細部に至るまで勝負にこだわった岡田監督。その姿勢から“若虎”が得るものは少なくなかった。(C)産経新聞社“岡田流”の小さな改革とは 最後のタクトを振り終わっても“岡田節”は健在だった。 10月13日のクライマックスシリーズ・ファーストステー…

細部に至るまで勝負にこだわった岡田監督。その姿勢から“若虎”が得るものは少なくなかった。(C)産経新聞社

“岡田流”の小さな改革とは

 最後のタクトを振り終わっても“岡田節”は健在だった。

 10月13日のクライマックスシリーズ・ファーストステージ第2戦でDeNAに敗れて終戦となった試合後、岡田彰布監督は「ひどいな、最後の最後に……」と切り出し、「やっぱり同じことばっかりやった。最後まで。初球ばっかり。止めようがない」と続けた。

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 高橋遥人と梅野隆太郎のバッテリーが序盤からDeNA打線の猛攻に屈して大量失点。“らしい”戦いができずに大敗を喫してあっけない幕切れとなった。その内容を指揮官も「だから結局、尻すぼみのチームになってしもうたもんな今年は。昨年がバッといきすぎたから」と断じた。

 連覇を期待された今季の阪神は、23年のリーグ優勝、そして日本一に貢献した主力が成績を落とすことも多く、最後は巨人とのマッチレースに競り負けた。

 破竹の勢いで頂点まで駆け上った昨季とは対照的な名将の寂しい終わりにはなった。それでもチームを18年ぶりのセ・リーグ制覇に導いただけでなく、球団歴代最多の552勝と第1次政権も含めて残してきた実績は圧倒的だ。そして何より、23年から2年間指揮を執った第二次政権でチームに残したモノも少なくないはずだ。

 この2年で岡田監督が常に口にし続けてきたのが、「守りの野球」の徹底だった。その目玉として着手したのが、22年に遊撃のレギュラーに定着していた中野拓夢の二塁へのコンバート。肩と送球面にやや課題があった背番号51をより一塁に近い二塁に置き、送球面での不安を軽減させるプランがハマった。

 事実、中野は22年にリーグ最多の18を数えた失策が、23年には9に半減。球際の好守で幾度となくチームに貢献し、名手として知られる菊池涼介(広島)の11年連続を阻止するゴールデン・グラブ受賞も果たした。この目に見える結果で、中野の二塁コンバートが正解だったことは完全証明された。

 岡田監督は、個人だけでなく、チーム全体にも守備の意識、ひいては目の前の1点を阻止する意識を浸透させることに時間を割いてきた。

 就任直後の秋季キャンプから外野手と内野手の中継プレーでは長短に限らず、直接返球ではなく必ず「カット」を挟むことをルール化。その際も低く、強い送球を呼びかけていた。

 例えば一、二塁のピンチで外野を抜かれる打球を打たれた場合、二塁走者の本塁生還はやむなしでも、カットを挟んだ丁寧な中継プレーを行えば一塁走者の三塁進塁を阻止できる可能性が出てくる。相手にビッグイニングを作らせない“岡田流”の小さな改革だった。藤川球児新監督の下で行われた今年11月の秋季キャンプでは「カット」のルールはなくなったものの、野手陣の「低く、強さ」を意識した送球は不変。自然と選手に備わった“強み”になった。

岡田監督の指示に奇策はない。それでも攻守で課した指令で阪神は変化を遂げた。(C)産経新聞社

「打てないもんに『打て』言うてもしゃーないからな」

 23年のリーグ優勝の1つの要因とされたのが、打線が奪った四球の数の多さだった。494個はリーグトップ。岡田監督は「四球もヒット1本と同じ」と考え「ボール球は振るな」と簡単なようでなかなか難しい指令を口酸っぱく言い続けた。

 結果、今季も四球数(441個)はリーグ1位。そして、野手陣が選んだ四球で得点につなげていく姿は自軍の投手陣にも好影響を与えたと感じている。守護神の岩崎優から聞いたことがある。

「味方の打線があれだけ四球を選んで得点に繋げているところを見てるし、こっち(自分たち投手)も四球にはより気を付けるというか。状況によって出してしまうこともありますけど、イニングの先頭を四球で出さないとか、そういうことはより意識するようになりましたよね」

 勝敗を左右する局面で起用されることの多い救援陣はなおさらだろう。今季の投手陣全体の与四球323個はリーグ最少。「無駄な四球を与えない」を最も体現していたのが、ここ2年の阪神だったと言える。

 守りの野球、一つの四球から得点に繋げる……。挙げていけば、岡田監督が2年間でチームに覚えさせたこと、そしてやりたかったことは数多くある。指揮官が常々口にしていた「普通にやればええねん」のごとく、そこに奇策は皆無。基本に忠実な野球をぶれずにやり続けることこそが勝利への近道と言っているようだった。

 チームには佐藤輝明、大山悠輔、森下翔太ら魅力十分の大砲が顔を揃える。だが、彼らも毎試合アーチをかけられるわけではない。空中戦ではない“地上戦”でどれだけ得点を奪い、逆に防げるか。昨秋、キャンプ地の高知でリーグ優勝を果たしたチームの特色について触れた時の名将の言葉を思い出す。

「打てないもんに『打て』言うてもしゃーないからな。勝つためにどういう野球をした方が機能するかというかな。こういう風にやった方がチームが活気付いて勝てるっていう。それ(チームの特色)にうちはホームランは入ってないよな。(投手が)与えたフォアボールも少なかったわけやから。逆に(野手が)フォアボールを勝ち取ったいうかな。その辺が細かい野球っていうか大味じゃないよなチームとして」

 勝つためにどうするか、どんな野球をしていかなければいけないのか――。ベンチで采配を振るいながら、その方法論を示していった66歳の指揮官。まだ20代のレギュラーも多い、若き集団に名将が残していったものは少なくない。

[取材・文:遠藤礼]

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