9月9日~10日、スーパーフォーミュラのシリーズ第5戦が大分県・オートポリスで行なわれ、21歳のピエール・ガスリー(TEAM無限)が前戦の第4戦もてぎに続いて2連勝を果たした。また、このレースウィークにはガスリーがF1に緊急参戦するの…

 9月9日~10日、スーパーフォーミュラのシリーズ第5戦が大分県・オートポリスで行なわれ、21歳のピエール・ガスリー(TEAM無限)が前戦の第4戦もてぎに続いて2連勝を果たした。また、このレースウィークにはガスリーがF1に緊急参戦するのではないかという噂も浮上し、フランス出身の若武者にさらなる注目が集まっている。



オートポリスも制して2連勝を飾ったピエール・ガスリー

 昨年は熊本地震の影響で中止となったため、2年ぶりの開催となったオートポリスには土曜から熱心なレースファンが集まった。前戦のもてぎと同様に、この第5戦でもグリップ力が高い一方で劣化の早いソフトタイヤを導入。オートポリスでは初となるタイヤ2スペック制での戦いとなった。

 予選5番手からスタートしたガスリーは、スタートで一気に2番手まで浮上すると、トップを走る野尻智紀(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)との一騎打ちの展開になる。しかし、グリップ力の高いソフトをチョイスしたガスリーが、ミディアムを選択した野尻をなかなか抜くことができず、レースは次第に膠着状態となった。

 そこでガスリーはリズムを変えるべく、20周終わりにピットイン。ミディアムタイヤに履き替え、コース復帰後は懸命にプッシュした。その結果、チームが迅速なピット作業で送り出したことも功を奏し、タイヤ交換を終えてコースに戻ってきた野尻を逆転。40周目、ついにガスリーはトップに浮上した。

 レース終盤にはSUNOCO TEAM LEMANSの2台(フェリックス・ローゼンクヴィスト&大嶋和也)が背後に迫るシーンもあったが、ガスリーは危なげない走りで首位の座をがっちりとキープ。最後まで落ち着いたレース展開を見せ、そのままチェッカーフラッグを受けた。

 前戦と同じように、今回もマシンを降りたガスリーは雄叫びを上げてガッツポーズ。初めて経験するコースを2回連続で勝てたという事実は、彼にとって相当な自信につながったようだ。

「2連勝できるなんて、本当にうれしいよ! スーパーフォーミュラに参戦して間もない僕が、こうして2回も勝てたのはチームのおかげ。着実に成長していると感じている。パフォーマンスがよくなると、ドライバーとしてもモチベーションが上がるから、今は本当に最高な気分だよ。でも、もっと改善してよくなると思っているので、残りのレースも変わらずにチームとともにがんばっていきたい」

 今回の勝因をひとつ挙げるとすれば、それはスタートでのタイヤ選択だろう。ガスリーをはじめ予選上位10人は当初、ミディアムタイヤを装着してピットを後にした。ところが、グリッド上での作業禁止時間となるスタート5分前の直前になって、ガスリー陣営は急いでタイヤを交換。結果的に、上位陣のなかではガスリーだけがソフトタイヤを装着することになったのだ。

※スーパーフォーミュラでは、F1のように予選Q3で装着したタイヤを決勝スタート時に使用しなければいけない等の制限がないため、作業禁止時間になる前であればグリッド上でのタイヤ交換は可能。

 この直前の判断について、ガスリーは記者会見でこのように語った。

「レース前はミディアムでいく予定だったけど、もてぎのときと同じように、周りのライバルと違うタイヤを選択したほうが戦略的に前に出るチャンスはあるのでは、と考えたんだ。このコースはオーバーテイクをするのが難しいし、誰かの後ろで隊列を組んでレースをしたくなかったからね。

 グリッドで様子を見ていると、上位のマシンは同じミディアムを選択していた。だから、直前だったけどソフトに交換する決断をしたんだ。後方グリッドにはソフトを選択しているマシンが多くて、彼らとの位置関係を気にした部分もあったし。周りとは違う戦略でいかないと、トップに立つチャンスは少なくなると思った。

 最終的に、この戦略がうまく機能したよ。スタートもよかったし、最初のスティントでは野尻選手の後方でラップタイムを損した部分はあったけど、それでもプレッシャーをかけ続けていった。ピットストップも、ラップタイムのマネジメントも、最後はうまくいったよ」

 TEAM無限の手塚長孝監督によると、コース特性と決勝時のコンディションを加味した結果、当初はミディアムタイヤでスタートする戦略を立てていた。だが、ガスリーの強いリクエストでソフトタイヤに交換することを決断したという。

「もてぎで予選4位、オートポリスは予選5位でしたが、彼(ガスリー)のなかでこのポジションでは我慢できないんです。どうしてもトップにいきたいし、そのためのトライをしたいから、周りと違う作戦を取りたかったんだと思います。

 2スペック制になった前回と今回は、最終的には彼がどのタイヤでいくかを決めていました。周りに惑わされず違うタイヤを選択する21歳だけど、そういった(特別な)第六感みたいなものがあるのかもしれませんね」(手塚監督)

 周囲の戦略に惑わされることなく、ガスリーは勝利のために積極的に攻めた。開幕前から「勝つためにここ(スーパーフォーミュラ)に来た」と語っていたが、その並々ならぬ執念はTEAM無限の手塚監督も感じていたという。

「彼にとって、4位とか5位はいらないんですよね。勝つためにチャレンジして失敗するのは仕方がないけど、チャレンジしないで順位を落とすのは嫌。そういう思いでレースに臨んでいるんでしょう。だから、彼は勝利に対して常に貪欲ですし、最後は必ず『あとは自分が何とかする!』と言い切っちゃっていますから。

 でも、そうやって口で言うだけじゃなく、ちゃんと頭のなかで描いているものがあるのだと思います。どういう走り方をすればタイヤを助けることになるのか、常にシミュレーションをしているのでしょう。それを当たり前のようにやっているので、僕たちもすごく刺激になっています」

 シリーズ中盤で2連勝し、ガスリーのポイントランキングは2位まで浮上した。昨年のGP2に続き、今年のスーパーフォーミュラでもチャンピオンを獲得する可能性は十分にあると言えるだろう。

 そして、そんな状況のガスリーに思いがけない吉報も舞い込んできた。かねてから熱望していたF1に、早ければ今月末のマレーシアGPから参戦するのではないかという話が出てきたのだ。

 F1界は2018シーズンに向けて、マクラーレン、トロロッソ、さらにパワーユニットを供給するホンダやルノーも加わって、さまざまな動きが活発になっている。さらにここにきて、トロロッソのカルロス・サインツがシーズン途中にチームを離れてルノーに加入するのではないか、という話も急浮上してきた。これが実現すれば、トロロッソのシートはひとつ空席となり、そこにガスリーが入るのではないかと言われている。

 レース後の記者会見で、F1について質問を受けたガスリーはこのように答えた。

「いろいろ聞いているけど、僕はF1へのステップアップを夢見て毎日がんばってきた。それが叶うというのは、自分にとってはものすごくうれしいこと。そのために僕は生きているといっても過言ではない。でも、今週末(オートポリス大会)はレースで勝つことだけに集中して戦ったよ」

 F1参戦の噂について、ガスリーは明言を避けた。だが、その表情と笑顔は、「実はF1のシートが決まっているんだよ!」と書いてあるように見えた。

「ここ数日に何かしらのニュースがあるかもしれない。F1マレーシアGPはスーパーフォーミュラのSUGO大会と日程が近いけど、F1でも走ることができたら最高だね」(ガスリー)

 この言葉から察するに、少なくとも2018シーズンからのF1参戦は間違いないとみていいだろう。ただ、マレーシアGPからレギュラー参戦となれば、10月21日~22日に行なわれるスーパーフォーミュラ最終戦(鈴鹿)とF1アメリカGPの日程が重複する。そうすると、自ずとスーパーフォーミュラは欠場することが予想され、チャンピオン争いのことを考えると、関係者の間からは不安の声も上がっていた。はたして今後、ピエール・ガスリーの動向はいかに――。