最終ラップの1コーナーで満を持して勝負を仕掛けてトップに立ち、その周回でレース中の最速ラップタイムを記録して優勝のチェッカーフラッグを受ける、という巧緻(こうち)で熟達したレース運びでマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)がシー…

 最終ラップの1コーナーで満を持して勝負を仕掛けてトップに立ち、その周回でレース中の最速ラップタイムを記録して優勝のチェッカーフラッグを受ける、という巧緻(こうち)で熟達したレース運びでマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)がシーズン4勝目を挙げた。



ダニロ・ペトルッチ(左)とのバトルを制したマルク・マルケス(右)

 第13戦・サンマリノGPのレースウィークは、好天の週末から日曜のみ天候が崩れるという情報で、決勝日のコンディションはその予想どおりに推移して早朝から雨が降る一日になった。

 雨になると極端に滑りやすい路面で無理のきかない状況のなか、レースをリードしたのはダニロ・ペトルッチ(プラマック・レーシング/ドゥカティ)。マルケスとランキング首位のアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)が僅差でそれを追う展開が続いた。やがてドヴィツィオーゾは、レース全体の3分の2が過ぎたあたりでこの2名からやや離れて3番手をキープする位置に落ち着き、終盤の優勝争いはマルケスとペトルッチの2台に絞り込まれた。

「残り3周でも抜くことができたけれども、ここ(イタリア人選手のホームグラウンド)でダニロとバトルをするのは避けたかった。だから、抜いたときは100パーセントの力で攻めた。最終コーナーに賭けるよりは、最終ラップで勝負したほうがいいと思った」と、マルケスはレース終盤の展開を振り返っている。

 さらに、「レース中に一時は『チャンピオンシップを考えると2位でもいいかな』とも思ったけど、考え直した。優勝を目指せる手応えがあったし、(優勝と2位の得点差の)この5点が最終戦のバレンシアで影響するかもしれないから」とも話した。

 一方のペトルッチは、「マルクは最終ラップに強いのがわかっていたから、レース途中で3~4回ほどギャップを開こうとしたけれども、差を作れなかった。今日(の難しいコンディションで)はトップを維持することだけでもきつかった」と話す。

 そして、「最終ラップでは(前を奪った)マルクが少しはらんだようだったので、インを差そうと思ったら離れてしまった。その後のコーナーでもまた彼がはらんだように見えたので、もう一度インを狙ったら、さらにどんどん離れていった(笑)。最終ラップまで僕がレースをリードしていたので、2位になってしまったのは少し残念だけど、ずっと攻めた結果なので悔いはない。今日のマルクは勝つだけの走りをしていた」と勝者を称えた。

 今回のマルケスを優勝へと奮い立たせたのは、エンジンブローのためにリタイアした前戦シルバーストンの埋め合わせが必須であるという思いと、さらには完全アウェーという土地柄も大きく影響をしていたようだ。

 イタリアのサーキットは、当然ながらバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)のファンがいつも会場を埋め尽くすが、第13戦の舞台ミザノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェッリはロッシの自宅から15kmほどの距離にあり、まさに彼にとっては庭のような場所である。レース前に右脚を負傷したロッシは今回のレースを欠場したものの、レースウィークのサーキットにはロッシカラーの黄色いTシャツや帽子を被ったファンが大勢詰めかけていた。

 その一部の者たちはマルケスが転倒した際に大喜びし、彼がピットボックスへ戻る際にはブーイングを浴びせかけた。一歩間違えば大事故にもつながりかねないアクシデントでもあえて喜んでみせるような、こういったある種の悪質なファンの姿は特にイタリアのレースでは昔からつきもので、標的となる選手たちも皆プロフェッショナルだけに、表面上は淡々とやり過ごすふうを装っている。だが、底意地の悪い一部観客の態度が、逆にマルケスの心中で密かに闘争心をかき立てさせてしまったのは、彼らにとってはなんとも皮肉な結果である。

 ともあれこのレース結果により、マルケスとドヴィツィオーゾはともに199ポイントの同点でトップに並び立つことになった(形式的には表彰台回数の多いマルケスがランキング首位)。次戦のアラゴンGPは伝統的にドゥカティが苦戦する傾向の強いコースだったが、マルケスは今回のレースウィーク初日の金曜日にこんなことを話していた。

「このサーキットではこのメーカーが強い、というような考え方はもはや捨てたほうがいい。今年のドゥカティはどのコースでも速さを発揮している。オーストリアやシルバーストンでドヴィの後ろを走っているときは、弱点を探すのが難しかった。今回もドゥカティ勢はテストライダーを含めて全員がとても速い。つまり、バイクがよく走っているということ」

 一方のドヴィツィオーゾは今後のシーズン展開について、「今日みたいなレースだと25ポイントや20ポイントを簡単に失ってしまうこともある。とはいえ、チャンピオンシップは(自分とマルケス、そして16点差のマーベリック・ビニャーレスの)3名に絞られたと思う」と話した。

 2017年のMotoGPはいよいよ終盤5戦にさしかかるが、タイトル争いはここに来て振り出しに戻ったような格好である。