小川航基の2ゴールなどで、中国に3−1と勝利した”森保ジャパン”にとって、ここからの進化を期待させるシーンが、後半アディショナルタイム4分にあった。 右サイドで橋岡大樹がボールを持ち、3バック中央の板倉…

 小川航基の2ゴールなどで、中国に3−1と勝利した”森保ジャパン”にとって、ここからの進化を期待させるシーンが、後半アディショナルタイム4分にあった。

 右サイドで橋岡大樹がボールを持ち、3バック中央の板倉滉に斜めのボールを通す。それを板倉は1タッチで縦に入れて、ボランチの遠藤航田中碧とつながる間に、中国のディフェンスがボールに引き付けられることで生じた中央右のスペースで、シャドーの鎌田大地がボールを呼び込む。
 田中がタイミングよく鎌田に縦パスを入れると、鎌田は正確なファーストタッチで前を向き、背後を狙う動きを見せた古橋に右足でスルーパスを通した。そこから古橋はボックス内の狭いところでシュートに行こうとするが、オフサイドの旗が上がった。本当に一瞬の差で4点目のゴールにならなかったが、これまでの”森保ジャパン”にはあまり見られなかった形から生まれたチャンスであり、古橋のストライカーとしての性能が存分に見られたシーンだ。
 鎌田や久保建英が良い形でボールを持ったら、とにかくディフェンスの背後に動き出して、スルーパスを引き出すことを意識しているという古橋。このシーンも絶好の形で鎌田からのパスを受けた以上、結果はオフサイドの判定でも、ここはシュートを打ち切って終わるべきだったという反省があるようだが、A代表で古橋が出場してきた22試合の中で、もっとも特長が生かされたゲームの1つであることは間違いないだろう。

■周りが分かって使ってあげられるか

 ボールに関わるところでは橋岡、板倉、遠藤、田中、鎌田、そして古橋とうまくつながったが、中央を崩すにあたり、起点になった橋岡がしっかりと右外の高い位置までポジションを上げており、逆サイドでは左ウイングバックの三笘薫が、古橋とほぼ同じ高さで幅を取っていた。
 そして、ここで鍵になったのはセルティックの同僚でもある前田大然の動きだ。中盤で田中から鎌田にボールが出る流れで、中央からやや外側に走ることで、右センターバックのウェイ・ジェンを外側に視線誘導して、古橋のプレースペースを少しでも広げようという意図が伝わる。
 直接的に古橋を生かしたのは鎌田のスルーパスだが、チームとして古橋の特長をうまく使ってゴールしようというビジョンが共有されていることを印象付けるシーンだった。攻守の切り替わりが多いゲームで、FWの選手が縦を狙うというのはノーマルだが、古橋がJリーグ時代からスコットランドのセルティックに所属する現在まで、継続してゴールを量産できている理由の1つが、狭いスペースでも動き出しでラストパスを引き出して、決定的なシュートに持ち込めることだ。
 往年のフィリッポ・インザーギを彷彿とさせるそのスタイルは一人で完結できるものではなく、いかに周りが分かって使ってあげられるかにかかっている。これまでの代表活動においても、そうした古橋の持ち味が全く周りに意識されていなかったということはないはず。この日は同じピッチに立てなかったが、伊東純也は「亨梧とは大学の時からやっていて長いので、彼の良さは分かっています」と語り、こうも続けた。
「裏抜けだったりその一瞬のところ。小さくても、ゴール前の駆け引きとか上手い。クロスのところも入っていくのも上手いので。速いボールだったり、シンプルに足も速いので裏抜けだったり。自分パスも出せるので、そういうとこを生かしていければ」

戦術古橋亨梧の関係

 伊東が持っているようなイメージは鎌田にもある。ボールを持つたびに古橋が動き出すのを視野に捉えており、その中でうまくスルーパスを狙えるタイミングが、この後半アディショナルタイムのシーンだったということだ。
 それはたまたま鎌田が持った時に、古橋の動き出しが良かったから生まれたものではなく、古橋が何度も動き出し、鎌田がそれを意識しているからこそ、機を逃さずに出すことができたシーンと言える。
 これまでは相手を背負ってのポストプレーなども含めて、チームの戦術に古橋をハメるための作業の割合が大きく、古橋の特長を生かすところから逆算したイメージ共有というのはなかなかできていなかった。
 しかし、中国戦は3−1でリードしていた試合状況があるにしても、欧州でプレーする日本人選手の中で最も得点を取っているストライカーを生かす意図が見られたことは、古橋にとっても”森保ジャパン”にとっても前進と言える。
(取材・文/河治良幸)
(後編へつづく)

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