残すところ、あと1試合となった。佳境に入ったJリーグではなく、天皇杯の話である。伝統ある大会だが、今後、考えなければならない問題があるという。サッカージャーナリスト大住良之が、数々の名勝負を生んだ天皇杯決勝の「開催日」について訴える!■2…

 残すところ、あと1試合となった。佳境に入ったJリーグではなく、天皇杯の話である。伝統ある大会だが、今後、考えなければならない問題があるという。サッカージャーナリスト大住良之が、数々の名勝負を生んだ天皇杯決勝の「開催日」について訴える!

■2026年「シーズン変更」を実施

 サッカー関係者の「元日・国立」のノルタルジーを象徴するように、今年の元日には、アジアカップの壮行試合として「日本代表×タイ代表」の親善試合が国立競技場で開催された。昨年の日本代表がドイツ代表を4-1で下すなど「無敵」状態であったため、6万人を超すファンが押しかけ、もしかしたら最後になるかもしれない「元日国立のサッカー」を楽しんだ。

 今年11月23日の第104回大会決勝でも示されているように、日本サッカー協会は「国立決勝」は継続する方針であるように見える。だが、どのようなタイミングで決勝戦を開催し、日本サッカーの中で、どのような存在にしていくのか、まだ決めかねているようだ。

 日本サッカー協会の強い希望もあって、Jリーグは2026年に「シーズン変更」を実施する。1993年のスタート時から、原則として春(2月または3月)開幕、秋(12月初旬)閉幕という「春秋制」から、夏(8月)に開幕し、春(翌年5月)に閉幕する「秋春制」としたのだ。

 私は、天皇杯も、同じシーズン制にして、秋に開幕し、翌年5月に決勝戦という形にしたらいいのではないかと考えている。それはもちろん、イングランドのFAカップのイメージがあるからだ。

■FAカップ決勝が「盛り上がる」理由

 現在の世界のサッカーには、ワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグ、欧州選手権など世界的な注目だけでなく、莫大な放映権収入を集める巨大大会がある。しかし、イングランドのFAカップ決勝戦は、1協会のたった1つの試合であるにもかかわらず、他には例を見ない存在感を放っている。

 試合は毎年5月下旬の土曜日、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催される。プレミアリーグ閉幕の1週間後。前年8月からファンを沸かせ続けてきたイングランドのサッカーシーズンの最後を飾る一戦である。

 現在はプレミアリーグもその下のリーグもライブのテレビ放送(ペイテレビだが)で楽しむことができる。放映権収入がリーグやクラブに莫大な収益をもたらし、テレビ放映があることでファンをさらに増やし、イングランドのサッカーは事業として最高のときを迎えている。

 しかし、わずか数十年前には、イングランドのクラブサッカーで生中継が行われるのは、FAカップ決勝戦だけだった。1980年代までは、「生中継が行われるとスタジアムに来るファンが減り、収入減となってクラブ経営を脅かされる」と、固く信じられており、リーグの生中継は行われなかったのである。

 そのせいもあり、FAカップ決勝当日は、朝からまるでお祭りのような騒ぎだった。事前番組が次々と流され、キックオフの6時間、7時間前からウェンブリー・スタジアムに押しかける両クラブサポーターの様子などを伝えて、「カップファイナル・デー」の雰囲気を、否が応にも盛り上げるのである。

■天皇杯が今後も「愛される」ために

 5月下旬は、イングランドで最も美しい季節かもしれない。長く陰鬱な冬が去り、不安定な気候の4月が終わり、空は青く輝き、日は日々、長くなる。街路樹の緑も濃くなり、人々は軽装となって生きている喜びを体いっぱいに感じる…。

 そうしたすべての喜びの結集が、「カップファイナル」なのである。1か月前に決まった決勝進出クラブのサポーターたちはクラブに割り当てられる入場券を手に入れ、ロンドンに向かう予定を立て、心待ちにする。その他のクラブのサポーターたちも、自クラブのシーズンの最後の数試合に声援を送りつつ、パブに行くと「FAカップ決勝はどうなるか」という予想で盛り上がる。

 FAカップの決勝戦をリーグ閉幕の1週間後の土曜日午後3時に固定したことで、この試合がイングランドのサッカーシーズンの最後を飾る試合となり、「文化」と呼べるほどの大きな関心を集めてきたのである。

 Jリーグが「秋春制」に移行するのに合わせて、天皇杯も「5月下旬、Jリーグ閉幕の1週間後の週末」に固定したらいいと思うのは、このFAカップ決勝戦のイメージがあるからだ。日本社会の「年度」をまたぐ形になり、いろいろと難しい問題もあるだろうが、5月下旬に決勝戦ができるよう、1回戦からの日程を考える必要がある。

「オールドファン」のひとりとして、たしかに「元日国立決勝」にはノスタルジーがある。日本の天皇杯ならではの、世界の他にはない伝統であり、大切な文化であったことを忘れてはならないと思う。

 しかし、同時に、この21世紀に天皇杯が心から愛され、その決勝戦をサッカーファンに心待ちにされる試合にするためには、「5月、Jリーグ閉幕の翌週週末開催」を固定し、その「カップファイナル・デー」を、これから「46年間」を超え、100年、150年と続く日本サッカーの「核」の試合にしていくべきではないか。

 少なくとも、毎年フラフラと日程が変わり、「えっ! 昨日が天皇杯の決勝戦だったの?」などという状態は、変えなければならない。

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