鹿島アントラーズが4枚の壁を作る。左から身長186cmのDF植田直通、182cmのDF関川郁万、186cmのFW徳田誉、181cmのDF三竿健斗が並び、さらに2人の味方をはさんで183cmのMFミロサヴリェヴィッチがそびえ立つ。 それでも…

 鹿島アントラーズが4枚の壁を作る。左から身長186cmのDF植田直通、182cmのDF関川郁万、186cmのFW徳田誉、181cmのDF三竿健斗が並び、さらに2人の味方をはさんで183cmのMFミロサヴリェヴィッチがそびえ立つ。

 それでも、川崎フロンターレのMF山本悠樹はまったく意に介さなかった。
「直接フリーキックはボールと自分、そしてゴールだけの世界に入れるか、入れないかにかかってくる。外的な要因がたくさんありますけど、そのなかでいかに自分の世界のなかに入れるか。あの場面では自然と落ち着いて蹴れました」
 右足のインサイドキックですくい上げられたボールは、ジャンプした三竿の頭上を越えてから一気に高度を下げ、さらに美しい弧を描きながらゴール左隅を急襲。必死にダイブした鹿島の守護神、早川友基の右手を弾いてネットを揺らした。
 川崎のホーム、Uvanceとどろきスタジアムに鹿島を迎えたJ1リーグ第35節の後半アディショナルタイム92分。3点のビハインドを背負った川崎が一矢を報いた一撃は、今シーズンに加入した山本が移籍後で初めて、ガンバ大阪時代を含めれば2022年3月6日の川崎戦以来、971日ぶりに決めた通算4ゴール目だった。

大島僚太と山本悠樹の関係

「展開も展開だったのであまり喜べなかったけど、ゴールから遠ざかっていたので、ひとつ取れたのは個人的には大きい。それよりも、勝てなかったのが悔しい」
 試合後にゴールをこう振り返った山本は、ダブルボランチの一角として先発フル出場。そして70分を境に、コンビを組むパートナーが河原創から、右ハムストリングの肉離れで戦列を1カ月あまり離れていた大島僚太に代わった。
 パスの供給能力に長ける大島と山本が、同時にピッチに立ったケースはこれまで一度しかない。8月17日の横浜F・マリノス戦での7分間だけで、山本も「一緒にプレーする時間が短かった」と、練習でもほとんど組んでいないと示唆した。
 それでも2人のプレーから、ぎこちなさの類は微塵にも伝わってこない。山本が「お互いの立ち位置を見ながら、何をしたいのかをくみ取る形でプレーしていた」と明かしたように、感性をフル稼働させながら攻撃を組み立てていた。
「ボールを受ける前の体の向きであるとか、首を振る回数といったところから何となく意図も伝わってくる。僚太さんのところで時間を作ってくれる分、自分がいいポジションを取る動きもできるし、逆に僚太さんのところを空けられるような立ち位置を自分が取ったときには、簡単に前へと進める場面もあったので」
 特に言葉も必要なかったと明かした山本は、さらにこう語っている。
「お互いにやりたいプレーや意図を伝えるのが得意なので、いい感じに組み合わせていけばさらにチャンスも作れると思うし、そういう時間を増やしいきたい」

■再びの黒星先行

 試合はそのまま1-3で敗れ、ホームのとどろきスタジアムで、鹿島に9年ぶりとなる黒星を喫した。3月に敵地でも逆転負けしている川崎は、昨シーズンまで8年間にわたってリーグ戦で12勝4分けと無敗を続けるなど、お得意様としていた鹿島に2010シーズン以来、実に14年ぶりとなるシーズンダブルも許した。
 開幕から苦戦を強いられてきた今シーズンを振り返ってみても、同じチームにホーム、アウェイともに負けるのは初めて。リーグ戦の通算成績も11勝11分け12敗と再び黒星が先行し、特に28分までに3失点を喫した前半の戦い方に課題を残したのと引き換えに、攻撃面での可能性を感じさせる新たなペアが産声をあげた。
(取材・文/藤江直人)

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