鹿島アントラーズに3ゴールを連取され、攻めてはシュート数がわずか2本、しかもゴールの枠へ飛んだのが0本で迎えたハーフタイム。川崎フロンターレのホーム、Uvanceとどろきスタジアムのロッカールームに語気を強めた声が響いた。「信じているのは…

 鹿島アントラーズに3ゴールを連取され、攻めてはシュート数がわずか2本、しかもゴールの枠へ飛んだのが0本で迎えたハーフタイム。川崎フロンターレのホーム、Uvanceとどろきスタジアムのロッカールームに語気を強めた声が響いた。

「信じているのは自分だけか!」
 鹿島が前半だけで3点を取れたのなら、自分たちにもできる。鬼木達監督が飛ばした檄を聞きながら、29分に負傷退場したMF脇坂泰斗に代わり、左腕にキャプテンマークを巻いて急きょ出場したFW小林悠は自問自答を繰り返した。
「今シーズンに入って何度、同じような失敗を繰り返してきただろうか」
 リザーブとして1日のJ1リーグ第35節を、ベンチから見つめていた前半。小林が目の当たりにしたのは、すべてで後塵を拝する味方の姿だった。
「前半の入りから鹿島の勢いが本当にすごかったし、対する僕たちは相手の迫力に押されてしまっていた。前半の戦い方がすべてだったし、オニさん(鬼木監督)に言われて気がつくのではなくて、これまで何度も入り方が悪い試合があったなかで、スタートからしっかりと戦う姿勢を見せなきゃいけなかった」

■三竿「アウェイで流れを断ちきる」

 今シーズンから指揮を執っていたランコ・ポポヴィッチ監督を10月6日に電撃解任。中後雅喜コーチが監督に昇格して2戦目の鹿島は、勝利だけを目的に定めて、並々ならぬ闘志を燃やして鬼門と化していた敵地へ乗り込んできた。
 とどろきスタジアムにおいて、鹿島は3勝4分け13敗と大きく負け越していた。特に2016シーズン以降は2分け6敗と未勝利が続いていただけでなく、7得点に対して18失点と攻守両面で精彩を欠いたまま今シーズンを迎えていた。
 しかし、今年3月に風向きが大きく変わった。ホームの県立カシマサッカースタジアムでの川崎戦でも、2016シーズン以降で8戦続けて未勝利だった鹿島は第4節で2-1の逆転勝利を収め、川崎に長く抱いていた苦手意識を払拭した。
 ポルトガルのサンタ・クララ、ベルギーのルーベンをへて、今夏に約1年半ぶりに鹿島へ復帰したDF三竿健斗は「今週の半ばくらいから、次はアウェイで流れを断ちきるとチーム全員で話してきた」と明かし、さらにこう続けた。
「いつもボールを保持されて、僕たちが食いついた背後を取られて悔しい思いをしてきた。それでも近年は1対1の局面を多く作って進めながら、最後のワンプレーでやられる試合が多くなっていた。川崎に勝つ確率がどんどん高まってきた、と手応えを感じているなかで、今シーズンは実際にホームで勝っていたので」

■「自分にもやれることがもっと、もっとあった」

 1対1の局面を増やそうと、鹿島が前への圧力を強めてくるのはわかっていた。しかし、川崎には心の部分における準備が足りなかった。後半に盛り返し、一矢を報いるも1-3で敗れた試合後に、37歳の小林は努めて前を向いた。
「気持ちの部分で、球際を含めたバトルでまず負けていた。試合前のロッカールームでもが少なかったし、戦うんだ、という雰囲気をもっと作らなきゃいけなかった。それを誰がやるのか。年齢などには関係なく、チームを絶対に勝たせるんだ、といった気持ちをもった選手が多いチームほど強い。その意味でも声を出すとか、自分にもやれることがもっと、もっとあったと思っています」
 2015年8月以来、ホームで9年ぶりに鹿島に黒星を喫し、さらに2010シーズン以来、14年ぶりとなるシーズンダブルも許した。鹿島との差は、勝利への執念と飢餓感をほとばしらせていたかどうか。悔しい思いを授業料に変える舞台は、AFCチャンピオンズリーグエリートを含めて、年内にあと7試合が残されている。
(取材・文/藤江直人)
(後編へつづく)

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