思い切り吸った息を一気に吐き出しながら、川崎フロンターレの右サイドバック、ファンウェルメスケルケン際は「長かったぁ…」と本音を漏らした。「マジで長かったし、シーズンが終わるまでに1点を、と思っていたので」 今シーズンにオラン…
思い切り吸った息を一気に吐き出しながら、川崎フロンターレの右サイドバック、ファンウェルメスケルケン際は「長かったぁ…」と本音を漏らした。
「マジで長かったし、シーズンが終わるまでに1点を、と思っていたので」
今シーズンにオランダのNECナイメヘンから加入した際に、2月17日のヴィッセル神戸とのFUJIFILM SUPER CUP以来となるゴールが生まれたのは、ホームのUvanceとどろきスタジアムに中国の上海海港を迎えた、5日のAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)リーグステージ第4節の33分だった。
ロングボールに抜け出したFWエリソンが、ペナルティーエリアの左側で時間を作り、マイナス方向へグラウンダーのクロスを送った。FW瀬川祐輔がスルーした背後にフリーで飛び込み、際が右足を一閃した声を弾ませる。
「いい形で決められたし、何よりも前半だけで3点差にできたのは大きい」
ここでひとつの疑問が浮かびあがる。サイドバックの際が、なぜ相手ペナルティーエリア内に侵入してきたのか。答えはキックオフ直後から対面に来る左ウイング、ブラジル出身のウィリアン・ポッピと繰り広げた壮絶なデュエルにある。
「ポッピ選手はイケイケどんどんで、彼をいい形で乗らせたくない、という狙いがあった。かなりバチバチやったなかで、20分くらいから落ち着いたので」
■「前から来るけど戻らない」のスカウティング
上海海港はここまでのACLEの3試合で5得点に対して7失点。攻撃に特化する分、守備にも隙があるとスカウティングされていた。際が続ける。
「前から来るけど(守備には)戻らない、というのもあった。だから、なおさら(攻め上がった自分に)ついてこない、と思っていたので」
デュエルで圧倒して相手を沈黙させる。際が優位に立てた背景には、ホームに鹿島アントラーズを迎えた1日のJ1リーグ第35節がある。前半だけで3失点を喫した完敗に、鹿島戦を欠場した際はスタンドで悔しさを募らせていた。
「だからこそ、今日は技術どうこうよりも、気持ちの部分で相手を上回ろうと思って試合に入りましたし、それが前半の3点につながったと思う」
左ではサイドバックの三浦颯太と、サイドハーフに入った家長昭博のコンビネーションで上海海港を制圧した。意図的に自らが外に張り、中に入る家長とで相手を幻惑した三浦は、試合前に家長から飛ばされた檄をこう明かした。
「アキさん(家長)からは『お前が左の突破口になれ』と言われていました。そうした意識づけが先制点につながったと思っています」
開始12分。ゴールラインぎりぎりまで左サイドを鋭くえぐった三浦が浮き球のクロスをあげる。相手のクリアが小さくなったところを、家長が利き足とは逆の右足でボレーを叩き込んで先制すると、わずか1分後には瀬川も続いた。
■今季2度目の3得点
今シーズンの公式戦で、川崎が前半だけで3ゴールをあげるのは2度目。5月11日の北海道コンサドーレ札幌戦は、元フランス代表FWバフェティンビ・ゴミスが突出した個の力を発揮してハットトリックを達成した。
対照的に今回は、ピッチ上の選手たちが次々と前へプレッシャーをかけ、怒涛の波状攻撃を生み出した。際は「この形で次も勝てば、さらにいい流れに乗れる」と、再び中3日で敵地に乗り込む9日の京都サンガF.C.戦を見すえる。
「出るメンバーは変わるかもしれないけど、チームとして認識や意識をしっかりと共有して、やるべきプレーをみんなで落とし込む。僕のなかでは誰が出てもやることは変わらないというか、誰が出てもお互いのよさを引き出しながら、フロンターレらしいサッカーをすれば(勝てる)という感覚があります」
37歳の大ベテラン、FW小林悠は鹿島戦後にこう語っている。
「気持ちの部分でまず負けていた。試合前のロッカールームでも声が少なかったし、戦うんだ、という雰囲気をもっと作らなきゃいけなかった」
戦う上での大前提となる心の準備が、上海海港戦を前にした川崎で完璧に整い、残された今シーズンの戦いで前へ進んでいくための合言葉と化していた。
(取材・文/藤江直人)
(後編へ続く)