豊田陽平インタビュー(前編) 豊田陽平(39歳、ツエーゲン金沢)は、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチと、3人の監督に、日本代表のストライカーとして選出されている。 いわゆるザックジャパンでは2013年…
豊田陽平インタビュー(前編)
豊田陽平(39歳、ツエーゲン金沢)は、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチと、3人の監督に、日本代表のストライカーとして選出されている。
いわゆるザックジャパンでは2013年の東アジア選手権で中心選手として優勝に貢献した。最後はバックアップメンバーとなり、ブラジルW杯出場は逃したが(4年間選出がなかった大久保嘉人が選出されることになった)、「横からのボールへの強さ」は日本人FWでは傑出していた。アギーレにも高さやタフさを評価され、2015年アジアカップに出場。ハリルホジッチ政権では出場はないものの、メンバーには選ばれている。
豊田は代表での出場試合数、得点数が決して多いとは言えない。しかし、世界で実績のある外国人監督が「手元に置きたい」と思わせるセンターフォワードだった。その点、歴代日本人FWでも特筆すべき存在だ。
その豊田が今、見つめる現在の日本代表ストライカーの肖像とは?
日本代表に定着しつつある小川航基 photo by Kishimoto Tsutomu
現在、森保一監督が采配を振る日本代表で、ストライカーとして"首席"に座っているのは、上田綺世(フェイエノールト)になるだろう。
「上田選手は、僕にはない感性を持ったストライカーですね」
豊田は上田について、そう説明している。
「自分のイメージと合致しないところで、あれだけ動けて点を取れる、というのは心からすごいと思います。彼のなかでは、そのイメージができているからこそ、あれだけの反応ができる。自分たちのポジションは、ボールが来てから反応しても遅い。ボールが出る前に準備して、そのイメージで体を動かす。上田選手はそこでの引き出しが多いんです。その角度やタイミング次第で、常にたくさんの選択肢を持っているんですよ。だから、あれだけ点が取れる」
そして豊田は上田の"特殊能力"を、もうひとつ挙げている。
「"そこで打っちゃう?"というパワーシュートですね。インパクトの違いなんでしょうけど、半回転だけでもねじ込める。ミドルというよりロングも打てます。それは自分が持っていないもので、率直にすごいな、と。同じパワーと言っても、使い方でいろいろあるもので、彼は強いシュートを打つという"うまさ"があるんですよ」
【大橋祐紀は「誰よりもストライカー」】
一方で、豊田がJリーグでずっと注目してきたふたりのセンターフォワードが、2026年ワールドカップ、アジア最終予選の代表メンバーに選ばれている。
ひとりはオランダでゴールを量産している小川航基(NEC)だ。
「小川選手は、ジュビロ(磐田)にいた頃から"駆け引きしているな"と思ってゴールシーンには注目していました。自分に近い駆け引きのポジショニングで点を取っていたので興味もあって」
豊田はそう言って、こう続けた。
「小川選手が考えてやっていたのか、それは知りませんけど、前半から伏線が張られているんですよ。それを後半になって回収している。マーカーとの駆け引きで、しっかり背後を取れていて、高さもある。"ワンタッチゴーラーだな"って思いました。一時、うまく点が取れなかったのは、足元のうまさを生かそうとしすぎて、切り込んでのシュートとか、意固地になっていたように見えました。点を取るポジションの選手の伏線が作れなくなって......。でも、今は無理なく点が取れていますね」
事実、小川は直近の中国戦でも、主にポジショニングで勝利することによって、こともなげに2得点を決めたように映った。ゴールへのアクションを単純化することで怖さが増した。
豊田が注目していたもうひとりは大橋祐紀(ブラックバーン)だ。
「湘南(ベルマーレ)でプレーしていた時から、ずっと気になっていました」
豊田はそう明かし、大橋について称賛していた。
「足を使えるストライカーで、"ムーブ系"と言うんですかね? 動きの質が高い。高さもあって、ポストも収められて、守備もしっかりでき、何でもそつなくこなせる。それだけに、点取り屋というよりは潤滑油のように扱われることも多かったかもしれません。(湘南に)町野(修斗)選手(現キール)wがいたのはあるんでしょうけど、セカンドストライカーのところをやる印象ですが、僕は"誰よりもストライカーだな"と思っていました」
その後、大橋はサンフレッチェ広島、ブラックバーンで得点を量産。代表でもデビューを飾っている。
「大橋選手は点を取る、という意識が強い。伏線の話で言えば、何回も何回も駆け引きしている。1、2回でなく、何度も見せているからこそ、得点に至る動きになっているんです。そこの"惜しみなさ"が目を引きますね。自分もそうでしたが、"先発完投型"。90分のなかで伏線を張って、回収できるストライカーだと思います」
豊田は、タイプが違う3人の日本人センターフォワードたちを端的に解説している。ある領域に入った者だけが語れる世界があるのだろう。非常に興味深い考察だった。
〈ゴールに偶然はない〉
よくストライカーたちはそう言う。その必然を紐解くと、ストライカーの本質が表われるのだ。
(つづく)
【profile】
豊田陽平(とよだ・ようへい)
1985年、石川県生まれ。星稜高校卒業後、名古屋グランパス入団。その後、モンテディオ山形、京都サンガ、サガン鳥栖、蔚山現代、栃木SCでプレーし、2022年からツエーゲン金沢に。2008年、北京五輪に出場。2013年、アルベルト・ザッケローニによりフル代表に初選出。