中学硬式名門・枚方ボーイズに復帰…鍛治舎巧監督の「変化の先頭に立つ」指導論 少年野球における指導者と選手の“距離感”は、時代とともに変化している。中学硬式野球の大阪・枚方ボーイズに復帰した鍛治舎巧監督は「従属させるような言葉はいらない」と、…

中学硬式名門・枚方ボーイズに復帰…鍛治舎巧監督の「変化の先頭に立つ」指導論

 少年野球における指導者と選手の“距離感”は、時代とともに変化している。中学硬式野球の大阪・枚方ボーイズに復帰した鍛治舎巧監督は「従属させるような言葉はいらない」と、子どもたちへの支配的な言葉を撤廃した。今年で73歳を迎えた名将は、SNSを駆使してコミュニケーションを深め、チームの強化に取り組んでいる。

 チームにおいて監督は絶対的な存在だが、枚方ボーイズの“声かけ”は他とは異なる。グラウンドで指示を受けた子どもたちは、指導者に向け「OK!」や「なるほど」などと返事を返す。チームの主役はあくまで選手たち。監督を含め指導者たちが、高圧的な言葉でグラウンドを支配する環境は求めていないという。

 一見、大人との“上下関係”を無視したコミュニケーションにも見えるが、鍛治舎監督は「私は従属させるのが嫌い。『はい!』なんて言葉はいらない。返事は『OK』でいい。納得して理解できれば『なるほど』と言うように伝えている。子どもたちは普段から主体性を持つことが重要なのです」と、理由を説明する。

 グラウンド以外では、必要ならばLINEを使い選手、コーチ、保護者とやり取りをする。全体では話せないことも、1対1なら正直な答えや、抱えている悩みを吐露してくれる。県岐阜商(岐阜)の監督に就任してからSNSを積極的に活用しており、「練習メニューや個々の数値なども共有して、起用の意図などを伝えることもあります。個々はバラバラでも俯瞰して知ることもできます」と口にする。

指導者の資質も問われる時代に「維持することは後退だと思っている」

 社会人、高校、中学で監督を務め、アマチュア野球を知り尽くす鍛治舎監督。過去の指導法にとらわれず、時代の変化にも柔軟に対応するフレキシビリティはどこから生まれるのか。信条にしているのは経済学者のピーター・ドラッカーが残した「変化はコントロールできない。できることは変化の先頭に立つことだけ」という言葉だという。

「どんなことも、“守りの姿勢”では難しいですよね。時代は常に変化し続ける。これは野球界も同じです。では、どうするのか? 自分が先頭に立って変化を起こしていくしかない。選手も変われば、指導者も変わる。維持することは後退だと思っている」

 中学野球に復帰し、今度は選手たちを高校球界へ送り出す立場に戻った。秋を迎え新チームに移行したが、3年生たちは高校入学直前までグラウンドに姿を見せる。練習以外にも近隣のチームを招き、リーグの垣根を越えた教育リーグで実戦をこなしていく。これは鍛治舎監督が枚方ボーイズに携わるようになった当時から続けていることだ。

「秋から冬にかけて、中学3年生はこの時期が一番伸びる。高校に入ってすぐに活躍できるようにするのも我々の務め。選手を迎え入れてくれた高校に対する品質保証、信用問題です。無責任なことはできません」

 チームの勝利だけでなく子どもたちの成長をサポートし、進学後のケアも怠ることはない。過去に12度の全国制覇を果たした“古巣”に帰還した名将は、歩みを止めず、進化し続ける姿をこれからも見せてくれるだろう。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)