2017年のJ1初優勝以降、圧倒的な強さを誇ってきた川崎フロンターレが苦しんでいる。華麗なパス・サッカーでリーグを席巻し、「絶対王者」と呼ばれるも、現在の順位は11位と、中位にとどまっている。「強い川崎」は、どうすれば復活するのか、「パス…
2017年のJ1初優勝以降、圧倒的な強さを誇ってきた川崎フロンターレが苦しんでいる。華麗なパス・サッカーでリーグを席巻し、「絶対王者」と呼ばれるも、現在の順位は11位と、中位にとどまっている。「強い川崎」は、どうすれば復活するのか、「パス・サッカー」をこよなく愛するサッカージャーナリストの後藤健生が、鬼木達監督去りし後の川崎に思いを馳せる。
■挑み続ける「パスがうまい」選手たち
今でも川崎フロンターレにはパスがうまい選手がそろっている。
全盛期を牽引してきた家長昭博や大島僚太などのベテラン勢は当然として、その次の世代の脇阪泰斗や橘田健人、さらに今シーズン大きく成長した遠野大弥。また、今シーズン新たに加入した山本悠樹やサイドバックの三浦颯太といった選手たちも、技術が高く、正確なキックを蹴ることができる選手たちばかりだ。
そして、彼らは「パス・サッカー」に挑み続けている。
時には、川崎らしいパスが回って勝利する試合もあるが、それが続かない。攻撃が行き詰まって得点が奪えず、パスをカットされてピンチを招く試合もある……。そんな繰り返しが、現在の11位という順位につながっているのだ。
全盛期の川崎と、何が違うのだろうか?
もちろん、選手たちの顔ぶれが違う。2017年にリーグ戦初優勝を決めたときには、まだ天才、中村憲剛が健在だったし、現在、日本代表の主力として活躍している多くの選手が川崎にいて全盛期を築き上げた。
そして、中村は引退し、守田英正や旗手怜央、三笘薫、田中碧といった選手が次々とチームを離れて、ヨーロッパに活躍の場を移した。谷口彰悟のようなベテランまで、中東経由でヨーロッパに渡っていった。大島はケガがちだ。
当然、これだけの選手たちの穴を埋めることは不可能だ。川崎のパス・サッカーの質が落ちてくるのは当然のこととも言える。
しかし、現在、在籍している選手たちで、かつてのような川崎のパス・サッカーを再現することは不可能なのだろうか?
■ゆっくり回しているのに「奪えない」パス
全盛期の川崎は、とにかくショートパスを回し続けた。パスを回し続ける中で、相手の分厚い守備網の中にスペースを見つけると、そのスペースを狙って選手が入り込み、パスを通して一気に攻め込む。そこで、さらに相手陣内深くでパスを回して、再びスペースを作って攻める……。
もし、そのスペースを埋められてしまったら、無理にパスを通すのではなく、必ず攻撃を中止して、いったんボールを戻して、再びパスを回しながら相手陣内にスペースが生まれるのを待つ。
そして、その間、ゆっくりとパスを回しているにもかかわらず、相手はチャレンジすることもできなかったのだ。
大きなスペースを見つけて走らなくても、ほんの1~2メートル動くことで相手のマークから逃れることができれば、それはフリーになったのと同じだった。ちょっと、体の向きを変えるだけでも、マークは無効化できる。
そうした作業を丹念に行いながらパスを回すから、川崎のパス回しは非常にゆっくりしているにもかかわらず、相手チームはチャレンジに行けなくなってしまうのだ。
2012年から5年間、川崎で監督を務めた風間八宏(現、南葛SC監督)が落とし込んだ戦い方だ。
■進化させる必要があった「マークを外す」作業
少し動くだけでスペースを作れるし、相手のマークを外すことができる……。
それが、独特の風間の理論だ。そうした指導を通じて筑波大学を強豪校化した風間は、川崎でも指導を続ける。成果が表れるまでには時間がかかったが、チーム全員が同じような絵を描いてサッカーをするようになっていった。
ただ、風間は勝利や優勝といった「結果」にこだわる指導者ではなかったので、風間在任中はタイトルに手が届かなかった。だが、勝負にこだわる指揮官、鬼木達が跡を継ぐと、その風間が築き上げたパス・サッカーを生かして川崎は「絶対王者」となった。
だが、それから時間が経過し、選手が入れ替わるうちに、かつてのようにしっかり動くことによってスペースを作り、マークを外す作業が十分にできなくなってきてしまったのではないか。
そうした事前の作業を怠ったまま、かつてのように短いパスを回そうとすると、相手にカットされることが多くなるのは当然のことだ。
さらに、川崎がリーグ戦のタイトルを独占する間に、対戦相手は川崎のパス回しの分析・研究を繰り返してきた。なにしろ、Jリーグは相手に対して戦術的対策をしっかりするのが特徴のリーグなのだ。
川崎がパス・サッカーを継続しようとするなら、マークを外してフリーな状態を作る作業をさらに進化させる必要があったのだろう。
だが、それができないまま、自分たちのサッカーにこだわることで、川崎のパス・サッカーは行き詰まりを見せてしまったのだ。