ホーバスジャパンの「2期目」に明るい未来はあるか(後編) 今後のバスケットボール男子日本代表のメンバー選考について、トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)は「対世界」を見据えて、より万能な選手を増やしていくのではないだろうか。 どれだけ優れたシ…
ホーバスジャパンの「2期目」に明るい未来はあるか(後編)
今後のバスケットボール男子日本代表のメンバー選考について、トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)は「対世界」を見据えて、より万能な選手を増やしていくのではないだろうか。
どれだけ優れたシューターがコートにいたとしても、相手に打たせないディフェンスを徹底されてしまうと、日本のオフェンスは停滞してしまうことがしばしばあったからだ。
FIBAアジアカップ予選・ウインドウ2のモンゴル戦とグアム戦では、西田優大(シーホース三河/SG)が日本のトップスコアラーとなった。しかし、西田が活躍できたのは3Pシュートだけでなくボールハンドラーもこなし、PGからSFまで(時にはPFも務めた)複数のポジションを担うことで、トランジションでもハーフコートでもオフェンスが停滞しにくかったのがよかったように感じられた。
※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。
八村塁(左)と河村勇輝(右)のコンビプレーは代表で見られない?
photo by Getty Images
昨年のワールドカップで日本は、2Pシュートの成功率(57.1%=32カ国中11位)が高く、3Pの成功率(31.3%=32カ国中22位)は上がらなかった。しかし今年のパリ五輪では、3P(39.3%=12カ国中3位)の成功率が高く、2P(39%=12カ国最下位)が低く抑えられてしまった。パリ五輪のほうがよりレベルの高い相手だったことを考えると、その内容が「世界における日本の現在地」と言っていいかもしれない。
2Pシュートの成功率を上げるカギのひとつは、「カッティング」の精度を上げることではないだろうか。
ホーバスHCはコートの5人全員が3Pラインの外に立つところからスタートする「5アウト」など、3Pラインの中のスペースを広く取るオフェンスを用いる。その広くなったスペースに切り込み、相手ディフェンスのバランスを崩すことでチャンスを得るためだ。中に攻め込むオフェンスではドリブルによるドライブインもあるも、パスのほうが速く有効と言える。
【次のステップは五輪出場国の撃破】
しかし、どのタイミングで中に切れ込むかは、チーム練習の積み重ねから培われる「阿吽の呼吸」が必要だ。モンゴル戦やグアム戦を見ても、以前から代表でプレーしている選手たちのカッティングやパスを送るタイミングは体に染みついていたが、代表経験の少ない選手たちは思いきった動きができていないように見受けられた。
パリ五輪での日本のカッティングについて、ホーバスHCは「悪くなかった」と語った一方で、得点を奪う最後のレイアップでミスが多かったとも振り返っている。日本は切り込むことはできても、その後のシュートで得点することに苦慮しているようだった。
ビッグマンながらカッティングを得意とする渡邉飛勇(信州ブレイブウォリアーズ/C)は、五輪出場レベルの国に対してカッティングを使って得点を決めるのは「まったく容易ではない」と、首を横に振りながら言う。
「(五輪直前に対戦した)セルビアは特にそうだったし、フランスやドイツもそう。彼らはディフェンスのローテーションが非常によく、かつ選手たちも大きい。だからカッティングでリングまで迫ったとしても、そこから相手のビッグマンを交わしながら、そのまま片足でシュートにいくのか、アリウープにいくのか、カイリー・アービング(ダラス・マーベリックス/PG)のようにダブルフェイクをするのか、自身の強みを意識しながら得点にいかねばならないんだ」
富樫勇樹(千葉ジェッツ/PG)などはたびたび、日本のいる「アジア」と欧米などの「世界」はレベルが別世界であると言いきっている。しかし、2019年のワールドカップからパリ五輪まで4度連続で世界大会に出場し、着実に成長を遂げてきた日本にとって、次なるステップは上記のようなチームを撃破することだ。日本は今後、これまで以上に「対世界」を想定しながら取り組んでいく必要がある。
まずは選手を探し、日本のスタンダードを上げることに時間を要した「1期目」とは異なり、ホーバスHCの「2期目」はすでにバスケットボールスタイルが浸透している。世界のトップクラス打破のために進んでいくべき道は、以前ほどおぼろげなものではなくなった。それだけに次の3年、4年は、パリ五輪までの3年間とはまったく違った成長速度を見せるはずだ。
【八村と協会の関係はもはや壊滅的】
ただ、気がかりなこともある。
八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ/SF)がNBAでの試合後の会見で、日本協会は代表の強化よりも収益を上げることばかり考えている、ホーバスHCは男子プロレベルで指導経験が乏しくて指導法も世界基準ではない、と批判し、日本バスケットボール界を騒然とさせている一件だ。
これに関して、バスケットボールファンの意見は割れているように見受けられる。八村が代表監督に対して公然と批判したことは、日本のバスケットボール史においてあまりに異例だ。
どのような経緯で八村が批判に至ったのか、いまもって判然としない。昨年のワールドカップに八村が参加しなかったのはFAとなるタイミングで立場を確立するためにそちらを優先したとされたが、実際はそうではなく、あるいはホーバスHCのチームでのプレーに消極的だったのか(ホーバスHCの指導を受けてみて「世界レベルの指導者ではない」といった趣旨の発言をしているため、パリ五輪前から代表に参加して思いを強くしたのかもしれないが)。
いずれにしても、両サイドの溝がここまで深くなる手前で間をうまく取り持てていなかった日本協会に非があると言わざるを得ない。モンゴル戦の前日には宇都宮の会場で日本協会の渡邊信治事務総長がメディアの囲み取材に応じ、協会が八村の代理人サイドとオンラインで話し合いを持ち、コミュニケーション不足が今回の発言につながったと話した。
しかし八村は、現状の協会の体制──つまりホーバスHC指揮下の代表チームではプレーすることはない、とまで口にした。もはや、日本協会およびホーバスHCサイドと八村の関係性は後戻りできないほど、壊滅的なものとなってしまった。
日本協会はホーバス氏を「多くの選手たち、それからバスケットボールの関係者もリスペクトする世界的なレベルのコーチ」と述べ、変わらず支持している。しかし、八村の一連の発言によってホーバスHCがこれまでと同様の求心力を保てるのだろうか、という懸念は抱いてしまう。
【アジアカップで早々に負けるようなら...】
ホーバスHC指揮下の日本代表メンバーに今後、八村の名前が挙がることはあまりに考えにくい。しかし、八村がいようといまいと、ロス五輪でベスト8を狙うという目標が揺らぐこともあるまい。
日本は11月の2試合で、来年のアジアカップ本戦出場を決めた。日本はアジアカップですら上位に進出しているわけではない(最後に優勝したのは1971年大会。前回の2022年大会は7位)ので、ワールドカップや五輪を語るならば、ここでつまずいているようでは心もとない。
富樫はこう語った。
「目指しているところはここ(アジアの上位)ではないので、当たり前のように勝っていかなきゃいけない。アジアカップでトムさんは優勝したいと言っていたけど、当たり前のようにベスト4に入ってメダルを獲っていくチームになりたい」
八村の発言。新旧選手の交代。グアム戦での苦戦──。今回のウインドウだけで何かを断言することはできないが、今後の日本代表の行方を占うにあたって、頭上を覆う雲は灰色がかっていると言わざるを得ない。