3シーズンぶりのJ1復帰を決めた直後の公式会見。オレンジ色の昇格記念Tシャツを重ね着して、同色のマフラーを首に巻いて登壇した清水エスパルスの秋葉忠宏監督は、喜びのコメントに苦言をまじえるのも忘れなかった。「(北川)航也には説教をしてきまし…

 3シーズンぶりのJ1復帰を決めた直後の公式会見。オレンジ色の昇格記念Tシャツを重ね着して、同色のマフラーを首に巻いて登壇した清水エスパルス秋葉忠宏監督は、喜びのコメントに苦言をまじえるのも忘れなかった。

「(北川)航也には説教をしてきました。あそこはグッと我慢しなきゃいけない場面でしたし、だからこそ大いに反省してもらって、もっともっと成長するように、より素晴らしい人間になれるように、また奮起してほしいと思っています」
 栃木SCのホーム、カンセキスタジアムとちぎに乗り込んだ27日のJ2リーグ第36節。勝てば自動的にJ1昇格が決まるなかで、清水が1点をリードして迎えた83分に、状況を一変させかねないプレーが飛び出した。
 MF乾貴士に代わって70分から投入され、同時にMFカルリーニョス・ジュニオから赤いキャプテンマークをわたされていたFW北川航也が、栃木のMF森俊貴の背後からのファウルで倒され、苦悶の表情を浮かべた直後だった。
 左足で森の頭を蹴ってしまう報復行為を、前の前で見ていた岡部拓人主審が問答無用のレッドカードを北川に提示する。まさかの一発退場。アディショナルタイムを含めて15分以上もの時間を、清水は10人で戦わざるをえなくなった。

■「このチームにとって必要だったんじゃないか」

 もっとも、予期せぬ展開は清水を慌てさせなかった。むしろチーム内の団結力とピッチ上の士気を高めた。リオデジャネイロ五輪に出場したU-23日本代表で、コーチを務めていた秋葉監督の薫陶を色濃く受けたMF矢島慎也が言う。
オリンピックのときに『チームにとって必要なことしか、目の前では起こらない』と口を酸っぱくして言われていた。航也の行為に対して僕があれこれと言及することはないけど、あの場面で10人になった、というのは多分、このチームにとって必要だったんじゃないかとか、いまは受け取っています」
 北川との交代でベンチに下がった乾も、苦言のなかにエールも込めた。
「やはり10人になるべきではないし、そこは航也も反省していると思うし、次はないように反省してもらえればいい。ただ、今シーズンのチームを引っ張ってきたのはあいつだし、MVPでもおかしくないだけに、最後をこんな形で終わるのは悔しいと思う。何試合の出場停止になるのかはわからないけど、1試合で済むとは思えないので。この終わり方は可哀想だけど、自業自得なところもある。これが来シーズンのあいつ成長につながっていけばいいんじゃないかな、と」
 昇格が決まった直後。責任を感じていた北川は、人目をはばからずに号泣した。北川が巻いていたキャプテンマークを、試合後に再び手わたした原が言う。
「昇格が決まった瞬間に、彼にはピッチ立っていてほしかった。僕たちがどうこう言うまでもなく反省していると思いますけど、僕たちにとっては、キャプテンは彼しかいなかった。昇格したシーズンのキャプテンが彼でよかった」

■「攻撃を一番引っ張ってきたのは彼」

 北川からは「ありがとう」と涙声で感謝を告げられた。後半アディショナルタイムには“神ブロック”で、あわや同点の大ピンチを防いだ原が続ける。
「今シーズンのチームで攻撃を一番引っ張ってきたのは彼だし、いままで支えてもらってきた分、今日は僕を含めた守備陣が最後まで集中して戦い抜けたと思う。不幸中の幸いというか、実際に勝てたところが彼の持っているところですね」
 キャプテンが一発退場を宣告され、動揺しかねない状況で逆にモチベーションが高まった。勝てば昇格する可能性が生まれて3試合目であげた雄叫び。4試合ぶりの勝利に、実に8試合ぶりのクリーンシートで花を添えた原動力のひとつには、攻守両面で体を張ってきた北川へ、チーム全員が抱き続けてきた感謝の思いがあった。
(取材・文/藤江直人)

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