2024年の天皇杯覇者が決まった。11月23日に国立競技場で行われた決勝で、ヴィッセル神戸がガンバ大阪を1-0で破って、5大会ぶり2度目の優勝を果たしたのだ。サッカージャーナリスト後藤健生が、関西勢同士の頂上決戦で感じた、日本サッカー界の…

 2024年の天皇杯覇者が決まった。11月23日に国立競技場で行われた決勝で、ヴィッセル神戸がガンバ大阪を1-0で破って、5大会ぶり2度目の優勝を果たしたのだ。サッカージャーナリスト後藤健生が、関西勢同士の頂上決戦で感じた、日本サッカー界の「大きな変化」とは?

■圧倒的に「東高西低」のJリーグ

 2024年の天皇杯決勝で、もう一つ特徴的だったのは、顔合わせが関西勢同士となったことだ。関西対決は、1953年の第33回大会以来71大会ぶりだという。

 このときのカードは全関学対大阪クラブ。関西学院大学の現役選手とOBによる「全関学」はこの頃の天皇杯では毎年、上位に進出する強豪だった。一方の大阪クラブは、各大学を卒業したOBたちが集まったクラブだった。

 ちなみに、この頃の天皇杯は毎年、全国各地で持ち回り開催されていたが、第33回大会の会場は、やはり関西。京都市の西京極だった。

 関西対決は、それ以来、たとえば、「関西勢対名古屋」、「関西勢対広島」といった決勝戦もあったものの、多くの大会では首都圏をはじめとする関東のチームが決勝に進出することが多かった。

 Jリーグ発足後だけでなく、日本サッカーリーグ(JSL)時代から、首都圏、関東地方に強豪チームが多かったからだ。

 現在でも、J1リーグのクラブの分布をみると、圧倒的に「東高西低」だ。

 2024年のJ1リーグには、FC東京東京ヴェルディFC町田ゼルビアと東京都のクラブが3つ存在した。神奈川県にも横浜F・マリノス川崎フロンターレ湘南ベルマーレの3クラブが存在し、来シーズンには横浜FCが昇格することも決まっている。

 その他、埼玉県にはJリーグ最多の入場者数を誇る浦和レッズ、茨城県には常勝軍団復活を図る鹿島アントラーズがある。

■関西対決と「専用スタジアム」増加

 しかし、そうした「東高西低」の状況は少しずつ変化しつつあるのかもしれない。

 昨シーズンは神戸がJ1を初制覇。サンフレッチェ広島も3位に入っていたし、今シーズンも終盤を迎えて、J1の優勝争いは事実上、神戸と広島の一騎打ちとなっている(町田にも数字上は逆転優勝の可能性が残されているが……)。

 そして、天皇杯決勝でも、関西対決が実現したのである。

 2015年には、G大阪の本拠地として吹田スタジアム(パナソニックスタジアム吹田)が完成。その後、京都府亀岡市にサンガF.C.の本拠地、サンガスタジアム by KYOCERAなど、関西圏には次々とサッカー(球技)専用スタジアムが造られてきた。そして、今年はサンフレッチェ広島のピースウイング広島、ツエーゲン金沢の金沢ゴーゴーカレースタジアム、そして、最近もV・ファーレン長崎のホーム、スタジアムシティ長崎が完成した。

 一方の東日本のクラブは、2002年のワールドカップ前後に造られた、築25年程度の古いスタジアムを使い続けており、その多くが観戦環境の悪い陸上競技兼用スタジアムだ。

 こうして、スタジアム施設の面ではすでに「西高東低」化しているのだ。

■「伸びしろが大きい」西日本のクラブ

 新スタジアム完成によって、サンフレッチェ広島は観客動員数を大幅に増やすことに成功した。

 20世紀末から21世紀初めにかけてドイツ・ブンデスリーガの観客数が大幅に伸びたのは、専用スタジアム化が進んだことが原因の一つだったことはよく知られている。今後も、西日本のクラブには伸びしろのようなものが大きいのではないだろうか。

 そして、昨年と今年のリーグ戦、カップ戦を通じて西日本勢の台頭が感じられるのだ(YBCルヴァンカップの決勝も、名古屋グランパスアルビレックス新潟と、関東勢以外の対戦となった)。

 日本サッカーをさらに強化するためには、Jリーグクラブが全国の都道府県にあまねく立地し、各地の貴重なタレントを見逃さずに、育成の舞台に引き上げていく必要がある。

 そうした意味でも、西日本のクラブが活性化することは歓迎すべきことであろう。日本フットボールリーグ(JFL)で準優勝を決めた高知ユナイテッドFCが、12月上旬に行われるYSCC横浜とのJ3・JFL入れ替え戦に勝利すれば、高知県初のJリーグクラブとなり、「Jの空白県」がまた一つ減る。

 関西対決となった天皇杯決勝は、そうした西日本勢の台頭を象徴するような試合でもあったのである。

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