2022年にJ1・17位でまさかのJ2降格の憂き目に遭い、最高峰リーグ復帰に力を注いできた清水エスパルス。けれども、ご存じの通り、昨季は終盤に失速し、J1昇格プレーオフへ。その決勝で東京ヴェルディに敗れるという信じがたい結末となり、今季も…

 2022年にJ1・17位でまさかのJ2降格の憂き目に遭い、最高峰リーグ復帰に力を注いできた清水エスパルス。けれども、ご存じの通り、昨季は終盤に失速し、J1昇格プレーオフへ。その決勝で東京ヴェルディに敗れるという信じがたい結末となり、今季もJ2残留を余儀なくされた。

 迎えた2024年。昨季途中から指揮を執っていた秋葉忠宏監督が続投した今季はチーム成熟度を引き上げるだけでなく、フィジカル面も強化。厳しい状況でも戦い抜けるタフな集団を作ろうと取り組んできた。勝てずに苦しんだ昨季とは異なり、今季は序盤から着実に勝ち星を重ね、自動昇格圏内の2位以内をキープ。5~6月にかけて苦境に直面したこともあったが、分厚い選手層で壁をこじ開けてきたと言っていい。
 特に大きかったのが、キャプテン・北川航也、副キャプテン・山原怜音原輝綺ら中堅世代の成長だ。特に北川は今季チーム最多の12ゴールをマークし、攻撃のけん引役として大きな役割を果たしてきた。
「昨年まではチアゴ・サンタナ(浦和)がいて、自分は2列目で出たりしていたけど、今年は僕が1トップに入る形になり、『自分がやらなければいけない』『チームを勝たせたい』という気持ちが強くなった。つねに90分間、それを前面に出さないといけない」と本人も語気を強めていたことがある。
 そういった責任感を山原、原も胸に抱きながらプレー。同じ20代半ばの宮本航汰、中村亮太朗らも感じながら戦っていた。彼らが主軸としてチームの主軸としていい仕事を見せた。それが今季のポイントと見ていいだろう。

■宇野禅斗がもたらしたもの

 加えて言うと、7月に町田ゼルビアから加入した宇野禅斗がもたらしたものも少なくなかった。5月に清水入りした反町康治GMも「今のエスパルスはうまい選手は沢山いるけど、うまくて走れる選手が数多くいるとは言えない。そういう選手が必要」と語っており、デュエルやボール奪取力に秀でた宇野の補強にいち早く踏み切った。その効果は絶大で、夏場以降の清水は中盤の守備強度が確実にアップ。猛暑に見舞われた8~9月を1敗だけで乗り切れたのも、彼の運動量や献身性があってこそだろう。
 後半戦からジョーカー起用された矢島慎也西澤健太らの力も大きかった。豊富なキャリアを誇る矢島は本来、スタメンでチームをリードしたいという思いが強かったはずだが、秋葉監督の起用法を受け入れ、限られた時間で大きな仕事をすることに徹してきた。
「今、このチームが置かれてる状況とか、自分の立場とか、秋葉さんの使うタイミングとかの信頼の置かれ方的には、こういう形(途中出場)が多くなっている。そこに対する自分の気持ちの持ちようっていうのは、若い時に比べたらうまくできているのかな」と本人も神妙な面持ちで話していた。

■秋葉体制の最大の収穫

 そうやって選手個々が1人1人の役割を遂行した結果、今季の乾貴士権田修一の両日本代表経験者に依存しないチームに変化したと見ていいのではないか。やはり2022~2023年にかけての彼らは両ベテランの双肩にかかる部分が大きかったが、今季は異なるバランスが見えてきた。
「俺への依存? してないです。今年、俺、全然良くないんで。航也がすごい引っ張ってくれてるし、他の選手もすごくいいし、途中から出てくる選手も活躍してくれている。今年はみんなに救われているし、俺に依存してるとかは全くないっすね」と乾もキッパリ話したが、チームの総合力アップというのが、秋葉監督2年目の最大の収穫なのだろう。
 ただ、J1昇格王手をかけてからの水戸ホーリーホックモンテディオ山形の2試合で足踏みし、昇格を決めた10月27日の栃木SC戦でも住吉ジェラニレショーンが先制弾を決めた後、北川が相手への報復行為で退場するなど、未成熟な部分も垣間見える。小さな綻びが致命的な失敗につながることを、J1とJ2の行き来を繰り返してきた清水の面々はよく分かっているはずだ。だからこそ、細部にこだわってしっかりと勝ちきれるチームを作っていく必要がある。まずはラスト2戦でJ2優勝の大目標を果たすこと。そこに集中すべきだ。
(取材・文/元川悦子)
(後編へつづく)

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