平畠啓史の2024年J2総括 チーム編&J1昇格プレーオフプレビュー日本屈指のサッカーマニアでJ2ウォッチャーでもある平畠啓史さんが、今年もJ2を総括。2024年シーズンの上位チームの振り返りと、注目のJ1昇格プレーオフの展望を語ってもらっ…
平畠啓史の2024年J2総括 チーム編&J1昇格プレーオフプレビュー
日本屈指のサッカーマニアでJ2ウォッチャーでもある平畠啓史さんが、今年もJ2を総括。2024年シーズンの上位チームの振り返りと、注目のJ1昇格プレーオフの展望を語ってもらった。
J1昇格プレーオフで有利と見られるV・ファーレン長崎
photo by Getty Images
【ホームで強かった清水。守備が大崩れしなかった横浜FC】
今シーズンのJ2は、終わってみたら強いと思われているチームがやっぱり上に行ったかなという印象があります。シーズン前に今年はチーム数が2つ減って(22→20チーム)波乱が起きづらいんじゃないかと予想していたんですが、それがある程度当たったかなと。
優勝した清水エスパルスは、ホームのIAIスタジアム日本平の雰囲気がすごくよかったです。ホームではモンテディオ山形に1敗しただけですよね。戦力的にも予算的にも、エスパルスはトップレベルだったと思います。
チームは、選手の組み合わせパターンが多くて、スタメンでダメだったら途中交代で変化をつけられる。相手によって戦い方を変えられるし、変えてもレベルが落ちなかった。
選手は、キャプテンマークを巻いて一番前で頑張っていた、北川航也選手がよかった。FWだから得点を期待されるけど、それ以外の仕事も相当やっていました。ラストパスの1個前とか、潰れ役とかでもすごく機能していましたね。また、アカデミー出身の選手がキャプテンマークを巻くのは、意味のあることかなと。
北川選手はチームトップの12ゴールですが、清水は他にもいろんな選手が点を取れます。FWカルリーニョス・ジュニオ選手もまた違った魅力がありますし、MF矢島慎也選手は試合途中から出てきてチームに落ち着きを与えたりできます。
それと、ボランチの中村亮太朗選手が、目立たないんですが意外とヘディングが強かったのも大きかったと思います。
2位の横浜FCは、最後は4戦勝利なしでしたが、それまでは本当に強かったなと。とにかく堅くて、隙がなく、盤石でした。大崩れがないというか、ゲームを壊しちゃうみたいなことがなく安定していました。もっと早く昇格が決まってもおかしくなかった。
サイドからの攻撃に特徴があって、MF山根永遠選手はどちらのサイドでもひとりで突破できるし、左サイドはDF福森晃斗選手が絡んだコンビネーションがある。
守備が大崩れしなかった要因は、中盤でのユーリ・ララ選手の存在が大きいですね。どっしり構えて、前にも後ろにも広範囲で守備の肝になっていました。チームの骨格で一番大事な背骨の部分に彼がいた。横浜FCで誰を外したら一番困るかと言ったら、ユーリ・ララ選手だったんじゃないでしょうか。
【J1昇格プレーオフ展望。有利なのは長崎】
今回のプレーオフでめちゃくちゃ楽しみな点は、レギュラーシーズンが終わってから約3週間のインターバルがあること。これがどういう影響を及ぼすのか。
今までだとシーズンが終わったらすぐにプレーオフに入っていく流れだったので、シーズンの終わり方ってすごく大事だったと思うんです。ただ、今回は3週間も空きますから、調子をそのまま持っていけるのか、あまり調子よくなかったけどそこから上げていけるのかに注目しています。
J2って今まであまりインターバルがなかったので。だからこそその過ごし方は結構難しいと思うんです。今回どんな結果が出るのか本当に興味深いです。
リーグ3位のV・ファーレン長崎は、最後5連勝でフィニッシュ。5連勝で全試合失点してますが、全試合複数得点。リーグ全体でも負け数が一番少なくて、得点が一番多い。自動昇格していてもおかしくないチームでした。
最終戦を見ていても、FWマルコス・ギリェルメ選手に代わってMF中村慶太選手が出てくるんですよ。そりゃ強いよなって思って見てたら、MF名倉匠選手に代わってFWエジガル・ジュニオ選手が出てきて、どんだけ強いのかと(笑)。もちろんスタメンで出ているメンバーだけ見ても強い。
加えてやっぱりスタジアム(PEACE STADIUM Connected by SoftBank)。長崎はJ1昇格プレーオフ準決勝で勝てば、ホームで2試合できることになります。これは大きいですよ。シーズン最終盤、新スタジアムのホームで3試合やって、それぞれ4得点、4得点、5得点だったんですよ。その結果を見ても長崎が一番有利だなと。
長崎が強いのはカウンターで決められるところです。実況とか解説の方が「長崎の相手チームのペースですね」みたいなことを言う時があるんですけど、そういう時に長崎はゴールを決めるんですよ。結局相手チームがいけてるように見える瞬間が、実は一番裏が空いていて長崎にとっておいしいシチュエーションなんですよ。
また、カウンターだけのチームじゃないんです。どの選手もカウンターのための準備はしているんですが、中盤で秋野央樹選手がボールを動かして左右に揺さぶったりとか、左サイドの米田隼也選手、笠柳翼選手、名倉選手が絡むコンビネーションの崩しもある。だから、ただカウンターを狙ってるだけのチームとは違って、警戒のしようがないというか、難しい。
終盤の大量得点の一番の要因は、MFマテウス・ジェズス選手のFW起用。もともとFWの選手じゃないから、相手センターバックの前にいないんですよ。サイドで受けたり、ちょっと落ちて受けたり。そこからドリブルでスピードに乗るので、相手からすると守りづらいと思います。眼の前に来た時には100%のパワーを持った状態ですから。
あとはカットインからのシュートもすごい。右サイドでボールを受けて左足に置いたら、「もう、これは入るな」って感じがするんですよ。相手チームはどう対策するかですね。
【ハードワークの仙台はどう出るか】
長崎と対戦するリーグ6位のベガルタ仙台ですが、今シーズン長崎に負けていません(1勝1分け)。だから一筋縄ではいかないのかなと思ってます。
今シーズンは森山佳郎監督になって、ハードワークでどんどん相手に寄せていく。たぶん陣形をコンパクトにすると思うんですよね。それを自陣でやるのか、相手陣でやるのか。
長崎はカウンターが得意なので、仙台は攻撃に行った時に絶対やりきることが重要だと思うんですよね。これが中途半端に長崎にボールが渡ってしまうと、自分たちが整っていない間に攻められる。なんならシュートを外してもいいから打って終わる。ラインを割るようにして終わるみたいなことが、結構大事かなって思います。
長崎は後ろからビルドアップして完璧に崩しきるみたいなシーンはそんなに多くないので、長崎のDFラインがボールを持つような展開にしたら仙台にもチャンスがありそう。FWエロン選手もFW中島元彦選手も前から行くのが今の仙台ですが、相手のDFがボールを持ってる時はちょっと引くぐらいで、後ろのスペースを埋めたほうが、長崎にとっては攻めづらい可能性もあるかなと。
たぶん長崎はそんなにやり方を変えないと思います。一方で仙台がこの3週間でどれぐらい作戦を練ってくるかが見ものですね。
長崎はシーズンで一番点取ってるし、長崎が先取点を取ると、仙台は2点取らないとダメなので(90分で引き分けの場合は、リーグ上位チームの勝利)、仙台はできるだけ0-0で進むような展開が理想なのかなと思います。
【ボールの動かし方が絶妙な山形】
リーグ4位のモンテディオ山形は、シーズン途中は苦しい時期もありましたが、終盤戦は強かったし、見ていても面白かった。チームがひとつになって、ビジョンをみんなが共有して戦っている印象があります。9連勝で終わっていますが、9連勝の前は横浜FCに負けている。でもさらにその前に3連勝している。最後13戦で12勝ですから、これは強いですよ。
やっぱりMF土居聖真選手とFWディサロ燦シルヴァーノ選手の加入は大きかったですね。ふたりのフィットの仕方は半端ない。でも忘れてはいけないのはDF城和隼颯選手。187cmもあるんで高さもあってクロスを跳ね返すのもあるんですけど、ザスパクサツ群馬の大槻毅監督の下でビルドアップをやってた選手だから、組み立てもできるんですよ。これは大きかったですよね。
山形はボールの動かし方がもう絶妙ですね。前の4人にボールが入った時に一気に加速する。また、その4人へのボールの入れ方も本当にうまいんですよ。それは髙江麗央選手と小西雄大選手のふたりのボランチのうまさが大きいと思うんです。山形ってあんまりサイドで詰まることがないんですよね。
たとえ縦パスが入らなくても、後ろで回してる時に全然焦りがない。「動かしてるうちにここ空いてくるぞ」とか、「ここに立ってたらボール来るぞ」ってみんなが理解してるから、全然焦らない。そこは渡邉晋監督が作り上げた山形のサッカー。本当に完成度が高いので付け入る隙が見当たりません。選手層の厚さも問題ないし、守備もいいし、速攻も遅攻もどっちもできる。穴がないですよ。
【全員の守備意識が高い岡山】
リーグ5位のファジアーノ岡山は、29失点と失点がリーグで2番目に少ないチームです。守備力といっても、ガチガチに守るというより、シーズンを通して前線から全体の守備の意識の高さが感じられました。3バックは真ん中の田上大地選手が本当にいいんですよね。相手が縦パスを入れた時の強度が高い!
今季の補強でいうと、やっぱりGKのスベンド・ブローダーセン選手がでかいですね。ビッグセーバーというか、チームを勢いづけるセーブがすごく多い。
ブローダーセン選手がミックスゾーンで、リーグ戦が残り2試合の時に日本語で「残り4試合」って言ってたんですよ。すごいなと思って。そういう意識で戦ってるし、それを日本語で伝えられる選手が後ろにいるのは大きいですよ。
ベタに言うと、山形と岡山の試合は「ほこたて」対決みたいな感じになるのかなと。山形の攻撃力と岡山の堅い守備がぶつかる。山形はたぶんそんなにやり方を変えてこないと思うんですが、岡山の木山隆之監督は、なにか仕込んでくるのではないかと。
例えばセットプレーは、山形の守り方をかなり研究してすごいこと企んでくるんじゃないかとか、サブのメンバーでちょっと意外な選手を起用してきたり。「あれ? このシステム使ってるの見たことない」みたいなのをやる可能性が一番高いのが、岡山だと思います。そこはめっちゃ楽しみです。
あとは個人的に勝手に思ってることですが、両クラブとも選手入場の時にサポーターの方が『オーバー・ザ・レインボー』を歌うんですよ。だからオーバーザレインボーダービーって側面もあるなと。2022年に競技規則の適用ミスで再試合もあって、ちょっと因縁めいてるし、今シーズンも2試合とも引き分けなんですよね。
普通に考えたら、攻撃的な山形のほうに分があるような気もします。だけど僅差のゲームになると思います。
後編「平畠さんが今年も発見! 2024年J2で面白かった選手6人」>>