プロレスリング・ノアの「TEAM NOAH」齋藤彰俊が17日に愛知・名古屋市のドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)で引退する。引退試合は、丸藤正道との一騎打ちに決まった。スポーツ報知では、波乱万丈だった34年あまりのプロレス人生を「齋藤彰…

 プロレスリング・ノアの「TEAM NOAH」齋藤彰俊が17日に愛知・名古屋市のドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)で引退する。引退試合は、丸藤正道との一騎打ちに決まった。スポーツ報知では、波乱万丈だった34年あまりのプロレス人生を「齋藤彰俊ヒストリー」と題し引退試合の17日まで連載。第16回は「引退を決意した日本武道館」

(福留 崇広)

 2024年7月13日。日本武道館。齋藤は世界ヘビー級王者として4度目の防衛戦に挑んだ。対戦相手は潮崎豪だった。潮崎とシングルのタイトルマッチを争うのは、4回目だった。試合前、過去の選手権試合と同じ異常が齋藤の体を襲った。

 「シオとタイトルマッチをやる時は、不思議なんですが必ず体が悲鳴をあげているんです。最初の三沢さんの追悼大会でのGHCの時、実は前日の記者会見で一度座ったら立てないぐらい腰が痛かったんです。骨ではなく筋肉の損傷だったんですが、試合当日にブロック注射を3か所打って痛み止めの薬を飲んでリングに上がりました。コロナ禍でお客さんも誰もいない2人だけの闘いの時は、頸椎(けいつい)を痛めていました。そして、この武道館でも腰を痛めていました。いつもより多く痛み止めを飲んで、控室で座薬を入れて闘いました。でも、これも不思議なんですが試合はできるんです。かえって痛めていると力になるんです」

 潮崎戦のたびに襲う試合前の不調。同じ試練が与えられることを齋藤は、天国にいる三沢光晴からの激励と受け止めていた。

 「1回だけでなくシオとの選手権になると毎回ですから…これは、もしかしたら三沢さんからの激励じゃないかと思うんです。『お前、約束したならやれよ。それぐらいで休むんじゃないぞ』って言われているような気がするんです。なぜなら、1、2回なら偶然ですが、3回もあるから必然だと思うんです」

 世界ヘビー級のベルトにも不思議な因縁を感じていた。同王座は「REAL ZERO1」が管理する。齋藤は、3・31靖国神社でクリス・ヴァイスを破り奪取した。靖国神社のリングは相撲場に特設された屋外だった。

 「ベルトを奪った時、自分は、デビュー33年3か月でした。そして33代目の王者になりました。試合の日付けは、3月31日…あらゆる面で『三』を感じました。そして、あの日の靖国は、異常なぐらい暑かったんですが、リングに上がった時に風が吹いたんです。『あれ? もしかしたら、力を押してくれているのかな』とも思いました」

 不思議な力を糧にして腰に巻いた「世界ヘビー級王座」は、デビュー34年目で初めて奪取したシングル王座だった。大切な至宝。だからこそ齋藤は、2度目の防衛戦で挑戦者に潮崎を指名した。5・29新宿FACE。メインイベントで対戦したが30分時間切れに終わった。迎えた7・13。齋藤は潮崎との決着戦を決意した。会場は日本武道館。2009年9月27日「三沢光晴追悼大会」のメインイベントでGHC王者だった潮崎に齋藤が挑んだプロレスリング・ノアの「聖地」。15年を経て齋藤は王者として潮崎を迎え撃った。

 「09年の武道館で自分が負けて、あの高い天井を見上げて、いろいろと思うことがありました。今度は、シオに日本武道館の天井を見せて『お前も何かを感じろ』と思いました。15年前に言葉では『シオ、頼むぞ!』と言いましたが、やはり、そこは自分で感じてもらわないと本当に伝えたいことが伝わらないと思いました」

 90年代から亡くなるまで幾度も三沢さんが激闘を繰り広げた日本武道館。あの高い天井には、三沢さんが残した魂が映し出されているようだった。齋藤は王者として潮崎を破り、武道館の天井を見せたかった。すべての思いをぶつけた。潮崎も力を出し尽くした。15分00秒。豪腕ラリアットで齋藤は敗れた。

 「シオに天井を見せたかったんですが、また自分が天井を見ることになりました。その時、3回防衛はしましたが『やっぱり3で自分には4はないんだなぁ…あぁ…そうなんだなぁ』と天井を見上げながらいろんなことが頭を駆け巡りました。その時にふと思ったんです。あれから15年。日本武道館で『意味のある天井を見られたな』と。TEAM NOAHに加わって頑張って、(自主興行の)LIMIT BREAKでは昔のプロレスリング・ノアの雰囲気に近い会場に戻せた…これは、『俺は約束を守れたんじゃないか』と思った時に『今だ』と決意しました」

 マイクを持った齋藤は、宣言した。

 「あの天におられる偉大なる方の足元にも及ばないが、2009年6月13日、あの広島の地で心に誓ったこと、約束したこと、15年という長い時はかかったけど、俺なりに、俺なりにだよ…今日、果たしたのかなと思う。だから、引退を決意した!」

 続けて潮崎に言葉を贈った。

 「潮崎、TEAM NOAHをプロレスリング・ノアを、プロレスを、よろしく頼む!」

 「(旧約聖書によると)ノアは世界が滅びるときに方舟を作り、人間の種を残そうとしました。三沢さんがなぜ、新団体にノアと名付け、何を立ち上げようとしたのか? その意味合いを自分なりに必死に考えると、プロレスリング・ノアは、プロレスの未来にすばらしい闘いを伝え、残さないといけないと考えています。その思いをシオに託しました。ですから『頼むぞ!』は本心です。彼は、受け止めてくれたと思います」

 日本武道館で引退を決意した。そして11月17日、愛知県体育館で引退試合を迎える。対戦相手は丸藤正道。すべてを「受け切る」約束を守り、逃げ出さなかった男。齋藤彰俊。連載の最後に心の糧を告白した。

(続く。敬称略)