SC軽井沢クラブ上野結生インタビュー(後編)photo by Fujimaki Goh――昨季(2023-2024シーズン)初優勝を飾った日本選手権についての話を聞かせてください。まず、どのようなチーム状態で札幌入りしたのでしょうか。「昨シ…
SC軽井沢クラブ
上野結生インタビュー(後編)
photo by Fujimaki Goh
――昨季(2023-2024シーズン)初優勝を飾った日本選手権についての話を聞かせてください。まず、どのようなチーム状態で札幌入りしたのでしょうか。
「昨シーズンのカナダ遠征では、日本のチーム相手に何勝かできたのですが、優勝は一度もできなかったので、チームとして勝ちきることが課題のひとつでした。(日本選手権では)戦える手応えはありましたし、もちろん目標は優勝だったんですけど、『絶対に優勝できる!』という感じではなく、正直、五分五分ぐらいの感覚でした」
――大会に入って、その"手応え"が自信や期待に変わっていったのは、どの辺りからでしょうか。
「1次予選リーグで、フォルティウスさん(7〇5)や中部電力さん(3●5)との対戦で、どちらもいい試合ができていたんです。続く2次予選リーグでも調子が上向きだったので、試合をするごとに波がちょっとずつ自分たちに来てるかなっていう手応えはありました。負ける試合があっても、チーム全体では特に(メンタル的に)落ちるところもなく安定していたので、それが勝因だったかもしれません」
――上野結生選手の個人的な調子はいかがでしたか。
「2次予選リーグの北海道銀行さん(4●6)との試合でテイクショットのミスが出て本当に悔しかったので、その後の準決勝、決勝ではより集中してプレーした結果、(ショットの)精度を上げることができました。自分のなかでは修正できたなと満足しています」
――確かに、北海道銀行との試合後はとても悔しそうでした。
「あの試合が、個人的には大会中に最も(ショットの)精度が落ちてしまった瞬間でした。でも、チームのみんながいつもどおりで、『気にすることないよ』と言ってくれたのはありがたかったです」
――チーム一丸となって勝ち抜いた日本選手権のあと、日本代表として初めて世界選手権に挑戦。結果は、3勝9敗で11位という悔しい成績に終わりました。
「世界選手権では(大会序盤から)なかなかいい入りができず、チーム全体で戸惑ってしまったというか。日本選手権に比べて、自分たちの持っているものが出せない、というもどかしさを常に抱えていました。初出場で、どのように戦っていくかという準備が不足していて、それが目立ってしまいました」
――具体的にはどういった点で準備が足りなかったのでしょうか。
「アリーナアイスへの対応だったり、強いチームとの戦い方であったり、相手チームの情報収集も足りていなかったと思います」
――リードで11試合、セカンドで1試合、全試合に出場してショット率も一定の数字を残した結生選手。フロントエンドとしてのご自身のパフォーマンスはいかがでしたか。
「癖と変化の大きいアイスで、曲がりもウェイトも気を遣うのは難しかったですけど、リードというアイスの情報をチームに伝えるポジションでしたから、自分が決まらなくても(チームメイトのショットの)サポートをすべきだったのですが......。自分のことでいっぱいいっぱいになってしまって。そこは反省点です」
――苦しい戦いの連続だった思いますが、収穫もあったのではないでしょうか。
「すごく悔しい結果でしたが、(予選リーグ)最終戦のイタリアとの試合(8●10)では最後まで競ることができたりと、まったく歯が立たなかったというわけではなかったので、そこでの経験を生かして来年、もう1回出場して、今度はメダル獲得を目指したいなと思っています」
――たとえば、そのイタリア代表で気になった選手や、参考になるプレーなどはありましたか。
「イタリアの(ステファニア・)コンスタンティーニ選手は年齢も近いこともあり、注目していました。ショット率も高いですし、崩れない安定感がありました。投げる前にしっかり時間を使って、自分のペースやリズムを作っているところは、すごいなと感じました」
――イタリア代表は4位でしたが、そういった世界のトップチームと戦うなかで、自分たちに足りない部分はどういったところでしょうか。
「やはりショットの安定性が、世界で戦うにはまだまだ欠けていて。レベルの高い相手でも、アイスを読むのが難しくても、どんな環境でも毎試合、変わらずにプレーできるのが、トップチームであり、勝てるチームだと思います。私たちはまず、安定性を強化していかなきゃいけない、と感じています」
――世界選手権では、日本選手権、さらにはミックスダブルス選手権でも優勝し、常に笑顔だった姉の美優選手の表情が、曇っている試合がいくつか見受けられました。
「ショットが決まらないのが一番苦しかったと思いますが、私たちが難しいショットを残してしまっていました。スイープ面でも戦術面でも、(フォースの)姉にどういうショットを残すべきか、もうちょっとみんなで考えてやっていきたいです。そういう意味は、自分の力が足りてないのは感じました」
――厳しい世界初挑戦となりましたが、それでもチームとして、個人として、いい経験になったのではないでしょうか。
「勝てなくて苦戦しながらですが、後半は自分たちのやりたいことが少しずつできるようになっていって、楽しいエンドもありました。あと、負けていてもカナダの観客は大きな拍手や声援で送り出してくれる、あの雰囲気のなかでプレーできたことは、いい経験でした。カーリングって、すごく温かいスポーツだなっていうのは感じました」
――パンコンチネンタル選手権を経て、12月には軽井沢国際カーリングを戦い、そして年明けには横浜でディフェンディングチャンピオンとして迎える日本選手権に臨みます。
「(横浜開催の日本選手権は)アイスが未知で、どうなるかっていうのがつかめていなくて。理想は曲がるアイスなんですが、どういうアイスでも戦える準備をしていきます。前回大会では優勝できましたが、チャンピオンという気持ちではなく、またイチからチームでやることをしっかりこなして、一歩ずつ優勝に近づいていけたら......そう思っています」
(おわり)
SC軽井沢クラブの上野結生(右)と姉の美優(左) photo by Fujimaki Goh
上野結生(うえの・ゆい)
2002年12月17日生まれ。長野県軽井沢町出身。SC軽井沢クラブ所属。8歳でカーリングを始め、器用で安定したショットを武器にジュニア時代からフロントエンドの選手として頭角を現わす。2022年から3年連続で世界ジュニア選手権ファイナルの舞台に立つなど、輝かしい実績も残している。2024年に日本選手権で初優勝を果たし、世界選手権のアイスでも好ショットを重ねた。長野大学環境ツーリズム学部4年生。趣味は編み物。