今週末は、第44回ジャパンC(GI、東京芝2400m)が行われる。

天皇賞・秋を制しここに臨むハーツクライ産駒ドウデュース、3歳牝馬の大将格として古馬撃破を狙うハービンジャー産駒チェルヴィニア、海外から参戦をはたすディープインパクト産駒オーギュストロダンをはじめ、多彩な血統構成の馬が集結。

ここでは、馬券検討のヒントとなる「血統」で本競走を攻略する。

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■ジャパンCはとにかく内枠が強い

いきなり血統と関係ない話で恐縮だが、ジャパンCはとにかく内枠が強い。近10年で1~3枠に入った馬が9勝。なかでも1枠が5勝の固め打ちに加え、複勝率も50%超。枠ゲーここに極まれりという感。

また人気馬も強く、近10年の勝ち馬はいずれも5番人気以内。加えて5人気以内の合算複勝率は54.0%というハイアベレージを記録している。

「強い馬が強い」というレースの性質なので、血統的に目立った傾向はないのだが、この10年でディープインパクト産駒が2勝、ハーツクライ産駒が2勝、ドゥラメンテ産駒が【0.1.1.1】で複勝率66.7%と、真っ当な日本の王道血統が結果を残す傾向にある。

反対に欧州の首領・サドラーズウェルズ系はのべ12頭が出走して、5着が1回あるだけ。確かに単純に性能が足りない馬が多かったというのも否定はしないが、東京の速い上がりへの対応に苦戦している様子もうかがえる。

■爆穴候補に浮上するファンタスティックムーン

今回注目したいのは、日本の馬場に対応可能な外国馬。ここではファンタスティックムーンをピックアップする。

昨年の独ダービーと今年のバーデン大賞を制したGI2勝馬。父シーザムーンも独ダービー馬で、母父ジュークボックスジュリーはサドラーズウェルズ系。ここだけ見ると雨が降れば降るほど良さそうなものの、陣営は常々「雨はイヤだ」を繰り返している。成績を見るとそれも納得で、これまでに挙げた重賞6勝はいずれも良馬場・稍重馬場。重・不良の重賞は1回も勝ったことがない。

前走の凱旋門賞も馬場の悪化を受けてスクラッチ(出走回避)しようとしたところ、「スクラッチにもカネがかかるで」と言われてしぶしぶ出走。案の定、力を発揮できずの9着に終わった。

欧州の芝の良馬場と日本の芝の良馬場とでは多少なりとも意味合いは異なってくるのだろうが、それでも重馬場より軽馬場の方が合っているのは事実。重馬場のパリロンシャンから良馬場の東京へと替わるのは、日本馬と同様にプラスに働くはず。

これについては、血統表にちりばめられたドイツ血統よりも父父シーザスターズの中距離向きのスピードが発現している印象を受ける。

シーザスターズは凱旋門賞や英ダービーなどGI6勝の名馬だが、スピード勝負に強かったのが特徴。半兄ガリレオはその父サドラーズウェルズの影響が強いスタミナ型だったが、こちらの父はダンジグ系マイラー・ケープクロス。

シーザスターズについては管理したオックス師が「マイルの2000ギニーが目標」「英ダービーは距離長いかも」との感触を示していたように、半兄ガリレオよりスピードに優れた馬だった。実際にヨークの英・インターナショナルSでは2分5秒02のレースレコード(※当時)を記録して勝利している。

またファンタスティックムーンの牝系はドイツ土着の牝系ではなく、近年になってドイツに輸入された牝系。米国産の3代母フロイライトビンからはイギリスで7FのGIIIを制したジャーメインや日本のOP特別で活躍したイングランドシチーなどが出ている。

それが前面に出ていると思えば、ファンタスティックムーンの良い意味での「ドイツっぽくなさ」というのは納得できる。

■バーデン大賞の時計は出色

ファンタスティックムーンが2走前のバーデン大賞で記録した「2分28秒03」の時計が出色で、これは近10年では最も速い勝ち時計。1990年以降のバーデン大賞まで範囲を広げても、これより速い時計で勝利したのは、1994年のランド(2分27秒33)と1996年のピルサドスキー(2分26秒74)のみ。

ランド&ピルサドスキーの名前を見てピンときた方は、きっと古くからの競馬ファン。お察しのとおりどちらもジャパンCの勝ち馬なのだ。

バーデン大賞は、左回りかつ最後の直線が500mあるバーデンバーデン競馬場が舞台。時計の速い決着にさえ対応できれば、同じく左回りで直線の長い東京との相関性は高いということだろう。

「高速決着のバーデン大賞勝ち馬はジャパンC適性が高い」という仮説に基づけば、ファンタスティックムーンが勝ち負けのラインに乗ってきても何ら驚けない。

ちなみにバーデン大賞の映像からレースの上がり600mを割り出してみると、おおよそ34秒0。この流れを6頭立てとはいえ最後方から差し切ったファンタスティックムーンはほぼ間違いなく33秒台の上がりを使っている。

上がり性能不足が喧伝される欧州所属馬だが、重い洋芝で60キロの斤量を背負った馬が33秒台の脚を使ったのであれば、評価を下げることはできない。

今年参戦する欧州調教馬3頭のなかで最も注目されていない「第三の男」ではあるが、無視するのは危険。一発の期待も。

あとは枠と週末の馬場コンディションを見つつ、最終結論に至りたい。

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著者プロフィール

ドクトル井上 【重賞深掘りプロジェクト】血統サイエンティスト。在野の血統研究家。旧知のオーナーを中心として、セリや配合のコンサルティング業務を請負中。好きな種牡馬はダノンレジェンドとハービンジャー。苦手な種牡馬はMore Than Ready。凱旋門賞馬Ace Impactの血統表は芸術品なので、ルーヴル美術館に収蔵されるべきとわりと本気で考える三十路の牡馬。