第101回箱根駅伝(来年1月2、3日)に、継続中としては最長の77年連続で出場する日体大では、今年の日本学生対校1500メートルを制した高村比呂飛(ひろと、4年)が出場を目指している。かつて、その日体大では中距離と駅伝で大活躍した伝説的な…

 第101回箱根駅伝(来年1月2、3日)に、継続中としては最長の77年連続で出場する日体大では、今年の日本学生対校1500メートルを制した高村比呂飛(ひろと、4年)が出場を目指している。かつて、その日体大では中距離と駅伝で大活躍した伝説的な“二刀流ランナー”がいた。石井隆士さん(70)=現名誉教授、名誉顧問=は4年時に日本選手権800メートルと15000メートルの2冠に輝き、21・3キロの箱根駅伝1区では区間新記録をマークして優勝に貢献した。日体大のレジェンドは約半世紀前の快走を振り返るとともに、後輩の高村にエールを送った。

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 1977年の箱根駅伝で日体大4年だった石井さんは伝説をつくった。

 1区(当時の距離表示は21・8キロだが、現在の21・3キロと同じコース)のスタート直後にトップに立ち、約40メートル先で左折し、日比谷通りに出た時には後続を約2メートル引き離していた。

 3キロを8分30秒で通過。当時としては超ハイペースで飛ばした。最初から最後まで独走し、1時間4分9秒で鶴見中継所に飛び込んだ。2位と1分22秒差、距離にして約450メートルの大差をつけた。73年に東洋大の松田進さんがマークした1時間5分22秒の区間記録を1分13秒も更新した。そして、特筆すべきは、石井さんは中距離が専門種目の選手だったということだ。

 「最初から自分のペースで走ろう、と決めていました。私が飛び出した時、ほかの選手たちは『どうせ後半にバテるだろう』と思っていたようで誰も追いかけてこなかった。ただ、私は自信がありました。(約18キロの)六郷橋まで楽々と歌を歌いながら走っていました。ただ、さすがに残り3キロはきつかったですね」

 現在、70歳になった石井さんは柔らかな笑みをたたえながら当時の“逃走劇”を振り返った。

 石井さんは日本陸上界に名を残す選手だ。800メートルと1500メートルで日本学生記録を樹立。1500メートルでは日本記録を3度も更新した。日体大卒業後の77年にマークした3分38秒24の日本記録は27年間も破られなかった。日本選手権は800メートルで5連覇(74~78年)、1500メートルでは4回優勝した(76、77、79、80年)。

 「1500メートルで結果を出すためにはトラックのシーズンオフには長い距離を走り込まなければいけません。例年、10月中旬になると駅伝チームに合流して練習していました」

 2年になると強豪の日体大でも頭角を現し、箱根駅伝のメンバーに抜てきされた。1区8位とまずまずの走りを見せた。3年時は10区5位と成長。そして、迎えた最終学年では圧巻の区間新記録でライバル校と駅伝ファンを驚かせた。石井さんの快走で波に乗った日体大は2区以降も首位を譲ることなく3年ぶり6度目の優勝を果たした。つまり、その年、日体大はスタートラインを超えた瞬間からゴールまで東京―箱根間往復をトップで走り続けた。

 「箱根駅伝は今ほど注目されていませんでしたし、私にとって普通の大会でした。箱根駅伝が終わった後、休養して疲労をとり、1月の第3週から中距離のトレーニングを再開していました」

 中距離と駅伝。今では考えられないようなハイレベルの“二刀流ランナー”として活躍した。実は短距離(400メートル)も日本トップレベルの“三刀流ランナー”でもあ

った。74年アジア大会では日本代表として1600メートルリレーの第2走を担った。

 「400メートルの自己ベスト記録は47秒1でしたね。4年の時は400メートル、800メートル、1500メートル、5000メートル、1万メートルの5種目で日本ランクに入っていました」

 現在は日体大陸上部の名誉顧問を務め、中距離選手を指導。教え子の高村は学生ラストシーズンに駅伝にも挑戦している。

 「高村は1万メートル28分台の力はあります。箱根駅伝出場のチャンスはあると思います。あとは、駅伝チームの玉城(良二)監督にお任せするだけです」

 石井さんは自身に続く“二刀流ランナー”の誕生を期待する。その目は厳しくもあり、温かい。日体大が誇るレジェンドは、半世紀近くたった今も輝きを放っている。(竹内 達朗)

 ◆石井 隆士(いしい・たかし)1954年8月27日、神奈川・秦野市生まれ。70歳。秦野高3年時に800メートルと1500メートルで日本高校記録を樹立。73年に日体大入学。日本学生対校選手権800メートルで1、2、4年時に優勝。1500メートルは4連覇、1600メートルリレーは4年時に第2走で優勝。日本選手権は800メートルで2年時から5連覇、1500メートルは4年時と卒業後に計4回優勝。79年から秦野高教員。90年から日体大で教授などを務め、現在は名誉教授。陸上部では名誉顧問、中距離コーチを務めている。

 〇…高村は9月の日本学生対校選手権1500メートルで4年目にして初優勝。「夏合宿の前半は駅伝チーム、後半は中距離チームで練習して、スタミナがつきました」と手応え。その後、再び駅伝チームに合流。全日本大学駅伝(3日)で出走はならなかったが、16人の登録メンバーに入った。玉城良二監督(63)は「意欲的に練習し、チームに良い影響を与えています」と評価する。高村は卒業後も競技を続行予定。