なぜかうまくいかない。原因は分からない。「本当は早く帰りたい」と内心では思う。それでも、宋永漢(ソンヨンハン)(韓国)は練習場から離れられない。黙々とゴルフと向き合う同学年の好敵手の存在が、心を奮い立たせてくれる。 11月中旬のダンロップ…
なぜかうまくいかない。原因は分からない。「本当は早く帰りたい」と内心では思う。それでも、宋永漢(ソンヨンハン)(韓国)は練習場から離れられない。黙々とゴルフと向き合う同学年の好敵手の存在が、心を奮い立たせてくれる。
11月中旬のダンロップフェニックス(宮崎・フェニックスCC)。13位タイで決勝ラウンドに進んだ3日目、3オーバーと崩れて43位に降下した。
「去年はパターの調子が良くなって、優勝してからバーンと上がっていったのに、今年はどうして……」
昨季、8月のKBCオーガスタ(福岡・芥屋GC)を制し、9度のトップ10入り。うち5回は2位と好成績を残した。賞金ランキングは自己最高に並ぶ4位。球の高低を巧みに打ち分ける技術の高さが、天候やコースを問わない活躍を下支えした。
しかし、今季は苦しい展開が続く。前週まで優勝はなく、トップ10入りはまだ、3回。
好順位につけながら後半でスコアを落とすことが多く、「すごく怒ってしまって、練習はやりたくない」。気持ちを上手にコントロールできない自分がいた。
そんなとき、いつも目につく姿がある。「遼を見ると頑張らないと、と思う」。同じ33歳の石川遼だ。
石川は、柔らかい表情のまま競技を終えて練習場へ行き、見つけた課題に黙々と取り組んでいる。気持ちが乱れたままでいる自分とは、違って見えた。
「(試合後に練習している)遼は、その日のゴルフがよかったのか、ダメだったのか分からないんです」
同学年のそんな姿勢を見ていると、気持ちが少し前を向く。「あれは僕にはできないけど、できることを頑張りたい」
成績やギャラリーからの人気があるからだけではない。めざす選手像とも一致するからこそ、「彼は本当にスーパースター」。
11月初旬の三井住友VISA太平洋マスターズ(静岡・太平洋クラブ御殿場)で20勝目を挙げた石川を見て、また奮起した。
悔しさを練習にぶつけた時を経て、22日から行われているカシオ・ワールドオープン(高知・Kochi黒潮CC)では首位タイで3日目を終えた。
その日は1オーバーと振るわず、混戦から抜け出せなかったが「寒くて手の感覚がなくなったね」。いらだつそぶりはなく、笑顔を浮かべながら、夕暮れの練習場へ向かった。
最終日も石川と同様に、スコアを伸ばすことはできなかった。ただ、ともにトップ10入り。「自分が満足できるプレーをしたい」。その思いを遂げるチャンスは、次週の最終戦に持ち越された。(平田瑛美)