11月23日、日本で一番古い定期戦である関東大学ラグビー対抗戦の「早慶戦」こと、早稲田大vs.慶應義塾が東京・秩父宮ラグビー場で開催された。 100年ほど前、早稲田大の当時のマネージャーが半世紀も雨が降っていない晴れの"特異日"を探し出し…
11月23日、日本で一番古い定期戦である関東大学ラグビー対抗戦の「早慶戦」こと、早稲田大vs.慶應義塾が東京・秩父宮ラグビー場で開催された。
100年ほど前、早稲田大の当時のマネージャーが半世紀も雨が降っていない晴れの"特異日"を探し出し、開催日を毎年11月23日に決めたという早慶戦は、今年も風があったものの雲ひとつない快晴のなか、14,677人のファンが集った。
佐藤健次の活躍で早稲田大は全勝優勝に大きく前進
photo by Saito Kenji
早稲田大は昨季王者の帝京大にも快勝し、今季は開幕から負け知らずの5連勝。対する慶應義塾大は2勝3敗の6位ながら、14年ぶりの早慶戦勝利に向けて大一番に臨んだ。
序盤は慶應大の黒黄ジャージーがタックルやジャッカルなど接点でファイトし、スコアボードが動くことなく試合は進んだ。やや停滞していた状況のなか、その雰囲気を打ち破ったのが、「サトケン」の愛称で人気を誇る早稲田大107代目キャプテンHO佐藤健次(4年)だ。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
前半12分、佐藤はSO服部亮太(1年)からパスを受けると、自慢の突破力で大きくゲイン。FW間でオフロードパスをつなぎ、最後はNo.8鈴木風詩(4年)が先制トライを挙げた。
「最近はプレーに余裕が出て前もしっかり見えていたので、自分をコントロールすることができた。相手が外から詰めてきているなとわかったので、最初はスピードを落とし、ボールをもらう前にスピードを上げました」(佐藤)
その後も早稲田は服部のキックを軸に相手陣で攻め続け、FWからの展開では佐藤がチームを束ねた。結果、計8トライを挙げた早稲田大が101回目の早慶戦を57-3で大勝し、通算成績を74勝20敗7分として終幕した。
【スクラムで完敗した悔しさをバネに】
しかし試合後、佐藤は反省を口にした。
「この1週間、準備してきたことがまだまだ出せていない。ミスをしてしまうと、次の明治大戦(12月1日・国立)、大学選手権で負ける原因になる」
この勝利への貪欲さが、早稲田大の強さを支えているのだろう。
今季の早稲田大の好調を支えているのは、豪華なタレントが揃うBK陣のアタックだけでない。佐々木隆道コーチが指導する組織ディフェンスだ。帝京大にこそ3トライを許したが、早慶戦でも相手を0トライに封じるなど、平均失点は5.5点まで抑えている。
強力なディフェンスについて、大田尾竜彦監督はこう語る。
「選手たちがディフェンスに対してプライドを持っている。とにかくワークし続けることが浸透していて、トライラインを割らせない気持ちが強く出ている」
そしてもうひとつ、今季の早稲田大で見過ごせない部分がFWセットプレーのスクラムだ。
昨年の12月23日、早稲田大は大学選手権・準々決勝で関西王者の京都産業大にスクラムで粉砕されて28-65と大敗。正月越えも叶わず、選手たちは涙を流した。
寒風が強く吹いていた大阪・ヨドコウ桜スタジアムのピッチ上で、当時3年生だった佐藤は同期のPR亀山昇太郎や門脇浩志と、「次に対戦した時は、絶対にスクラムを押されない」と固く誓ったという。
悔しい気持ちを切り替え、新チームとなった2024年。早稲田大は仲谷聖史コーチの下、スクラムを組み続けてきた。
「僕が一番がんばらないといけないと思ってやってきた。昨季から特別なことはしていないが、今季はスクラムのレベルが高くなっている。練習ではBチームが勝つ週もあるので、日々の切磋琢磨が成長につながっている」(佐藤)
もちろんFW全体だけでなく、No.8から転向して3年目──佐藤個人のHOとしての成長も目を見張るものがある。
関係者に聞くと、昨季までの佐藤は自分でどうにかしようと、スクラムの全体のバランスを崩してしまっていた時もあったという。しかし今季、大学ラグビー以外でも刺激を受け、HOとして多くの経験を積んだ。
【12月1日の早明戦は通算100回目】
2月からエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が就任した日本代表の候補合宿に参加し、4月にはジュニア・ジャパンとしてサモア遠征に参戦して優勝に貢献。さらに5月末の代表候補合宿を経て、6月から7月にかけて初めて日本代表に選出された。キャップを得ることはできなかったが、マオリ・オールブラックス戦で国際試合デビューも飾った。
日本代表合宿で佐藤は、元オールブラックスのオーウェン・フランクス・コーチにスクラムの基本姿勢を習い、同じポジションの坂手淳史(埼玉ワイルドナイツ)や原田衛(ブレイブルーパス東京)のプレーからも多くのことを吸収したという。
「坂手さんと(原田)衛さんとは宮崎合宿で同じ部屋だった時があり、スクラムを組む前の姿勢だったり、こういう相手にはこう組めばいいかなど、HOとしての細かいスキルを教えてもらった。一気に成長できたと思います!」(佐藤)
日本代表監督就任時に「若手を育てなければいけない」と宣言していたジョーンズHCは、さっそく行動に移して多くの大学生を招集した。そして声をかけた若手たちには、「大学に戻ってもスタンダードを落とすな」と激励してきた。
そのような刺激を受けた佐藤は、2027年のワールドカップ出場を目標としている。
「(大学でも)日本代表なりのプレーをしないといけない。そして(卒業後にリーグワンのチームに加入した)来年は日本代表にフルコミットしたい」
12月1日にはライバル明治大との「早明戦」を迎える。
100回目の節目となる今年は、FB五郎丸歩やSO山中亮平(神戸スティーラーズ)が在籍した2007年以来の全勝優勝がかかる。佐藤は早稲田大に入学してから、まだ一度も優勝できていない。
佐藤に心境を聞いてみると、「100回目の早明戦のキャプテンって、ちょっと格好いいな」と笑顔を見せた。そして顔を引き締めながら、意気込みを語った。
「明治大は1~23番までスーパースターが揃っている、スター軍団みたいなイメージです。身体の小さい僕らは、花園出場がなかったり、あまり出ていなかった選手たち。でも、そこから伸びてこその早稲田大だと思う。外的要因に惑わされずに自分たちにフォーカスしたい」
早慶戦後、佐藤はチームメイトにこう話した。
「僕らは『荒ぶる』(※優勝した時にのみ歌うことが許される第二部歌)を歌って、やっと満足できる」
今季のスローガンは『Beat Up』。「相手をぶっ倒す、ボコボコにする」という意味を込めているという。臙脂(えんじ)のスキッパー(舵取り役)を託された「サトケン」は常に先頭に立ち、向かってくる相手を全部ぶっ倒して頂点まで駆け上がる。