずです」

 ミシャは、そうエールを送った。すでに札幌の監督退任が決定。ひとつの時代がまもなく終わる。

 12月8日、最終節はホームでの柏戦だ。