サッカーは世界中で愛されているスポーツである。日本から世界へと羽ばたく選手がいる一方で、近年は世界が日本のクラブに興味を示すことも。近年、世界的な大資本が複数のクラブを保有する「マルチオーナーシップ」が流行しているが、その波が日本に到達し…
■先駆けは「マンチェスター・シティ」
さて、このように国際的に複数のクラブを保有し、運営している形態を「マルチオーナーシップ」という。先駆けとなったのはレッドブルだが、もちろん、それだけではない。有名なのが「シティ・フットボール・グループ」だ。イングランドのマンチェスター・シティFCを中心に、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビのファンドグループ(ADUG)が資金を出し、マンチェスターに本社を置いて運営されている。
ADUGは2008年にマンチェスター・シティFCを買収すると、2013年にはアメリカMLS参加予定の新クラブ「ニューヨーク・シティFC」を設立し、ここで「シティ・フットボール・グループ」が誕生した。
そして翌2014年1月にはオーストラリアAリーグの「メルボルン・ハートFC」を買収して「メルボルン・シティFC」と改称、同じ2014年の7月にはJリーグ「横浜F・マリノス」の少数株主となり、以後、横浜FMのチーム運営に関与することになる。オーストラリア代表監督を辞任したアンジェ・ポステコグルーが2018年に横浜FMの監督に就任し、このクラブのサッカーを一変させるのは、シティ・グループの影響である。
■複数クラブ所有「オーナー」の数は…
この後、シティ・グループは次々と世界各地のクラブを買収、現在では世界14か国(14クラブ)をその傘下に置いている。横浜FMも2019年、2022年にJリーグ優勝を飾ったが、他のクラブもリーグ優勝や昇格など成功を収めており、世界最大のマルチオーナーシップの恩恵を受けている。
さらに、シティ・グループは、すべてではないが傘下クラブの女子チームやアカデミー(育成組織)まで、その傘下に加えており、選手育成からチャンピオンシップまで、「サッカー産業」に広く手を広げている。
ひとつの企業や一個人が同じリーグで複数クラブを所有することは、世界のどこでも禁止されている。公正な競争を考えれば当然のことと言える。だが、所属リーグが違う複数クラブの所有は禁止されていない。1人のオーナーが2か国のクラブを所有しているという段階を含めれば、「マルチオーナーシップ」は、すでに世界中に68もあるという。そして、「レッドブル・グループ」や「シティ・グループ」のような「世界戦略」を進めるグループも、現在は片手では数えられないほどになっている。
■勢いづけた「メディア王」「石油王」
イングランド・プレミアリーグ、UEFAチャンピオンズリーグなどの成功(放映権収入の高騰、世界化、世界的なマーケティングの成功)によって、サッカーは世界の投資家が注目する分野となった。
イングランドきっての名門であり、世界的にも絶大な人気をもっていたマンチェスター・ユナイテッドが1991年に株式を上場すると、1998年にはオーストラリア生まれのアメリカの実業家ルパート・マードックが持つ英国の放送会社「BスカイB」が買収、サッカーへの投資の先鞭をつけた。2003年にはロシアの石油王ロマン・アブラモビッチがチェルシーを買収、積極的な投資でひなびたロンドンの名門だったクラブをアッという間にプレミアリーグの王者に仕立て上げ、その後のサッカーへの投資を勢いづけた。
そうした投資が国境を越え、「マルチオーナーシップ」へと発展するのに、10年を要しなかったことになる。中国や東南アジアの経済成長に伴う放映権事業の世界的な拡大とともに、巨大な投資が集まることで、21世紀の最初の20年間で、サッカーは20世紀までとはまったく違った様相を呈するようになったのである。