2026年W杯アジア3次予選。日本は敵地でインドネシアを4-0となぎ倒している。守備の対応などで問題も見えたが、ピッチに立った選手たちは修正、改善させる逞しさを見せていた。その点、選手たちが殊勲者だった。 なかでも、守田英正は森保一監督が…

 2026年W杯アジア3次予選。日本は敵地でインドネシアを4-0となぎ倒している。守備の対応などで問題も見えたが、ピッチに立った選手たちは修正、改善させる逞しさを見せていた。その点、選手たちが殊勲者だった。

 なかでも、守田英正は森保一監督が採用した3-4-2-1のフォーメーションを、ピッチ上で自在に動かしていた。

〈森保ジャパンというよりも守田ジャパン〉

 そう表現しても言いすぎではないほどに――。



インドネシア戦で1得点を挙げるなど勝利に貢献した守田英正 photo by Kishimoto Tsutomu

 守田は他の選手よりも、多くの選択肢のなかから最善を選び出せる。自らがどこに、いつ、どのように動くことでボールが運ばれてきて、味方に最高のタイミングで供給できるのか。それを知り尽くしている。彼がポジションを動かすことで、自然と周りが円滑な位置を取れるようになり、集団に"戦いの火を起こせる"と言えばいいだろうか。技術もさることながら、その「知性」でサッカーを動かせる。

 前半17分のプレーは象徴的だった。

 守田は鎌田大地とポジションを交換するように前へ。鎌田、遠藤航が中盤でつなげたボールを、彼は相手のMF、DFのラインで受けている。簡単で、何気ない動きに見えるが、現代サッカーではこれが一番重視される。相手のラインを越える、ライン間で前を向いてプレーする、それだけでゴールにつながる強烈な一手になるからだ。

 実際、守田は自らドリブルで運び、ラインを押し下げている。そして右サイドでフリーになった堂安律へ。そのクロスを小川航基は叩き込めなかったが、決定的なシーンだった。

〈ラインを操る魔術師〉

 守田には、そんな称号を与えたい。同じくサッカーIQが高い遠藤、鎌田と近い距離を取ることで、いとも簡単にラインの背後を取っている。時に押し下げたバックラインも急襲するように、エリア内まで入った。ドイツ代表イルカイ・ギュンドアンやスペイン代表ダニ・オルモ、ペドリらが得意とする、ゴールにアプローチする動きだ。

 神出鬼没な動きの土台は、プレーの連続性にある。集中力が途切れない。たとえば前半23分のシーンは、得点には至らなかったが、守田らしさが凝縮されていた。

【ゴールはポジショニングのよさの賜物】

 守田はクロスに対し、ゴール前の小川をフォローするようにエリアに入る。攻撃は一旦跳ね返されたが、堂安、鎌田で再び奪い返したあと、下がっていた守田はワンタッチで堂安にリターンし、ボレーシュートを演出している。目まぐるしく動くプレー展開のなか、ポジションを取り直しながら、次のプレーのビジョンを用意していたのだ。

 それは、後半3分のゴールの伏線ともなっている。

 インドネシアのビルドアップに対して、味方がボールの出どころを確実に抑えたところだった。バックパスを受けたGKのキックには恐れ、あるいは迷いが出ていた。ゴール正面に陣取っていた守田は、これを的確にカット。冷静にコントロールし、間髪入れずにGKの手が届かないファーサイドへのシュートを選択している。体勢が不十分だった相手DFがそれをクリアできず、ボールは呆気なくネットを揺らした。

 相手のミスを拾ったラッキーゴールにも映るが、守田のポジショニングのよさ、集中力の高さの賜物だ。

 守田は川崎フロンターレ時代から、技術も戦術もレベルの高い選手だった。しかし欧州で長く鍛錬されたことによって、そのふたつのバランスが同時に上がっている。スポルティングで名将ルベン・アモリムの薫陶を受け、ポルトガル王者の主力になった経歴は伊達ではない。今シーズンはチャンピオンズリーグで(4試合終了時点)2位。欧州の日本人選手で誰よりも高い位置にいるのだ。

 守田は、その知性を用いることによってチーム全体のテンポまで変えられる。相手が怯んだ時、流れを変えるべき時、ポゼッションを守備に使うべき時、それらに応じて、出力を変えながら最大値を出せる。まさに司令塔で、ピッチにいる、いないでは戦い方そのものを変えてしまうほどだ。

 マンチェスター・シティは名将ジョゼップ・グアルディオラ監督のチームだが、ロドリという司令塔がいないと同じ戦いはできない。テンポを作り、変え、修正する、そこでプレーに影響が出る。事実、ロドリがケガで不在の現在は深刻な状況だ。

 守田とロドリはMFとしてキャラクターこそ異なるだが、戦術を動かす、という点で似ている。バックラインからのボールを引き取り、前やサイドにつなげ、ポジションひとつで相手を引っ張って味方に猶予を与える。ボールキープで起点になり、時間を作り、隙があればロングパスも入れる。そうした変幻自在のスキルは、知性から生み出され、集団に寄与するのだ。

 その点で守田は世界トップクラスのMFと言える。

 むしろ日本代表は、守田がいないチームで起こるトラブルを想定すべきだろう。今のフォーメーションは、守田など個人のレベルの高さと相手のレベルの低さで運用されている。そもそも、インドネシア相手でさえ、「三笘薫の裏を突く」という作戦を徹底されると、失点の予感が漂った。高いレベルだと決められているシーンが2、3回はあっただけに......。

 いずれにせよ、森保監督は守田を起用できることに感謝すべきだろう。