日本の先発を任された22歳の髙橋宏斗(中日)が150キロ台の速球と140キロ台中盤のスプリットを中心に力でねじ伏せれば、アメリカのスターターを務めた44歳のリッチ・ヒルは140キロ前後のフォーシームとカットボール、カーブを絶妙に織り交ぜて…

 日本の先発を任された22歳の髙橋宏斗(中日)が150キロ台の速球と140キロ台中盤のスプリットを中心に力でねじ伏せれば、アメリカのスターターを務めた44歳のリッチ・ヒルは140キロ前後のフォーシームとカットボール、カーブを絶妙に織り交ぜてバットの芯を外していく。

 11月21日、第3回プレミア12のスーパーラウンド初戦、日本対アメリカは対照的なスタイルの両先発が持ち味を存分に発揮し、4回までスコアボードに「0」が並んだ。


アメリカ戦で2打席連続本塁打を含む3安打7打点の活躍を見せた小園海斗

 photo by Sankei Visual

【分岐点となった継投策】

 今大会の侍ジャパンは慣れない相手投手に対してファーストストライクから積極的に振って攻略してきたが、アメリカの先発として立ちはだかるヒルは老獪だった。メジャーリーグで実働20年、44歳になっても第一線で投げ続けるのは当然、見た目には表れない理由があるのだ。

 日本代表の最年長、7番・源田壮亮(西武)が振り返る。

「1球1球タイミングをちょっとずらしてきました。(特徴は)みんなで共有しているけど、打席に入ってみたら、その上をいくタイミングの外し方という感じで難しかったですね」

 一方、2番に入った小園海斗(広島)はこう話した。

「(フォーシームは)球速より強いな、伸びてくるなっていう感覚はめちゃくちゃあって。高めも強いなっていう感覚で、『なかなか難しいな』ってみんな言っていました」

 豪腕の髙橋、熟練のヒルという見応えある投手戦から一転、試合の分岐点となったのは5回、両チームの継投だった。先に日本の井端弘和監督が動き、2番手の隅田知一郎(西武)にスイッチする。

「私が見ている限り、1球も抜かずに70球。ある程度体力的なところで言えば、100球以上ぐらいのエネルギーを使ったのかなと感じています。あの回がちょうどよかったのかなと思いますね」

 だが、隅田が先頭打者の6番コルビー・トーマスに甘く入ったフォークをレフトスタンドに運ばれ、先制点を許した。

 対するアメリカは5回裏、58球のヒルから同じ左腕のダレル・トンプソンに交代。ここで活路を切り拓いたのが、一死から打席に入った源田だった。

「それまでけっこうみんなファーストストライクを(振らずに)通している感じで、ちょっと後手後手だったので思いきって初球を振ってみようかなといきました」

【逆転を生んだ井端ジャパンの積極性】

 源田は初球、外角に来た146キロのストレートをセンター前に弾き返す。初対戦の相手が投げてくるストレートの軌道に対し、どう対応したのか。

「ビデオはしっかりみんなで見ていましたし、軌道はある程度数値化されているもの(=データ)もあるので。あとは打席に立ってみての感覚もあります」

 相手投手が交代したところで「初球を振ってみよう」と頭を切り替え、事前にインプットしたイメージを踏まえてスイングをかける。そうした積極性と技術が身を結んだヒットだった。

 つづく8番・佐野恵太(DeNA)がセンター前安打で一、二塁とチャンスを広げると、9番・坂倉将吾(広島)はライト線へのタイムリー二塁打で同点。2アウトになったあと、2番・小園がライトオーバーのタイムリー三塁打を放って2点を勝ち越した。

「対戦したことのないピッチャーだったので、なんとか気持ちでいきました」

 そう振り返った小園だが、今大会では積極的にスイングを仕掛けて好結果を出している。ファーストストライクから振りにいける要因を聞かれると、その答えが小園らしかった。

「要因はなくて、いつもやっていることなんで。そこだけやりきるっていうのは忘れないでやっています」

 ペナントレースと変わらない姿を、プレミア12でも見せているだけだと言うのだ。国際大会では初対戦の投手ばかりで、継投のタイミングも早いから打席ごとに異なる相手との対決になる。それでも、小園は自然体で臨めているという。

「あまり何も考えてないと言うと、おかしいですけど(笑)。感覚がないので合わせるというか、振っていくしかない。それで結果が出たらいいかなと思っています。受け身にならず、どんどん攻めていくっていう感じです」

 小園は5回に勝ち越し打を放つと、7、8回には2打席続けてライトに本塁打を放ち、計7打点で勝利の立役者になった。

【小園海斗が語る好調の理由】

 前向きにスイングを仕掛けていけるのは、状況を見極めて頭のなかが整理できているからでもある。3対1で迎えた7回、一死一塁からアメリカは6番手のゼイン・ミルズに交代すると、1番・桑原将志(DeNA)に死球で一、二塁。つづく小園に2ボールとなると、アメリカのピッチングコーチがマウンドに走った。

 小園は打席を外してひと呼吸入れ、自分のやるべきことを見つめ直した。

「ボール、ボールになっていたので『甘い球は絶対に逃がさないように』という思いで待っていましたね」

 チャンスで突然の間(ま)ができたが、打者としてどう感じるものだろうか。

「特に......すいません(笑)。次の球に集中していました」

 自分の世界に入り込み、3ボール1ストライクからの5球目、真ん中高めに来た144キロのフォーシームをライトスタンドに運んだ。

 そして1点を加えた8回二死一塁で再び打席が回ってくると、1ボールからの2球目、143キロのストレートが外角高めにやや甘く入ると再びライトスタンドへ。2打席連続本塁打で試合を決めた。

「ホームランが出ているのはちょっと怖いんで、明日は基本に忠実にいきたいなと思います」

 小園はアメリカ戦を終えて打率.417と好調の自身について、謙虚に話した。対して、井端監督はこう称えている。

「2本のホームランは予想していなかったですけど、彼の一番の魅力は初球から打てることだと思います。右左関係なく、どのピッチャーでも合わせられる技術がありますし。状況に応じて、特にランナーを置いた場面でのバッティングは球界でもトップクラスだと思っています。2番というところでいい仕事というか、今日に限っては100点だと思います。これからも彼らしく、初球からどんどんいってくれればいいなと思います」

 試合序盤は相手先発ヒルの老獪なピッチングに沈黙させられたが、投手交代のタイミングで一気呵成の攻撃を仕掛け、終わってみればアメリカに9対1で大勝。投手陣もソロ本塁打のみの1失点に抑え、攻守に持ち味を発揮した侍ジャパンが大きな勝利を手にした。