2017年のJ1初優勝以降、圧倒的な強さを誇ってきた川崎フロンターレが苦しんでいる。華麗なパス・サッカーでリーグを席巻し、「絶対王者」と呼ばれるも、現在の順位は11位と、中位にとどまっている。「強い川崎」は、どうすれば復活するのか、「パス…

 2017年のJ1初優勝以降、圧倒的な強さを誇ってきた川崎フロンターレが苦しんでいる。華麗なパス・サッカーでリーグを席巻し、「絶対王者」と呼ばれるも、現在の順位は11位と、中位にとどまっている。「強い川崎」は、どうすれば復活するのか、「パス・サッカー」をこよなく愛するサッカージャーナリストの後藤健生が、鬼木達監督去りし後の川崎に思いを馳せる。

■パス・サッカー継続のために「必要なこと」

 川崎フロンターレでは、すでに鬼木達監督の今シーズン限りでの退任が発表されている。

 では、来シーズン以降、川崎はどんなサッカーを目指していくのだろうか。

「パス・サッカー」は川崎のアイデンティティーのようなもの。川崎が「カウンタープレス」型のサッカーに変わってしまうのは、「パス・サッカー」が大好物の僕にとっても、等々力のスタンドを埋める川崎サポーターにとっても寂しい限りだ。

 当然、「パス・サッカー」を続けてほしいのだが、それを成功させるためには基礎に立ち返って、パス技術をさらに高めていく必要がある。「パス技術」というのは、ボール・コントロールやキックの技術のことだけではない。そうしたテクニックは当然の前提として、カウンタープレス型のチームからの厳しいチェックを外して確実にパスを回すために、かつての全盛期のように相手のマークを外して、フリーのスペースを作る作業を徹底しなければならない。

 対戦相手のプレッシングは5年前より確実に強くなっており、また、川崎のサッカーに対する対策も進んでいる現在、パス・サッカーで勝利を重ねるのは難しくなっている。

■等々力陸上競技場が「サッカー専用」に!

 等々力陸上競技場が再整備されて、球技専用スタジアムに改修されることがすでに決まっている。東急が中心となって、富士通や川崎フロンターレも出資する川崎とどろきパーク株式会社が主体となって等々力緑地全体を再編整備する計画の一環として行われるものだ。

 これまで、東日本ではスタジアム建築は国や自治体によって行われる場合が多く、結果として陸上競技場が多く、球技専用スタジアムの開発は遅れていた(大規模な専用スタジアムは埼玉スタジアム、カシマサッカースタジアムくらいで、国立も味の素スタジアムも、日産スタジアムも臨場感の乏しい陸上兼用スタジアムだった。

 一方、西日本では2016年完成のパナソニックスタジアム吹田を初めとして、専用スタジアムが次々と建設されており、2024年にも広島と長崎で新スタジアムが完成している。いずれも、民間資本が導入されることによって、Jリーグの開催に特化したスタジアムとなったのだ。

 そして、等々力ではようやく民間資本が導入されて、本格的なサッカー・スタジアムが整備されることになった。完成時期はまだ未定だが、数年後には素晴らしい新スタジアムが完成する。それまでに、フロンターレが新しいスタイルのサッカーを完成させることを期待したい。

 時間はかかってもいいから、一貫性のあるチーム作りをしてほしい。

■ACLエリート上海戦で見えた「ヒント」

 そんな川崎は、鹿島戦から中3日で迎えたACLエリート第4節で中国の上海海港FCと対戦して3対1で勝利した。

 この試合の前半は、川崎が完全に試合をコントロールした。前線からのプレスで相手を混乱に陥れ、ボールを奪われてもトランジション(攻守の切り替え)の早さですぐにボールを回収。全盛期と同じように、軽快なリズムでパスが回り、そして前線のエリソンやサイドに展開する長いパスも織り交ぜて攻撃を続けた。

 12分には左サイドバックの三浦颯太がスピードドリブルで突破し、相手DFが跳ね返したボールを家長昭博が決めて先制すると、13分にも橘田健人からトップのエリソンに縦パスが通り、エリソンの強いシュートを相手GKの顔駿凌が弾いたところをトップ起用された瀬川祐輔が決めて2点目。そして、33分にもエリソンが折り返したボールを瀬川がスルーして、上がってきたサイドバックのファンウェルメルスケルケン際が決めて3点目を奪った。

 後半は、リスクを取って攻撃に転じた上海海港の攻撃に危険な場面も多かったが、守備陣が踏ん張って1失点で凌いで勝利。

 まるで、鹿島戦とは逆の展開で、同じ3対1のスコアの勝利となった。

 実は、上海海港は11月2日の土曜日に天津を破って中国超級聯賽(スーパーリーグ)の優勝を決めたばかり。中2日の試合であり、リーグ優勝を決めた直後。さらに、負傷者もあり、エースの武磊(ウー・レイ)も体調不良で帰国と、チーム状態が良くなかった。

 上海を率いるケビン・マスカット監督(横浜F・マリノス元監督)は「前半はメンタルの問題があり、川崎にプレスをかけられると、すぐにボールを下げてしまった」と語っていた。そもそも、中国のチームは川崎のようなパス回しやハイプレスを経験していないし、対策も十分ではない。そういう相手と戦えば、川崎のパス・サッカーは輝くことができるのだ。

 それを、分析・対策が進んでいるJリーグ勢相手にも見せることができるかどうか。王者復活のためには、それが問題となるはずだ。

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