東京六大学野球の最終週に行われる早慶戦は、プロ野球の巨人-阪神戦同様、長い歴史に彩られた特別な対戦だ。それだけに、この対戦に限って当該シーズンの両チームの順位や調子とは別の結果が出ることがある。5位が確定している慶大は10日、秋季リーグの…

 東京六大学野球の最終週に行われる早慶戦は、プロ野球の巨人-阪神戦同様、長い歴史に彩られた特別な対戦だ。それだけに、この対戦に限って当該シーズンの両チームの順位や調子とは別の結果が出ることがある。5位が確定している慶大は10日、秋季リーグの早大2回戦に2-1で競り勝ち、2勝0敗で勝ち点を奪取。逆に、春秋連覇決定まであと1勝としていた早大は、まさかの連敗を喫し、12日に明大と優勝決定戦を行うことになった。

 見違えるような勇姿を見せた。慶大は0-1とリードされて迎えた4回、2死一、三塁の好機で主将の本間颯太朗内野手(4年)が打席に立った。「チャンスで回してもらいましたし、なんとしても1点がほしい場面だったので、無我夢中でした。とにかくバットに当てることだけを考えていました」。早大先発の左腕・宮城誇南投手(2年)の141キロの速球に詰まらされながら、しぶとく右前へ落とす。三塁走者が同点のホームを駆け抜け、本間は一塁ベース上で歓喜の雄叫びをあげた。

 本間は昨秋にリーグ5位の打率.340をマークしたが、大学生活最終シーズンの今季は早慶戦前の時点で.045(22打数1安打)の大不振にあえいでいた。ところが早慶戦に突入するや、前日(9日)の1回戦でも、適時二塁打を放ち貴重な追加点をもぎ取った。「自分自身の結果が出ていなかったので、精神的に難しいところもありました。しかし、チームメートたちは『自分の結果が出ていないのに、何を言ってるんだ』という感じではなく、『キャプテンの言うことは聞こう』という姿勢を示してくれました。ついてきてくれた同期、後輩に感謝したいです。いいチームメートに出会えました」と感慨深げに吐露した。

 不振時と比べて、技術的に変えたところはないそうで、「メンタル面が一番だと思います。学生生活最後のカードを前に、いい意味で気持ちの割り切りができました。同期の4年生のたちと、なんとしても笑って終わりたかったんです」と強調した。

 同じ4年生で4番を打つ清原正吾内野手も、前日の4打数4安打1本塁打に続き、この日も4回に本間の同点打へつながる二塁内野安打を放った。こちらは中学・高校で野球部に所属せず、大きなハンデから始まった大学野球生活を振り返り、「全部がうまくいった4年間では全くなくて、挫折もあり、しんどい時期もありましたが、ここまでやってこられたのは、ずっとそばにいてくれた家族や同期のみんなのおかげです」と感謝を口にした。

4回表に同点タイムリーを放った慶大・本間颯太朗【写真:加治屋友輝】

 対照的に、試合を決めたのは1年生だった。同点で迎えた8回、1死一、三塁で2番に起用されていた林純司内野手が勝ち越し中犠飛を打ち上げたのだ。相手のマウンドにはこの回から、同じ1年生で入学以来12イニング無失点の早大・安田虎汰郎投手が登板していたが、誰もジャストミートしたことがないといわれる安田の“魔球”チェンジアップを、狙い通り外野まで飛ばした。林は「4年生の方々に、笑って終えてもらいたいという思いで打席に立ちました」とうなずいた。

 対戦前には単独首位に立ち優勝へあと1勝としていた早大と、5位が決まっていた慶大が、あべこべの結果となった。慶大・堀井哲也監督は「私は特別なことは言っていません。選手たちが本間主将を中心に、『きょう(勝ち点奪取を)決める』と。決めれば4年生にとって最後の試合になるけれど、その思いでひとつになったということだと思います」と評した。

 本間は来年以降も、社会人野球でプレーを続行する。清原は「早稲田戦で2連勝することだけを考えて毎日を過ごしてきたので、進路に関しては明日以降、自分と見つめ合って考えたいと思います」と進路表明を保留した。いずれにせよ、対戦前の勢いの差を覆した早慶戦の思い出を忘れることはないだろう。もちろん陸の王者の魂は、後輩にも引き継がれていく。

(Full-Count 宮脇広久)