ホーバスジャパンの「2期目」に明るい未来はあるか(前編) 最終クォーターに入って日本代表が加点できず、グアム代表が次々とシュートを決め続けると、最大19得点あったリードはみるみると縮まっていった。外観の屋根の緑色が剥げてしまい、お世辞にも華…

ホーバスジャパンの「2期目」に明るい未来はあるか(前編)

 最終クォーターに入って日本代表が加点できず、グアム代表が次々とシュートを決め続けると、最大19得点あったリードはみるみると縮まっていった。外観の屋根の緑色が剥げてしまい、お世辞にも華やかだとは言えないアリーナの室内は、勝てるはずもないと気楽に試合を訪れていたはずの地元のファンの興奮と、地響きにも思える足踏みの音で満ちた。

 11月24日に行なわれたFIBAアジアカップ予選・ウインドウ2。男子日本代表チームをホームに迎え入れたグアム代表チームとの試合の出来事だ。


ホーバスHCは日本代表を次のレベルに引き上げられるか

 photo by AFLO

 日本は最後に力を振り絞って相手を突き放し、83−78の辛勝を収めた。11月21日に栃木・宇都宮でモンゴル(世界ランキング108位。日本は21位)を93−75で破っていた日本はこれで予選4連勝となり、来夏のサウジアラビアで行なわれる本大会出場を決めた。

 もっとも、世界ランキング80位のグアムを相手にしてのこの結果は、「世界」を見据える日本の面々の舌に苦い味を残したはずだ。

「こんなバスケをしていたらダメです」

 試合直後、無名から今や日本代表に欠かせない存在へと成長した吉井裕鷹(三遠ネオフェニックス/SF)はそう言った。身体の向きは半身で、一時も早く取材エリアから離れたいという気持ちが如実に現れていた。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 吉井自身は第4クォーター序盤、スティールからボールを奪いはしたものの、直後のレイアップを外してしまっている。それによって「雰囲気が悪くなった」と述べているから、苛立ちを向けているのは自身に対してのものと思われるが、あるいはチームの出来を代弁してのことだったのかもしれない。

【セットプレーの数が限定された理由】

 10月下旬、トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)の続投が発表された。

 同指揮官は就任から3年間で、体格に恵まれない日本が世界と伍して戦えるバスケットボールスタイルを浸透させた。2023年のFIBAワールドカップでは3勝を挙げてパリ五輪の出場権を獲得するなど、着実に日本を成長させてきた。

 ホーバスHCの続投が決まったことで、日本はここからさらなる積み上げをしていかねばならない。2027年のワールドカップや2028年のロサンゼルス五輪に出場し、パリ五輪では果たせなかった「ベスト8」という目標達成を目指すことになる。

 今回の予選ウインドウ2での2試合は、ホーバス体制「2期目」の初陣となったわけだ。しかし正直に言って、この2試合だけで今後のホーバスジャパンがどのように形作られていくのか、予想を立てるのは難しい。

「今までに比べたらセットプレーは多くない。今回初めて合宿に参加する選手もトムさんの今までやってきたバスケットをできている感覚はあるので、それをしっかりと試合で見せられたらいいなと思います」

 モンゴル戦前日の練習後の取材対応で、パリ五輪までホーバスジャパンのキャプテンを務めてきた富樫勇樹(千葉ジェッツ/PG)はそう語った。今回は若手を中心とした新たな面々が代表候補として招集されたため、まずは彼らにホーバスHCのバスケットボールの根幹を植えつける意図もあったはずだ。

 オフェンス時における5アウト(コートに立つ5人全員が3Pラインよりも外に位置取るところから始める攻撃)や、ボールと人を動かしながら得点機を作り出す早いテンポのスタイルは特殊で、入ってきたばかりの選手は習熟に時間がかかる。おそらくそのような事情もあって、あらかじめ決められた動きに従うセットプレーの数は限定されていたのだろう。

 ホーバスHCは選手たちに、より厳しい練習とフィジカルさ、勝つ信念を植えつけ、日本のスタンダードを高めた。築き上げてきたバスケットボールスタイルが変わることはなく、今後もその熟成に努めていくことになる。パリ五輪という区切りを経て、今回のウインドウでは次のワールドカップや五輪に向けて「プロジェクトの一歩目」を踏み出したとも言える。

【目立ったのは1期目を知る選手ばかり】

 今回の2試合とそれに向けた直前合宿は、新たな選手を探すことが主眼のひとつだった。

 しかしながら、これまで代表に縁のなかった選手たちの中から目立った活躍を見せた者がいたとは言いがたい。モンゴル戦では比江島慎(宇都宮ブレックス/SG)や西田優大(シーホース三河/SG)、グアム戦では吉井やジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷/PF・C)と、ホーバスHCのバスケットボールを長く経験している選手たちの活躍が目立った。

 無論、新たな環境でバスケットボールスタイルに慣れ、それを無意識で体現できるようになるには時間がかかる。ホーバス氏がHCに就任して初めて指揮を執った2021年11月のワールドカップ・アジア地区予選での2試合では、中国を相手に完敗を喫している。

 富樫は自身も出場していた当時の中国戦を引き合いに出しつつ「若い選手が経験を積みながら成長していく姿を見られると思う。大きな一歩だった」と話し、日本代表のゲームを徐々に体に染み込ませることが大事だと語った。

 もちろん、このウインドウのようなシーズン中の戦いでは、選手によってコンディショニングにばらつきがある。招集がかかっていた幾人かの選手たちは、コンディショニング不良や故障によって離脱している。Bリーグの開幕節で足首の捻挫を負った渡邊雄太(千葉ジェッツ/SF・PF)も、コンディショニング不良で参加をあきらめた。

 欲張りすぎてはいけないとはわかりつつも、今回のウインドウでコートに立った者からひとりでも、光を放つ者が出てほしかった。それは繰り返しになるが、今の日本が上がろうとしている次の階段は、世界のトップチームを打破して真の意味でバスケットボールの世界地図に名を刻むことで、そのためには世界と戦える「選手が必要」だからだ。

 世界と比べてサイズで劣る日本がチームとして戦うことを是とするも、コート上に5人しか立つことができないこの競技において、個の力がモノをいう部分は大きい。ワールドカップや五輪で河村勇輝(メンフィス・グリズリーズ/PG)や八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ/SF)、渡邊雄太、比江島、ホーキンソンといった個人の力量が、日本の活躍を後押ししたことは否定できまい(現在行なわれているヨーロッパ選手権やアメリカ大陸選手権の予選でも、スペインやドイツ、イタリア、アルゼンチンといった強豪ですらNBA組抜きで戦って黒星を喫している)。

【ホーキンソンが驚いた18歳の能力】

 ただし日本は、そうした世界の舞台で戦える選手の絶対数が足りていない。パリ五輪では4人が30分以上の平均出場時間を記録(河村も29.7分)し、彼ら以外で10分以上コートに立った選手は2名しかいなかった。

 起用が偏った理由について、ホーバスHCは対戦相手とのマッチアップなど「いろいろな事情があった」と言うにとどめているが、休む間もなく試合が続く世界大会において、強豪の国々は勝ち上がるために選手の出場時間をマネジメントしながら戦うのが常である(パリ五輪で平均30分以上出場したのは日本の4選手を含めて12名しかいなかった)。日本が選手層に厚みを加えることは、世界で戦っていくうえで間違いなく必須の要素だ。

 2013年のA代表デビュー以来、日本の主力として長年活躍してきた比江島が今回のウインドウをもって代表から身を引くことを示唆している。しかし、34歳の比江島がほかの選手からの突き上げを食らって判断したのかといえば、そうではない。それは当人の「今、負ける気はさらさらない」という言葉にも表れている。このことからも、層が足りていないことは明らかだ。

 グアム戦で登録メンバーに入った18歳の渡邉伶音(れおん/福岡大学附属大濠高校/C)は、204cmのビッグマンながら機動力と柔らかな3Pシュートを打つことができる。試合が接戦となってしまったために出場機会はなかったが、ホーキンソンが「18歳の頃の自分を見ているようだ」と表現するほど将来性は高い。

 パリ五輪の代表メンバーに選ばれた20歳のジェイコブス晶(あきら/ハワイ大/SG・SF)や、21歳の山﨑一渉(いぶ/ラドフォード大/SF)といった海外の大学でプレーする若者たちの成長にも期待したい。リバウンドやリング側からの得点が得意な渡邉飛勇(信州ブレイブウォリアーズ/C)は、渡邉伶音やジェイコブスらの若い才能が花開けば「日本のバスケットボールは爆発的に成長するはずだ」と話した。

【ネクスト河村勇輝は出てくるのか】

 若い才能を見つけ出し、厳しい指導で育んでいくホーバスHCの力は確かだ。数年前まで無名だった吉井は、所属クラブで毎試合数分しか出番がなかったところから台頭し、パリ五輪では全試合に先発出場しながらコートに立ち続け、その精神性やプレーぶりはホーバスジャパンをもっとも体現する存在となった。

 また、アシスト重視だった河村が得点意識を高めるようになったのも、ホーバスHCの厳しい指導あってこそと言える。彼らのような選手は簡単に出てこないかもしれないが、次の吉井、次の河村の出現を期待したい。