木村和久の「新・お気楽ゴルフ」連載◆第44回 ここ数年ですっかり定着したのが、乗用カートのナビゲーションボード付きでのセルフプレーです。あまりの便利さに、最近ではこのパターンじゃないとプレーしづらい感じになっています。 何がどうすごいのか、…

木村和久の「新・お気楽ゴルフ」
連載◆第44回

 ここ数年ですっかり定着したのが、乗用カートのナビゲーションボード付きでのセルフプレーです。あまりの便利さに、最近ではこのパターンじゃないとプレーしづらい感じになっています。

 何がどうすごいのか、少し説明したいと思います。

 まずナビゲーションボードですが、この性能がアップしたのは2022年頃です。ナビボードは以前からあったのですが、大手のゴルフ場チェーンが新バージョンを導入すると、その性能が格段に向上していました。

 何よりすごいのは、オペレーションをキャディマスター室で一括管理できること。コースに出ている乗用カートのすべての位置を把握していますから、乗用カートが前の組のカートと近づきすぎていないかなど、ひと目でわかります。

 たとえば、仲間同士が前後2人と3人でラウンドしている2組があったとします。「面倒くさいから、5人ひと組で回ろう」とカートを合流させたりしたら、速攻で無線がかかってきて注意されます。

 また、乗用カートのフェアウェー乗り入れ可能なコースでは、スタート時にカート乗り入れラウンドの申請をして許可をもらうのですが、この点についてもキャディマスター室ですべて把握しています。

 なので、乗り入れの許可を得ていないカートがフェアウェーを走行していると、すぐにチェックを受け、ナビボードから「このカートはフェアウェー走行の許可は出ていません。すみやかに移動してください」と、自動音声で延々とアナウンスされてしまいます。

 一度、キャディマスター室との連絡ミスで、自分たちのカートのフェアウェー走行許可がオフになっていて、ひとホールの間、「すみやかに移動してください」と延々と言われ、うんざりしたことがありました。もちろん、こっちのミスじゃないので、直ちに改善してもらいましたけど。

 なんにしても、これじゃズルはできませんね。

 肝心のナビ性能ですが、自分のホームコースである扶桑カントリー倶楽部の場合、乗用カートがフェアウェー乗り入れ可能なので、ボールのそばまでカートを横付けできます。だから、ナビボードを見れば、グリーンまでの残り距離がかなり正確にわかります。

 友だちの距離計と比較しても、誤差は1~2ヤードほど。じゃあ、自分で距離計を持ち込む必要はないだろう、と思いますが、ナビボードは100ヤード以内とか微妙な距離計測は苦手なようで......。

 そもそもグリーン手前の60~70ヤード以内には、乗用カートは入れません。コースによっては、グリーン手前100ヤード以内くらいから入れないところもありますから、その範囲内での正確な位置は計測できません。

 しかも、ナビボードの距離計測方法はグリーンエッジまでの距離がインプットされていて、それに当日のピン位置を足して計算しているパターンが多いです。だから、ピンに対して直線的な距離計測は得意ですが、グリーン脇の距離計測は苦手。そういった場所においては、手持ちの距離計を使うか、経験で養った距離感を信じるか、ですね。

 セルフプレー増加の後押しと言えば、R&Aのルール改正もそのひとつです。

 2019年から、ピンを差したままパットを打てるようになりました。つまり、ピンを抜いて、また差してという、それまで毎ホールやっていた行為がなくなり、セルフプレーのなかでもとりわけ面倒だった行為が消滅した、ということです。

 あと、セルフプレーで自らやることは、ボールを拭くとか、ディボット跡の目土、バンカーの均し、ピッチマークの修復などがありますが、それらはプレーヤー自身がやればいい話。それらはやらなかったとしても、ペナルティーは受けません。プレーヤーの志の問題となります。それがイコール、コースのクオリティにつながるわけです。

 ちなみに、名門&高額コースのゲストは、セルフプレーでもしっかりマナーを守り、コースをきれいに使っていることが多いそうですよ。

 ところで、こうしたセルフプレー、乗用カートでのナビゲーションラウンド全盛の今、キャディ付きラウンドはどうなっていくのでしょうか。

 実はこれ、気づかないうちにサービスの変化が起きているようです。

 キャディ付きかセルフか選択制のコースでは、キャディ付きを選択しない場合が多くなっています。それは、キャディさんを付けると料金負担も増えるし、セルフで事足りると誰もがわかっているからです。

 キャディ付きにするのは、VIPなゲストがいる、あるいは初心者がいる、とかでしょうか。そういう場合、キャディさんにはそういった方々に集中して付いて回ってくれるように頼みます。

 そうしたなか、久々にキャディさんのいるラウンドがありました。さて、昔と何が違ったでしょうか。

 以前より、キャディさんは自らの業務を主張しなくなりました。それは、セルフプレーに慣れたお客さんが多いからなんですね。

 どういうことかと言うと、昔のキャディさんであれば、林にボールを打ち込んだら「はい、7番アイアンを持って」と、かなりプレーヤーに関与してきました。20年ほど前の話ですけど、ショートホールではキャディさんが初心者にクラブを勝手に配っていましたからね。「あんたは、7番で」「あんたは、力まず8番で軽く」といった案配で。

 今は、そういうのはないですね。できるキャディさんは、「林に入ったときは何を使います?」「アプローチはSWでいいですか?」って、あらかじめ聞いてきます。

 キャディさんの一番の腕の見せどころだったグリーン上のライン読みに関しても、今では皆がセルフプレーに慣れているので、プレーヤーに好きに打たせています。プレーヤーも悩んで困ったときだけ、キャディさんにアドバイスをもらっている。そういうパターンが多いです。


思えば昔のキャディさんは、初心者が打つクラブを勝手に選んだりしていましたね...

 lustration by Hattori Motonobu

 そもそも今のプレーヤーの多くは、キャディさん慣れしていません。セルフプレーばかりしているので、どう接していいかわからない、というところがあるようです。

 昔はパットが入らないと、キャディさんに食ってかかる人がいました。「ウソばっかり教えるね」とか、嫌みを連発したりして......。

 キャディさんというのは、やはり古き良きメンバーコースでこそ、存在価値が高まるものなのでしょう。

 20~30年前に、南総カントリークラブ、鶴舞カントリー倶楽部のメンバーだった頃、キャディ付きが基本でした。そうなると、キャディとの相性などが生まれたりして。あるいは、互いのクセがわかったりとか。

 もちろん各コースにはエースキャディがいて、大きな試合の大事な場面には、そのエースキャディが登場するんですよね。自分も何回か付いてもらいましたが、ほんとグリーンのことはよくわかっているんですわ。

 キャディ付きラウンドは、ひとつの文化だったのかもしれません。

 そうした状況にあって、歩きのキャディ付きラウンドを頑なに守ってきた名門コースで異変が起きています。足腰が弱ったメンバーに、軽量な2人乗りの乗用カート利用を許可する動きがあるのです。

 名門コースは、英国紳士のスピリットを受け継ぎ、質実剛健。歩きラウンドが基本です。とはいえ、もはやメンバーの高齢化には勝てなくなってきたんですね。

 日本人男性の平均寿命は81歳ぐらい。健康寿命は73歳ぐらいと言われています。ということは、70歳を越えると、歩行ラウンドしづらい人が増えます。今後は、そういう方々がどんどん増えていくわけですしね。

 個人的には乗用カート利用、大賛成です。生涯スポーツと謳うゴルフなのだから、体が不自由になっても、生涯ラウンドできる環境を作っていただかないと。

 乗用カート導入に反対していたメンバーが、晩年には乗用カートの世話になるとは......なんとも皮肉な結果ですよね。