ラグビー日本代表候補にも選ばれた帝京大のFL青木恵斗(4年)が「レベチ」なプレーを見せつけた。※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、…

 ラグビー日本代表候補にも選ばれた帝京大のFL青木恵斗(4年)が「レベチ」なプレーを見せつけた。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 11月17日、東京・秩父宮ラグビー場で関東大学対抗戦の注目カード「帝京大vs明治大」が行なわれた。ただ、大学選手権3連覇中の王者・帝京大は2週前、早稲田大に17-48と大敗。一方の明治大は対照的に、開幕から徐々に調子を上げて無傷の5連勝で迎えた。


日本代表候補にも選ばれた帝京大の青木恵斗

 photo by Saito Kenji

 前週からの流れを見るかぎり、今年は明治大がやや有利......との雰囲気が漂っていた。しかし、その予想はすぐに裏切られることになる。「紅き旋風」はキックオフ直後、自陣から積極的にボールを展開すると、前半6分にWTB生田弦己(3年)がトライを挙げて主導権を握った。

 その後も帝京大の勢いは止まらない。前半だけで5トライを重ね、最終的に48-28の大差でノーサイド。その攻撃で圧倒的な存在感を示していたのが、ダイナミックなランで2トライを奪ったキャプテンの青木だ。

「(早稲田大戦は)みんな個人個人で戦ってしまい、チーム力がなかった。なのでこの2週間、ディフェンスのつながり、チーム全体でアタックすることを意識して取り組んだ。(明治大戦で)準備してきたことを出せた」(青木)

 早稲田大戦の敗北から2週間、青木は決してネガティブになることはなかった。相馬朋和監督いわく、青木は「苦しかったら自分の背中を見ろ」と、常に練習で先頭を走り続けたという。試合前のロッカールームでも「しんどくなったら、僕か(120人のメンバー外の選手がいる)スタンドを見ろ」と言い、仲間を鼓舞した。

「プレーでチームを引っ張る」と語っていた青木はまさしく、セットプレーや接点で攻守にわっってファイトし続け、プレーヤー30人のなかでひとりレベルの違う世界を見せつけた。身長187cm・体重100gの誇らしい体躯は、グラウンドの上で誰よりも目立っていた。

【リーチや姫野から指導を受けた財産】

 青木のケタ違いのフィジカルは、幼馴染みに誘われて神奈川・藤沢ラグビースクールで競技を始めた小学校1年から築き上げたものだ。小学校時代はCTB、中学校時代はPRとしてプレーし、神奈川の強豪・桐蔭学園を経て、「ラグビーに集中できる環境が整っている」帝京大に進学。LOやFLとして世代屈指の実力を示し、1年から主力として躍動し続けている。

「スピードもサイズもあり、ピカイチですごい選手。我慢強く仲間たちと向き合っていけば、彼もチームも成長する」(相馬監督)

 最上級生となった時、青木は人生初のキャプテンを任された。

 そして今年2月、吉報が舞い込む。エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が就任した日本代表の候補合宿に呼ばれたのだ。そこでFLリーチ マイケルや大学の先輩No.8姫野和樹から指導を受け、一緒に汗を流す経験もできた。

 4月には早稲田大のキャプテンHO佐藤健次と明治大の副キャプテンCTB秋濱悠太ら桐蔭学園時代に花園連覇に貢献した仲間とともにジュニア・ジャパンに選出。サモアで開催された「パシフィック・チャレンジ」で見事優勝に寄与した。

 青木の忙しい日々は、まだ終わらない。さらにはジョーンズHCの肝いりで始まった「JAPAN TALENT SQUAD」プログラムに参加し、5月下旬には大学生ながら菅平高原で行なわれた日本代表候補合宿に再び招集。ワールドカップ出場メンバーやプロ選手に混じって研鑽を積んだ。

 その反面、悔しいことも経験する。念願だった日本代表からは落選してしまった。

「(代表候補合宿に参加して)フィジカルが通用したことは自信になったが、フィットネスやタックルの精度など細かいスキルが足らなかった。まだまだ仕上がっていない自分がいたので、日本代表に入れなかったのは実力不足」

 その後、日本代表のFL陣にケガ人が出たことで、追加招集リストに青木の名が挙がったという。しかし、相馬監督と話し合った末、帝京大に残る選択をした。

【仕事人タイプのFLとは異なるスタイル】

「春からチームにいなくて迷惑をかけていた。大学4年生は1回だけ。帝京大の同期と結果を残したいですし、大学ラグビーにフォーカスして一つひとつレベルアップしていきたい」

 青木はマインドセットをしっかりと帝京大に切り替え、代表候補合宿で出た課題に取り組んだ。それが今秋の高いパフォーマンスにつながっているのだろう。

 相馬監督は語る。

「(日本代表に落選し)青木は本当に練習の質が変わった。今までだったら雑に済ませていたが、一つひとつ丁寧にプレーするようになった。これまでは力で何とかしようとしていたが、タックルも低く、ブレークダウンでもスキルでプレーしようと変化している」

 大学生活も残り2カ月。青木は「ブレることなく、大学選手権優勝という目標に向かっていきたい」と語る。しかしもちろん、日本代表への想いも持ち続けている。

「仕事人の多い日本のフランカーとは(タイプが)かぶらないのが僕の強みだと思うので、タックルや接点のスキルを身につけて、ボールキャリーもできるようになりたい。(佐藤)健次に後れを取っているので、日本代表に呼ばれるようにがんばります」

 今シーズンの青木個人には、大きな記録もかかっている。桐蔭学園の高校2年時と3年時に花園を連覇し、帝京大入学後も1年から主力として3連覇。キャプテンとして帝京大を4連覇に導いたら、6シーズン連続の日本一ということになる。本人はどう思っているのか。

「連覇に対してプレッシャーはないですが、キャプテンとしてチームを勝たせないといけないというプレッシャーはあります」

 6シーズン連続の日本一、そして再び日本代表にチャレンジするために、青木は深紅のジャージーの先頭に立って大学ラグビーで違いを見せ続ける。