上尾ハーフ表彰後の駒大の面々。左から7位・吉本、2位・帰山、3位・村上、4位・谷中 photo by Sugizono Masayuki11月17日に開催された上尾シティハーフマラソンは例年どおり、箱根駅伝出場校の選手たちが数多く出走するな…
上尾ハーフ表彰後の駒大の面々。左から7位・吉本、2位・帰山、3位・村上、4位・谷中
photo by Sugizono Masayuki
11月17日に開催された上尾シティハーフマラソンは例年どおり、箱根駅伝出場校の選手たちが数多く出走するなか、大学生男子の部は入賞者8人の半数を駒澤勢が占めた。優勝こそ大東文化大の棟方一楽(2年)に譲ったものの、上位の2位から4位までを独占。駒澤大の藤田敦史監督は気を引き締めながらも顔を綻ばせた。2年ぶりの箱根制覇に向け、指揮官が得た手応えとは――。
【全日本に続き力を証明したルーキー・谷中】
出雲駅伝、全日本大学駅伝はいずれも國學院大に次ぐ2位。箱根駅伝の優勝8回を含め、学生三大駅伝で歴代最多の通算29勝を挙げる駒澤大にとっては、納得できる結果ではない。駅伝の熱気に包まれた伊勢から戻り、まだ2週間足らずである。藤田監督は、練習から主力メンバーたちにハッパをかけていた。
「全日本を走ったメンバー(8人)が、そのまま箱根を走るわけではない。上尾でもう1回、メンバー選考するよ」
伊勢路でともに区間賞を獲得したエースの篠原倖太朗(4年)と山川拓馬(3年)らは出走しなかったものの、「かなりプレッシャーをかけた」という4人の"全日本組"が上尾シティハーフマラソンに出場。
全日本4区で区間3位と好走したルーキーの谷中晴も例外ではない。初ハーフとなる1年生は「箱根の選考が懸かっている」と気合を入れてスタートラインに立っていた。藤田監督に課されたタイム設定は1時間2分台の前半。序盤からハイペースの先頭集団に食らいついた。5km地点で14分半を切り、10km通過も29分一ケタ台で通過。15km以降は差し込みがきつくなり、上位陣のペースアップに対応できなかったが、最後は意地のラストスパートを見せる。3位の背中にぎりぎりまで迫る4位でフィニッシュ。タイムも目標どおりの1時間02分05秒をマークし、指揮官は目を丸くしていた。
「(1時間)2分一ケタ台で走ったのは立派。スタミナは課題として残りますが、いいものを持っている。すごい選手になると思っています」
ただ、谷中本人は反省しきりだった。全日本大学駅伝で足裏に血豆をつくり、思うように距離走を積めなかったことを悔いた。
「タイムは悪くないのですが、レース内容はよくない。僕の場合、練習をしっかり積めないのが一番の課題。それが顕著に出たと思います。出雲駅伝前の合宿でも軽いケガをしてしまったので(レースは欠場)。箱根前の合宿では距離走をすべてこなし、本番に合わせいきたいです。ハーフの距離はごまかしがききませんから」
希望区間は自身の適性に合った3区、4区。小まめなアップダウンを得意としており、「往路を走るんだぞ、という気持ちでアピールしたい」と意欲を燃やす。箱根までの1カ月、スタミナの向上に力を注いでいくという。
【村上&帰山は危機感をバネに好走】
全日本5区で区間5位と力走した村上響(2年)も、指揮官の言葉に奮起したひとりだ。ずっと調子を崩さずに練習を積み、「絶対に上位で走る」と自らに言い聞かせていた。選考レースの重みを十分に理解しているからこそ、後半の粘りにもつながった。終盤まで前を走る帰山侑大(3年)の背中を追いかけ、必死に腕を振り続ける。先輩にあと一歩及ばずに3位で終えたが、タイムは自己ベストを1分以上短縮する1時間02分04秒。本人に水を向けると、首を横に振った。
「まだまだですよ。最後は帰山さんに引き離されたので。練習の距離走から余裕を持って終えるようにしていきたいです。箱根では上りがある5区か、8区を走りたいと思っています。合宿から起伏でも走れることをアピールできればな、と」
最も危機感を覚えて、上尾に臨んでいたのは主力クラスの帰山だった。前回の箱根は6区で出走し、今季の出雲駅伝も2区で区間4位。主要メンバーのひとりではあるが、全日本大学駅伝は大会前に調子を落として、まさかの補員に。レース当日は1年生で出走した桑田駿介のサポート役を務めた。ふと思い返すと、苦い顔になる。
「悔しかったです。みんなが頑張っているのに、自分は何もできなかったので。僕は出雲路を走っていますし、本当は走らないといけない立場でした。でも、自分の実力不足で選ばれなかったんです」
だからこそ、信頼を取り戻す必要があったのだ。「ここで外すわけにはいかない」という強い気持ちは、レース展開にも見て取れた。15kmから果敢に仕掛け、先頭で引っ張っていた中央学院大の吉田礼志(4年)をかわし、前へ出る。そのまま独走はできなかったが、最後まで踏ん張って2位でフィニッシュ。気迫あふれる飛び出しには、藤田監督も目を細めていた。
「最後は勝ちきってほしかったですが、積極的でしたね。悔しさを晴らす走りはできていたと思います」
箱根路への道がはっきりと見えた帰山は、往路への思いを口にした。
「山下りにこだわらず、"平坦区間"でも勝負したいです。持ち味のスピードが生きるのは1区かなと。あとは監督次第だと思います」
【最終学年で最初の箱根路を目指す吉本】
表彰式で駒大の入賞者が並ぶなか、複雑な表情を浮かべていたのは7位の吉本真啓。前回の箱根駅伝ではエントリーメンバーに入りながらも出走できず、今年度の伊勢路でもまた補員に。当落線上の4年生にとって、上尾の結果は大きな意味を持つ。顔をしかめてリザルトに目を向けていた。
「悔しいです。入賞できたけど、後輩たちに負けてしまいましたから。メンバー決めのレースだったのに、思うように走れなかった。1時間02分30秒のタイムにも納得できないです。これから合宿があるので、そこでしっかり走りたい」
これまで、走りたくても走れなかった箱根路。気づけば、最終学年である。藤色の襷への思いは、誰よりも強い。
「学生最後の箱根は絶対に走って、区間賞で優勝に貢献したい。自分の中では9区、10区をイメージしています。9区を走った先輩の山野力さん(現・九電工)、花尾恭介さん(現・トヨタ自動車九州)たちのように4年生としての仕事をしたいです」
し烈なメンバー争いは、最後の最後まで続く。チーム内の競争を促し続ける藤田監督は、上尾を走り終えた選手たちを集めると、円陣の真ん中で一人ひとりの顔に目を向けて、口を開いた。
「上尾には青学は出場していないし、國學院は主力が走っていないので手放しでは喜べないけど、この結果は自信につながると思っている」
あらためて、駒澤大の『中間層』と呼ばれる中堅戦力の充実ぶりは目を引いた。指揮官も確かな手応えを得ている。
「4人が入賞し、インパクトを与えることはできたのかなと。計算できる選手層になってきたのは収穫。うちは、青学(青山学院)さんのようにたくさんの選手はいませんので。残り1カ月、この選手層でどこまでつくり込んでいけるか。そこに尽きると思います」
どれだけ戦力を抱えても、箱根路に出走できるのは10人のみ。駒大は絞り抜いた精鋭を鍛えて、勝負に挑むつもりだ。