2022年の第98回箱根駅伝で初出場し、19位となった駿河台大の一員として当時31歳で4区を走った今井隆生さん(34)が、埼玉・鶴ケ島市立藤中の顧問として男子チームを全国中学校駅伝(12月15日、滋賀・野洲市)へ初出場に導いた。「過去の自…

 2022年の第98回箱根駅伝で初出場し、19位となった駿河台大の一員として当時31歳で4区を走った今井隆生さん(34)が、埼玉・鶴ケ島市立藤中の顧問として男子チームを全国中学校駅伝(12月15日、滋賀・野洲市)へ初出場に導いた。「過去の自分、昨日の自分を超えよう」をテーマに掲げて指導し、昨年2位だった埼玉県大会(2日)で圧勝。エースで主将の植松遼(3年)は「将来は箱根駅伝を走りたい」と目を輝かせる。「箱根への道」を全力で駆け抜けた今井先生は、次世代のランナーを育てている。

 日の入りが早くなり、すっかり暗くなった晩秋の校庭で藤中駅伝チームは元気に走っていた。懐中電灯で足元を照らされた250メートルの土トラック。男子(11人)と女子(10人)に分かれて、200メートル8本のインターバル練習が行われた。

 「残り3本、きつくなってからが本当の練習だぞ!」。今井先生のゲキに応え、生徒は最後まで走り切った。

 埼玉県大会で男子が初優勝。優勝校だけが出場できる全国大会と上位4校が進む関東大会(12月1日、山梨・南アルプス市)の出場権を獲得した。女子は3位で関東大会に進んだ。「男子は昨年2位だった悔しさを忘れずに勝った。女子も持てる力を出し切った」と今井先生は練習中の厳しい表情と一変し、笑顔で話した。

 今井先生は20年4月に「もっといい先生になりたい」という思いで、教員の「自己啓発等休業」を活用し、駿河台大心理学部3年に編入学した。同時に東京・大泉高時代からの夢だった箱根駅伝出場を追いかけ、駅伝部に入部。1年目は予選会で敗退したが、ラストチャンスの2年目に駿河台大の初出場に貢献した。22年1月の本戦では4区に出走。区間最下位に終わったが、タスキを埼玉・越生中教師時代の教え子でもある5区の永井竜二(当時3年)に託した後、徳本一善監督(45)が運営管理車から「2年間、ありがとう。謝ったらブッ飛ばすから!」と独特の表現で今井先生をたたえたことは箱根駅伝史に残る名場面となった。

 22年4月、教師に復帰。飯能市立南高麗(こま)中学校を経て、昨年4月に藤中に異動。今年は2年1組を担任している。学校業務が終わった後には全国大会出場費用の協力を仰ぐために市会議員や地元企業などを回ることも多い。「全国大会に出場することで、お金の面がこんなに大変とは知りませんでした。毎日、忙しいですけど、充実しています」と話す。竹田聡校長(60)も地元の祭り会場に募金箱を設置するなど奮闘中だが、まだ、必要な金額に達していないという。竹田校長は「多くの方々が生徒が頑張っていることを知っているので、多くの方々に応援してもらっています」と感謝する。

 生徒たちの今井先生への信頼は厚い。男子主将の植松君は「厳しいですけど、すごく熱心。先生と一緒に、みんなで頑張って、全国大会で優勝を目指します」と言葉に力を込めて話した。女子主将の高橋枇衣那さんは(3年)は「私たちも全国大会に行きたかった。その分、関東大会では優勝したい。今井先生は、一人ひとりと真剣に向き合ってくれるので期待に応えたいです」ときっぱり話した。

 エースの植松君は今年8月の全日本中学陸上3000メートルで5位入賞した実力者。「将来は箱根駅伝に出場したい。近所(藤中から約2キロ)の東洋大か、藤中の大先輩の伊地知賢造さん(現ヤクルト)が活躍した国学院大に行きたいです」と目を輝かせて話す。

 今井先生の教育・指導方針は「過去の自分、昨日の自分を超えよう」。それは自分自身に対しても同じ。「これまで私の最高点は22年の箱根駅伝4区。それを超えたい。藤中が関東大会や全国大会で活躍したり、将来、植松たちが箱根駅伝で活躍してくれれば超えられると思っています」

 今では、珍しくなりつつある熱血教師。かつて箱根路を沸かせた今井先生は、将来、教え子が箱根路を沸かせることを願っている。(竹内 達朗)

 ◆今井 隆生(いまい・たかお)1990年8月31日、東京・保谷市(現・西東京市)生まれ。34歳。大泉高では陸上部。2009年に日体大入学後、トライアスロンに転向。13年に卒業し、トライアスロン実業団ケンズへ。16年に引退し、その後、埼玉県の中学校教員に採用された。自己ベスト記録は5000メートル14分11秒10、1万メートル29分26秒99、ハーフマラソン1時間4分11秒。マラソン2時間19分24秒。165センチ、52キロ。

 ◆埼玉県鶴ケ島市立藤(ふじ)中学校 1979年4月、開校。所在地は鶴ケ島市藤金。生徒数は約500人(各学年5クラス)の中規模校。学校教育目標は「ともに学び、未来を拓(ひら)く たくましい生徒の育成」。主な陸上部OBは名倉雅弥(86年アジア大会男子200メートル銅メダル)、伊地知賢造(21年全日本大学駅伝8区区間賞)。