日本で最初の国際招待競走として始まったジャパンカップが、今年で44回目を迎える。 創設当初は、外国招待馬が日本勢を翻弄。圧倒的な強さを見せていた。それが、20世紀から21世紀に変わる頃から状況が一変。ホームの日本調教馬が上位を独占するレー…

 日本で最初の国際招待競走として始まったジャパンカップが、今年で44回目を迎える。

 創設当初は、外国招待馬が日本勢を翻弄。圧倒的な強さを見せていた。それが、20世紀から21世紀に変わる頃から状況が一変。ホームの日本調教馬が上位を独占するレースとなって、かつては数多く来日していた海外のビッグネームの姿も見られなくなった。

 ところが、今年は一転して、主役級の戦歴を持つ馬たちがヨーロッパから名乗りを挙げて乗り込んできた。アイルランドのオーギュストロダン(牡4歳)、フランスのゴリアット(せん4歳)、ドイツのファンタスティックムーン(牡4歳)の3頭だ。いずれも、ワールドクラスの実力馬で、外国招待馬の上位独占があってもおかしくない。


ジャパンカップに参戦するオーギュストロダン

 photo by Tsuchiya Masamitsu

 なかでも、実績で群を抜いているのは、オーギュストロダン。これまでに来日したトップクラスの面々と比べても、最上位の部類に入る。

 GI勝利は6回。英国とアイルランドのダービーのほか、アイリッシュチャンピオンS、ブリーダーズカップターフ、プリンスオブウェールズSなど、過去に日本調教馬も挑んできたが、一度も勝つことができなかったレースばかりで、正真正銘の"チャンピオンホース"と言える。

 父は、日本競馬の至宝ディープインパクト。それも、ラストクロップである。それでいて、3歳の頂点とも言える本場イギリスのダービーを勝ってしまうのだから、"持っている"という次元も相当なもの、と見ていいだろう。

 ジャパンカップは、父ディープインパクト自身も勝利。産駒も延べ4勝、2着も5回あって、この舞台における血統的な適性も高い。

 ただ、懸念がないわけではない。ひとつは、2歳時が4戦3勝、3歳時が6戦4勝だった成績が、4歳になった今年は5戦してわずか1勝と、やや勢いに陰りが感じられる点だ。

 もうひとつは、これまでに4回ある5着以下のうち、3回が2400m戦(2410m、2390m戦も含む)ということ。そのうち2回は、10着(10頭立て)、12着(12頭立て)。負けるにしても、負けすぎの感がある。

 その点について、同馬を管理するエイダン・オブライエン調教師はこう説明する。

「大きく負けてしまうときは、騎乗している(ライアン・)ムーア騎手が判断して、次のことを考えてダメージが残らないように無理をしていないだけ」

 また、オブライエン厩舎は、ドバイやアメリカなどに遠征した際、日々の調教のルーティンを変えることはほとんどない。芝のレースに出走する馬でも、ダートだけで調教するのが通例だ。しかし今回、オーギュストロダンは芝での調教も行なった。そんな"らしくない"調整過程も引っかかるところだ。

 それでも、ジャパンカップに向けて「オーギュストロダンはこれが引退レースなので、(ムーア騎手も今回は)"次"のことを考えずに乗ってくれるでしょう」とオブライエン調教師。突出した実績が示すとおり、あらゆる不安も圧巻の走りで一掃。有終の美を飾っても、何ら驚きはしない。

 このオーギュストロダンを前々走のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSで下したのが、ゴリアットだ。

 今年の春頃までは、一介の重賞馬にすぎなかったが、今年5戦目となるキングジョージ6世&クイーンエリザベスSで一変。のちに凱旋門賞を制すブルーストッキングを2着に退けて、オーギュストロダンも大差をつけての5着に振り払った。

 同レースは、ヨーロッパの競馬にありがちなスローの追い比べではなく、日本のレースのようにペースが流れての一戦だっただけに、ジャパンカップに向けても好印象。馬場適性も良重兼用で、日本のレース展開、日本の馬場にもきっちりアジャストしても不思議ではない。

 せん馬のため、凱旋門賞出走の資格がなく、早くからジャパンカップ挑戦を明言していたことも強調材料だ。

 唯一の不安は、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSの勝ち馬がジャパンカップでは振るわないこと。同年に同レースを勝ってジャパンカップに臨んだ馬は、ベルメッツ(1990年7着)、ペンタイア(1996年8着)、ゴーラン(2002年7着)、コンデュイット(2009年4着)と苦戦している。

 ともあれ、鞍上は日本の競馬もよく知る名手クリストフ・スミヨン騎手。ジャパンカップもエピファネイアで勝っており(2014年)、勝ち負けを演じる可能性は大いにある。

 前述の2頭と比較すると、ファンタスティックムーンの評価は劣る。だが、昨年のドイツダービーの覇者で、ドイツの年度代表馬。その素質と実力は確かだ。ドイツ調教馬は重い馬場を得意とするイメージがあるが、同馬はむしろ渋った馬場を苦手としているタイプ。日本の高速馬場が意外とフィットするかもしれない。

 さらに、ドイツダービーとバーデン大賞の両GIで戴冠という実績は、1995年のジャパンカップを制したランドと合致。加えて、鞍上のレネ・ピーヒュレク騎手は今年初旬、短期免許で初来日。きさらぎ賞でビザンチンドリームを勝利へと導いている。

 外国招待馬3頭のなかでは人気薄だが、軽視は禁物だ。

 勝負気配のある海外勢が久しぶりに顔をそろえたジャパンカップ。2005年のアルカセット以来となる、外国招待馬の優勝も十分にあり得る。