高校サッカー界の絶対王者・青森山田に、毎年予選決勝で全国行きを阻まれ続けている八戸学院野辺地西。今年度新人戦は1点差逆転負け。インターハイはラスト10分の失点で0-1と敗戦。そして11月4日。8年連続で同一カードとなった全国高校サッカー選…

 高校サッカー界の絶対王者・青森山田に、毎年予選決勝で全国行きを阻まれ続けている八戸学院野辺地西。今年度新人戦は1点差逆転負け。インターハイはラスト10分の失点で0-1と敗戦。そして11月4日。8年連続で同一カードとなった全国高校サッカー選手権青森県予選決勝で、八戸学院野辺地西は三たび青森山田と対峙した。

前編「八戸学院野辺地西の歴史 監督や選手の想い」>>


八戸学院野辺地西は全国高校サッカー選手権青森県予選決勝で青森山田と対戦

 photo by Tsuchiya Masashi

 2024年の3月下旬。八戸学院野辺地西高校の選手たちの姿は、埼玉スタジアム2002のスタンドにあった。

「浦和カップという大会に行った時に、最終日の会場が浦和学院高校で、試合をしていたら『ここから歩いて5分で埼スタに行けるよ』と言われたので、『浦和レッズを見に行こう』ということで埼スタに行きました」。三上晃監督は続けて、遠征時のこだわりについてこう明かす。

「ウチは遠征で必ずサッカー以外の体験を"何かひとつ"入れるんです。Jリーグを見るのもそうですし、千葉に行った時は牛久大仏を見に行ったり、東京で戦争の歴史館を見せたこともあります。やっぱりサッカーだけではない何かを持ち帰ってほしいですし、それは欠かさずやっていますね。我々が倒そうとしている相手は相当大きな相手なので、自分たちの人としての器の部分も広げていく必要があるんですよ。そういう力のある子が最終的に間違いなくピッチで頑張れる選手になるんです」

【インターハイでの対戦で自信】

 関東の強豪校を筆頭に24チームが集まった浦和カップで、八戸学院野辺地西は堂々の準優勝。県外のチームとも実戦経験を積み重ね、確かな結果も手繰り寄せたチームは、さらに小さくない自信を纏うことに成功する。

「今年の野西(八戸学院野辺地西)はシーズンが始まってからみるみる成長していて、今日は山田に勝つ自信もすごくあったので、本当に悔しいですね」。3年生FWの成田涼雅はそう言って唇を噛み締める。

 6月3日。インターハイ青森県予選決勝。試合後のスコアボードには1-0という数字が刻まれていた。決勝点が記録されたのは後半のラスト10分。際どいところまで青森山田を追い詰めたものの、八戸学院野辺地西は県新人大会に続いて、1点差での敗戦を突きつけられた。

 勝機はあった。キャプテンの堀田一希と成田の2トップは再三にわたってチャンスを作り出し、前半には成田のシュートがゴールポストを叩く場面も。守備陣もセンターバックの奈良良祐を中心に、青森山田のアタックをひとつずつ凌いでいく。

 だが、終盤に差し掛かったタイミングで先制点を献上。「1本どっちかが決めれば流れが変わるという試合だったと思うんですけど、そのなかで自分たちがその1本を決めきれなかったので、力不足を感じました」。堀田は矢印を自分たちに向ける。確かな手応えがあったからこそ、勝利への自信があったからこそ、余計に悔しかった。

 それでも王者を苦しめた2トップは、ポジティブに前を向く。

「決定機も山田より多かったと思いますし、ここからもっと練習から頑張って、もっと成長していければ、選手権は絶対に勝てるんじゃないかなと思います」(成田)

「ここまで着実に成長していることは感じているので、明日から切り替えていきたいですし、自分たちには"のびしろ"しかないなと思っています」(堀田)

 ラストチャンスとなる選手権予選に向けて、再び八戸学院野辺地西の選手たちは走り出した。

 指揮官は2024年のチームの特徴を、このように語っている。「ウチらスタッフもワクワクさせてもらえるような、目に見える成長をしているチームだなと感じます。その理由はやっぱり人間性なんですよ。素直な子が多いですし、僕らからのヒントや要求が入っていきやすいので、そうすると最終的にいいチームになるんだなと思いますね」。

 選手たちはさまざまな経験を重ねることで、人としての器の部分を少しずつ、少しずつ、広げてきた。教員生活21年目の三上監督にとって、サッカーは教育の一環でもあり、常に全力で取り組んでほしいもの。その意志を十分に理解し、たゆまぬ努力を続けてきた3年生にとっても集大成となる、最後の大勝負がやってくる。

【8年連続同一カード 高校選手権青森県予選決勝】

 11月4日。8年連続で同一カードとなった高校選手権青森県予選決勝。八戸学院野辺地西は県新人大会、インターハイ予選に続いて、三たび青森山田とファイナルで対峙した。

 成田は高校進学時に青森山田のセレクションに落ちている。「『山田を倒せるのは野西しかない』と、『野西で歴史を変えたい』と思ってきましたし、この決勝のためだけに、このメンバーで3年間やってきたので、山田に勝つ自信はとてもありました」。

 センターバックの3年生田村蓮琥は、中学進学時にやはり青森山田のセレクションで不合格を言い渡されていた。「高校に入る時は『山田を倒したい』という気持ちが強かったですし、自分は新人大会とインターハイの決勝に出られなかったので、ずっと青森山田との試合に出たい気持ちがありました」。

 それぞれが、それぞれの想いを胸に、決戦のピッチへと足を踏み入れた。

 立ち上がりからペースを掴んだのは八戸学院野辺地西。前半19分。3年生のMF芋田脩南が左サイドからクロスを上げると、飛び込んだ成田のヘディングがゴールネットを揺らす。「決めたら絶対にスタンドに行って、応援してくれるみんなと喜び合いたかったので、あれはいい景色でした」(成田)。幸先よく1点のリードを奪う。

 だが、2年生ボランチの阿部莞太はチームの変化を敏感に感じ取っていた。「山田が怖いとかは別になくて、『みんなで守ろう』という感じだったんですけど、点が入ってからはちょっと守りに入ってしまったかなと」。前半終了間際の38分に失点。1-1に追いつかれた格好でハーフタイムに入る。


八戸学院野辺地西は青森山田に先制したゲーム展開だったが......

 photo by Tsuchiya Masashi

「みんなも『0-0に戻っただけだ』と言っていて、前向きな雰囲気でしたし、後半も最初の15分を集中していれば展開は違ったと思うんですけど、逆に山田がギアを上げてきたなかで、あの失点で流れは変わったと思います」(堀田)

「あの失点」が生まれたのは後半4分。八戸学院野辺地西はPKを与え、逆転を許してしまう。追いかける展開を強いられたチームは、懸命にもう1点を目指して奮闘するものの、相手の堅陣を崩しきるまでには至らない。

 3バックにして勝負に出た終盤の37分には、カウンターから3失点目。「残念ですけど、やっぱり山田は強かったです」(三上監督)。8度目の正直、ならず。2024年の八戸学院野辺地西も青森山田の牙城を崩すことは叶わなかった。

【青森山田の壁を越えられず、わかったこと】

 決勝翌日。まだ肌寒さも残る朝9時から、八戸学院野辺地西は十和田湖にほど近いグラウンドで再始動を切っていた。もう3日後には新チームで臨む県新人大会が。さらに1カ月後にはプリンスリーグ東北昇格を懸けたプレーオフが控えている。この日は県新人大会を戦う1、2年生チームと3年生チームの紅白戦も行なわれ、選手たちはピッチ上でバチバチと火花を散らせていた。


決勝翌日から次に向けての練習が始まった

 photo by Tsuchiya Masashi

 2年生GKの喜村孝太朗は先輩の涙が忘れられないという。「PKを与えてしまった先輩が責任を感じてメッチャ泣いていたんですけど、自分がPKを止めていたら、まだ十分にやれたゲームだったので、来年は絶対にチームを救えるキーパーになりたいなと思いました」。

 新チームでも主軸としての活躍が期待される阿部は、あらためて感じた想いをこう口にする。「試合に出ていない人もすごく声を出してくれて、ロッカールームでも声を掛けてくれて、そういう3年生を勝たせられなかったのが本当に悔しかったので、来年は先輩たちの分も頑張って、絶対に山田に勝ちたいと思いました」。

 堀田は前日のことを思い出し、時折声を詰まらせる。「自分は兄も野西にいて、山田に負けて悔しい想いをして帰ってきたのを見て、もともと県外に行こうとしていたんですけど、最後の最後に『やっぱり野西に入って、山田に勝って歴史を変えることに意味があるな』と思ってここに来たので、試合が終わった瞬間はこれまでやってきた3年間を思い出してしまいましたし、今まで支えてくれた人に恩返しできなかったのは心残りです」。

 ただ、青森山田の壁を越えられなかったからこそ、わかったこともある。それは日常の環境の大切さ。彼らはプレミアリーグに身を置き、世代でもトップレベルの相手としのぎを削っている。一方で自分たちはプリンスリーグ昇格にあと一歩まで迫りながら、県リーグにとどまっていることで、1年を通じて図れる成長の幅には大きな差があるのを肌で感じていた。

「来年の新チームが山田に勝つためにも、日常の水準を上げるためにも、最後は自分たちがプリンスリーグに昇格して、後輩に置き土産を置いていけるように、ここからまた切り替えてやっていきたいです」。堀田は力強く言いきった。

【絶対王者を倒すための戦いはずっと続く】

「子どもたちを国立競技場で行進させられれば、また劇的にいろいろなものが変わるんでしょうけど、まず山田にひとつ勝たないことには何も始まらないと思っています。でも、地道にやるしかないのかなとは、昨日の決勝を見ても思いますよね。近道はないので、ずっとやり続けていくしかないのかなと」

 そう話した三上監督は、この日の練習後も県内の2つの中学校に赴き、進学を希望している中学生に会うという。「今月末には修学旅行で京都と大阪に行ってきます。もうユニバーサルスタジオも6回目ですよ(笑)。この20年間もあっという間でしたし、1日もあっという間に終わりますし、まともに休めることはほとんどないですけど、やっぱりサッカーが好きですからね」。そんな言葉と笑顔を残して、アクセルを踏み込んだ指揮官の車は山あいの道へと消えていった。

 11月11日。県新人大会決勝。八戸学院野辺地西は青森山田に0-1で敗れた。新チームもまずは悔しい負けからスタートを切る格好となったが、青森の高校サッカー界に身を置く限り、絶対王者を倒すための彼らの戦いは、これからもずっと、ずっと、続いていく。
(おわり)