今年のJ1リーグも残すところ、あと2試合となった。だが、例年通りの混戦で、優勝の行方はまだまだ分からない。なぜ毎年のように混戦となるのか。また、頂点に立つチームはどこか。サッカージャーナリスト後藤健生が第36節の結果を踏まえ、今シーズンの…
今年のJ1リーグも残すところ、あと2試合となった。だが、例年通りの混戦で、優勝の行方はまだまだ分からない。なぜ毎年のように混戦となるのか。また、頂点に立つチームはどこか。サッカージャーナリスト後藤健生が第36節の結果を踏まえ、今シーズンの「行方」を読み解く!
■後半は監督が思い描いた通りの「展開」に
今シーズンの浦和レッズはペア=マティアス・ヘグモ監督の下で迷走していたが、ヘグモ監督が解任され、昨シーズン指揮を執ったマチェイ・スコルジャ監督が復帰すると、次第に粘り強さを取り戻した。
2023年のAFCチャンピオンズリーグ(2022年度大会)では、サウジアラビアのアル・ヒラルに対して、スコルジャ監督率いる浦和は守備を固め、カウンターで仕留めて、1勝1分で優勝を決めた。
カウンターを決める戦術的な要素とともに、そうした劣勢の試合でも選手たちに「勝てる」という意識づけをするのがうまいのだろう。
リードして終えたものの、前半は一方的に押し込まれたサンフレッチェ広島戦。ハーフタイムを終えて広島の選手がピッチに戻ってきた後も、浦和の選手はなかなか姿を現わさなかった。
後半も前半のように広島のハイプレスを受けて押し込まれたら、逆転負けは必至。立ち上がりに、どこまで広島の攻撃を押し返せるか。そこが、この試合の勝負のカギだ。
そこで、優勢に試合を進めることができれば、広島の選手に焦りが生じる。そこを、カウンターで仕留めればいい……。
スコルジャ監督はハーフタイムをたっぷり使って、選手たちにそんな意識づけを行ったに違いない。あるいは、広島の選手たちをピッチ上で待たせることで、相手の気持ちを削ぐような効果を狙ったのか……。
スコルジャ監督というのは、そうした心理的な駆け引きができる指揮官なのであろう。少なくとも、結果的に、後半はスコルジャ監督が思い描いた通りの展開となった。
早い時間帯に2点目を取って広島の選手たちを心理的に追い込み、そして、最後は前がかりになる広島の裏を取ってカウンターでとどめを刺した。
■パシエンシア投入「攻撃力アップ」を図るも…
問題は、広島の選手たちである。前半、あれだけ素晴らしい内容の試合をしておきながら、1点を先制されたことで焦りが生じ、そして士気が落ちてしまったのだ。
いくつもの要素が関わっていたように思える。
一つは、広島がリーグ戦で連敗を喫していたこと。広島は第31節では横浜F・マリノスに6対2で大勝。第32節では、優勝争いのライバルだったFC町田ゼルビアにも完封勝利(2対0)と好調を維持していた。ところが、第34節には湘南ベルマーレ、35節には京都サンガF.C.と、ともに下位の相手に連敗を喫していた。
その「連敗」という苦い記憶が、浦和に1点を先制されたことによって選手たちの脳裏によみがえってきたのだろう。
もちろん、優勝争いという重圧もある。勝点でヴィッセル神戸にリードされている。ということは、「もう勝点を落とせない」という意識が強くなる。ハーフタイムの間に、選手たちが神戸は引き分けに終わったという情報を得ていたかどうかは分からないが、もし、この結果が耳に入っていたら、また逆に「勝利すれば首位奪還」という状況が気持ちを乱したのかもしれない。
そうしたメンタル面の影響が大きかったのだろうが、もう一つ、疲労という要素が加わっていたのかもしれない。
浦和との差が2点に開いた後、膝に手を当てたり、下を向く選手が増えていった。広島を率いるミヒャエル・スキッベ監督は、ゴンサロ・パシエンシアなど強力な交代選手をピッチ上に送り出して攻撃力アップを図ったが、攻撃の迫力が少しだけ足りなかった。
■2つのカップ戦敗退と同時に「ACL2」開幕
広島に関しては、試合過多という状況が常に指摘されていた。
リーグ戦を戦うのと並行してJリーグYBCルヴァンカップでも、天皇杯全日本選手権でも、ともに準々決勝まで戦った。ルヴァンカップが6試合、天皇杯が4試合である。
記録的な猛暑を記録した2024年の日本で、広島はこれだけの試合を戦ってきた。
そして、9月の2つのカップ戦で敗退すると同時に、ACL2が開幕。ACLエリートと違って、Jリーグ最強クラブの一つ、広島にとっては“格下”相手の試合になり、実際、開幕4連勝を飾っているが、香港とシドニーへの遠征を強いられた。
シドニー戦ではターンオーバーを実施し、主力を休ませたり、ベンチスタートとしていたが、それにしても疲労は蓄積される。
スキッベ監督は、比較的ターンオーバーをせずに、カップ戦でも主力を使い続けるタイプの監督だ。それでも、いくつもの大会で上位進出を果たしているのは、トレーニングの質や選手起用の微妙なさじ加減によるもの。その手腕は間違いない。
だが、そうやってなんとかチーム力を維持して戦ってきたとしても、疲労が蓄積していることは間違いない。
チームがうまく回っているときには、疲労の影響は表面からは見えてこない。だが、苦しい展開になると、疲労の影響が顔を出す。
浦和戦が良い例だ。
前半は、高い位置からの強烈なプレッシングだったり、トランジションで完全に浦和を上回っており、疲労の影響など微塵も感じられなかった。
ところが、1点をリードされて、精神的に追い込まれ、さらに2点目を失うと、疲労の影響がモロに出てしまった。スキッベ監督自身は、疲労の影響については否定したが、やはり疲労の色は見えていた。